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【伝記】 『ベーメルマンス』(J・ベーメルマンス・マルシアーノ:著 福本友美子:訳 BL出版 2011) 『マドレーヌ』シリーズでおなじみのベーメルマンスの生涯を、孫のジョンが豊富な資料を駆使して描いた、貴重な伝記です。 見たことのない資料の多さに圧倒されながら、これは単に絵本好きとかだけではなく、歴史好きや美術好きにも読んで欲しい作品だと思いました。 いつも、いつも、時代の足音がページから響いてくる感じの仕上がり。 出版してくれたBL出版と、訳してくださった福本さんに心からの感謝を! 【児童文学】 『ミンのあたらしい名前』(ジーン・リトル:作 田中奈津子:訳 講談社 2011) 捨て子だったミンが里親から施設に返されるところから物語は始まります。事の始終を見ていたジェスは、ミンを里子として連れ帰ります。 不信と恐れから人の顔を伺うミンと、自身も孤児だったジェスがどう心を通わせていくかが描かれていきます。 悪徳ビリーダーに捨てられた犬を飼うといった設定はやや強引ですが、ジェスが、ミンのプライバシーを徹底して尊重することで信頼を得ていく局面など、何が大事かがまっすぐに示されています。 『翼のある猫』(イザベル・ホーフィング:作 野坂悦子・うえだはるみ:訳 河出書房新社 上下巻 2011) いつでも眠ることが出来、見た夢を忘れない能力を持つヨシュアは、普段、後書きは最後に読むのですが、このファンタジー、上巻途中まであまり世界がつかめず、下巻のあとがきを読みました。と、ああ、そうかそれで、そうなのか。と思い、引き込まれていきました。 なので上巻を読む前に下巻のあとがきに目を通されるのもよろしいかと。 オランダ、そしてヨーロッパの歴史をある程度知っている方がおもしろいです。幸い今はウィキなどで簡単に調べられるので、年号が出てきたときは調べてみてください。 『みてよぴかぴかランドセル』(あまんきみこ:文 西巻茅子:絵 福音館 2011) ランドセルを買ってもらったカコちゃんはうれしくて、お外へ。 うらやましい子狐さん。貸して、貸して。ランドセルをしょって大喜び。次から次へと少しずつ小さな動物たちが借りますけれど、子ネズミにはちょっと大きすぎます。 泣き出す子ネズミ。でもね、 みんなを安心させる、あまんワールドですよ。 『セーラと宝の地図』(エミリー・ロッダ:作 さくまゆみこ:訳 たしろちさと:絵 あすなろ書房 2011) チュウチュウ通りもいよいよ九番地であります。 九番地に住むのは船大工のセーラ。そろそろ自分の船を欲しいなとチュウチュウ号を作ります。宝の地図が手に入って、さあ冒険だ! お約束通りの海賊も出てくるし、ちゃんと物語が進んでいくなあ。 もちろん、めでたしめでたし。 さあ、いよいよラストだ! 『ボヘミヤの不思議キャビネット』(マリー・ルツコスキ:作 圷香織:訳 創元推理文庫 2010) 舞台は十六世紀末のチェコ。腕のいい時計職人ミカエルが夜中、プラハを支配するハプスブルク家の王子の元から、娘ペトラところに帰ってくる。彼の両目は王子によってくり抜かれていた。 ペトラは父親が止めるのも聞かずに、目を取り戻し、真相を突き止めるために大都市プラハへと向かう。 プラハで得た仲間は、盗むのが上手なロマの少年ニール。別にペトラのためじゃない。王子のお宝を奪うためだ。 という魅力的な始まりをするこの物語、実在の舞台や歴史をある程度なぞらえながらも、魔法力が発現する人々が当たり前に登場したり、キーとなる不思議道具がタイトルとなったり(二作目は天球儀)、ライラの冒険を彷彿とさせる。 登場人物の癖の強さはこちらの方が上。ただし、その分奥行きが浅い。これは悪口ではなく、物語への作者のスタンスの違い。 ほどよい敷居の高さで、楽しませてくれるエンタメです。 【絵本】 『ぼくはモンスターのとこやさん』(マシュー・マケリゴット:作・絵 野口絵美:訳 徳間書店 2011) この作家は「おもしろい」ってことをよく知っています。 内容はもう、邦題通りなのですが、だからといって、中身のおもしろさがそがれるわけではありません。というか、子どもがモンスターの髪をチョキチョキってだけで、ワクワクじゃありませんか! で、ちゃ〜んと、良くできたオチもあって、良いですなあ。 『はりもぐらおじさん』(たちもとみちこ 教育画劇 2011) 仕立屋さんのはりもぐらの元に、洋服の注文にいろいろな動物がやってきます。 それは満月の夜、森の大パーティのためにです。 という1設定で、立本は描かれた絵ではなく、コラージュされ、デザインされた絵の楽しさをどんどん見せていきます。素材や柄のおもしろさと、それをどんな色使いで組み合わせていくとどんな効果が生まれるのか。絵の力を示すのではなく画面の解放された楽しさを伝えるとでも言おうか。 ラスト、観音開きの大画面、月夜のパーティで幸せになれるのはそのためです。 『どうしてそんなかお? 動物』(有沢重雄:作 今井桂三:絵 アリス館 2011) 絵本図鑑3。 ゾウ、カメレオン、コアラ、動物の顔は様々ですが、もちろんそれには個々の事情があるわけで、それを解説していきます。 大人は知っていることばかりなんでしょうけど、まだ疑問をすら持っていない子どもが疑問を持ち、なるほどと思うプロセスが出来ればOK。 その意味で、シンプルに情報を描いたこのシリーズは、なかなかよい出来です。 『やまざくらとえなが』(おおたぐろまり 「ちいさなかがくのとも」五月号 福音館) やまざくらの枝元にえながのつがいがやってきて、巣を作ります。 卵を産み、温め、雛が生まれ、えさを探し、巣立つ。 おおたぐろが描く精細で優しい画面から命の愛しさが伝わってきます。 いいなあ。 『じめんのしたの小さなむし』(たしろちさと 福音館書店 2011) ある甲虫のいもむし時代の旅を描きます。 土の中から少年に見つけ出されたいもむしは植木鉢で育てられようとします。でも、ここは居心地が良くない。 イモムシは植木鉢に底の穴から地面に抜け出し、居心地の良い土を求めて地面の中を旅するわけです。 ガラス板で挟んだ中に土を入れてアリを観察する、あのときのような画面で、イモムシの旅が描かれていくのですが、これがまあ、シンパシー感じてしまうのですね。なんでだろ? たしろの腕ですね。 アリに襲われ、モグラをかわし、ついに居心地の良い場所にたどり着き、そこで成虫になるまでのなんとワクワクしていること。 『ワンガリ・マータイさんと ケニアの木々』(ドナ・ジョー・ナポリ:作 カディール・ネルソン:絵 千葉茂樹:訳 すずき出版) 「もったいない」で日本でもおなじみのノーベル平和賞受賞者ワンガリの活動を伝える絵本。 文章がドナ・ジョー・ナポリなので、単なる伝記的絵本となっておりません。なんだかもう、伝説・昔話みたいな感じです。 カディール・ネルソンによる、布地のパターンや写真を使ったコラージュも深みを与えています。 力強いったらありゃしない。 『あおいくも』(トミー・ウンゲラー:作 今江祥智:訳 ブロンズ新社 2010) 青い雲は、他の雲と自分がちょっと違うけど気にしない。ふわふわと空でのんびり。青い雲の陰で、建物や人は青く染まる。でも流れていく雲だから、それはほんの一瞬。 いろんな肌の色の人が争っているのを見た青い雲は、ある決心をして・・・。 かなりきついユーモアとメッセージですが、ウンゲラーですから読者は構えずにそれをすっと取り込めます。 『ピーン』(古賀充 「こどものとも年少版」五月 福音館書店) 切り紙で作ったシャツや鉢植えなどが、一度クシャクシャにされてから広げて置かれてたものが写っています。ページを繰ると同じ物の白抜き画面。平面に印刷されたそれがピーンです。 白抜きのために切り取られた紙をクシャクシャとして見せているのだと思いますが、認識の一つを巧く提示しています。 というより、なんか楽しい。楽しさが伝わる。 『つるのよめさま』(松谷みよ子:文 鈴木まもる:絵 ハッピーオウル社 2011) どの出版社も昔話だ、グリムだと一杯出ていて、なんだか一斉に近代小説否定をし始めたのかなと思わせる昨今。いや、明治初期の子ども教育現場に戻ったかのようだから、次にくるのは言文一致かしらん。 それはともかく、松谷の文はそれなりとして、鳥といえば鈴木まもる。ですから、つるの描き方の本気度が違います。そこをお楽しみあれ。 『おばけかな?』(いちかわけいこ:作 西村敏雄:絵 教育画劇 2010) ひなこちゃん、お出かけ。 川がグネグネしているので、橋を何度も渡ります。そのたびになんか音がしたり、誰かがいるようだったり。 西村の絵にはちゃんとおばけが描いてあるのですが、ひなこちゃんは気づいていないという段取りです。 だから読者はおばけたちと一緒に、ひなこちゃんの「あれ? あれ?」をニヤニヤ楽しめます。 意地悪ですって? でも、ひなこちゃんもなんだか気づいてないふりをしているような気もしますよ。 『ふたりのナマケモノ』(高畠純 講談社 2010) ナマケモノのゆっくり度を描いています。 雨が降ってきたからぶら下がっている枝を移動しているうちに雨が止んだとかね。 なまけているんじゃなくゆっくりで、それはそれでいいではないかという、まっとうな絵本です。 ただし、そこのおかしみを感じてしまうのは、やはり私たちがナマケモノのゆっくり度を肯定的にはとらえていないことの証でもあります。 ところで、ナマケモノって、樹木と擬態するためと食料が少なくても生きられるように遅いだけなので、泳ぎは結構速いです。 『野の花えほん 秋と冬の花』(前田まゆみ:作 あすなろ書房 2010) とても丁寧に作られた、野の花を探して、愛でるための絵本。「春と夏の花」とこれとで四季がそろいました。 繰り返しになりますが、本当に丁寧な絵本で、野の花を好きな方には、いやいや庭がある人にも、復興の必要な土を眺めている人にも、大切な、大切な絵本になると思います。 『しゅっぽー しゅっぽー』(二見正直 偕成社 2011) 「おとうさんとぼくのえほん」シリーズの一作。 小さな子どもとおとうさんの遊ぶ姿が描かれていきます。今作は、床に線路を引いて、子どもが列車遊びをしています。寝転んだおとうさんの、少し立てたひざに間が山のトンネル。といった風に実際に遊んでいる雰囲気が良く出ています。 幼児絵本ではおとうさんは阻害されがちなので、こういうのをもっと出してください。 クレヨン描きも良いですね。 他に『ぺたたん ぱたたん』(リモコンヘリ)と『ぽんぽん てけてけ』(お風呂)が出ています。 『かみのうんどうかい』(谷内庸生:作 西山悦子:撮影 「かがくのとも」五月号 福音館書店 2011) 赤と白の紙を、様々な形に切って組み合わせ、組み体操とかジャンプとか、運動会を見せます。 紙による立体を撮影した平面の紙(ページ)というのが私たちの感覚を奇妙にします。 運動会ですから、紙たちを躍動感あふれて撮った西山の腕も確かです。 『ピザのくにへいく』(うすいかなこ 教育画劇 2010) くいしんぼうのネズミ、マロンとメロンは毎日お芋ばかり食べていて、もううんざり。テレビでピザをみて、これ食べたい! てんで、瓶の中に家財道具も入れて、二匹でピザの国を目指して海をドンブラコ。 その根性が功を奏したのか、イタリアに。でもここベニスだぞ。 まあ、いいか。 果たして二匹は、おいしいピザにありつけますでしょうか? マンガのようなコマ割りと、画面いっぱいのピザといったアップとを巧みに織り交ぜてテンポ良くすすみます。 二匹のキャラがもう少し立って欲しい気もしますが、シリーズにすれば、それはできてくるでしょう。 『元素図鑑 宇宙は92この元素でできている』(エイドリアン・ディングル:著 若林文高:監修 池内恵:訳 主婦の友社 2011) 『周期表 ゆかいな元素たち』のエイドリアン・ディングルによる、元素とそれによって出来ている物たちの解説本。 科学は、おもしろいに決まっているのですが、おもしろさの入り口がよくわからないことがままあって、この絵本はそこを突破しやすい一品です。 周期表による元素の性質の区分けなど、大人にはなんだか懐かしい話からもうおもしろい。 たった92の元素ですべてのものができている、ただそれだけで、子どもはおもしろくおもしろいのですけどね。おもしろがらせてあげて! 『カミナリこぞうがふってきた』(シゲリカツヒコ ポプラ社 2010) 突然落ちてきた、カミナリの子ども。めちゃくちゃでかい。 どうやら彼が見えるのは「ぼく」だけらしい。カミナリのおかげで「ぼく」の髪はアフロになっちゃって、クラスメイトからは笑われるし。 この子、「ぼく」になついてしまってずっとついてくる。帰れないらしい。 さあ、どうなる? って、とってもすてきな発想の絵本です。 画面構成は工夫が行き届いてうまい。ただし、背景などがいかにもそのままで、リアルでなくていいからもっと遊んで欲しい。 こんなおもしろい物語を書ける方なので、その辺り、よろしくお願いいたします。 『パパ・カレー』(武田美穂 ほるぷ出版 2011) 『ハンバーグ ハンバーグ』で、食いしん坊さんであることをカムアウトした武田美穂による、食いしん坊絵本第二弾。パパ・カレーである。 何がパパ・カレーなのかは見てのお楽しみ(というほどのことでもないが)として、まあ、絵本作家としての工夫などしゃらくさいとばかりに、淡々と普通のカレーを作っていくのだ、この絵本さんは。 ああ、おいしそう。 『フィートは はしる』(ビビ・ヂュモン・タック:文 ノエル・スミット:絵 野坂悦子:訳 光村教育図書 2011) だちょうのような大きな鳥、フィートが、ものすごい向かい風にもめげず走り続ける姿を描いた、非常に力のある作品。 よけいなことは一切なし。ただ、走ること。それも走る喜びだとか、快感だとかも関係なく、ただただ走ることへの欲望を通して、情熱が「思惑」など含まないことを、とてもシンプルに教えてくれる。 『ねずみくん ぼくもできるよ!』(きむらゆういち:作 ふくさわゆみこ:絵 ポプラ社 2011) 十二支シリーズ、今回はねずみくんです。 発表会の劇で王子様をやりたいねずみくん。でも先にいぬくんに取られてしまって、しょんぼり。でも、でも、先生が気づいてくれてねずみくんも王子様をやることに。 けど、稽古ではいぬくんが目立って、ねずみくんはほったらかし。しょんぼり。 でもね、 ちゃんとみんなを幸せに回収する木村の物語です。 『のっぺらぼう』(杉山亮:作 軽部武宏:絵 ポプラ社 2010) おなじみの怖い怖い物語。 杉山の物語と、軽部の絵ののっぺらぼうが、だんだん怖くなっていくのが良いですね。 こういうのを読んで、夜中寝られなくなる経験も大切だと思う。 『くるくるくるよおすしがくるよ』(川北亮司:文 山村浩二:絵 ブロンズ社 2011) 家族で回転寿司屋へ。おすしがくるくるとくるわけです。 カッパ巻きはやっぱりカッパになしますし、細切り海苔で巻かれたたまごはお相撲さん。といった具合。 口上のリズムよろしく、家族で楽しい寿司タイムが描かれていきます。 『大きな大きな船』(長谷川集平 ポプラ社 2009) 母親はいない。父と息子のふたり暮らし。 父は母親をかねようとするけれど、息子はそんなことをしなくていいという。 どっちの言い分も本当だし、どっちの気持ちも真実。 そして、親子であることは続いていく。 長谷川は最初言葉で語ろうとするが、しだいにそれを止め、ただ、そうあることをそうあるように描いていく。 そしてそこに日常が漂ってくる。 『南の島で』(石津ちひろ:文 原マスミ:絵 偕成社 2011) 「ぼく」が子どものころ、南の島で暮らすおばのももさんのところで過ごした夏の日々のお話。 なにもないような島でももさんは、海岸に打ち上げられたガラスの欠片を拾い、それでアクセサリーを作っている。 何もないけど満たされた時間を石津は語っていきます。でもそれは決してユートピアの話ではなく、後にものさんが島の住民たちと島を去ったことも最後に触れられています。理由は語られてはいませんけれど。 これを失われたエコな日々と受け取っても仕方がありません。 そうではなく、誰かと過ごす楽しい時間は楽しい。そして幸せになれる。ということを受け止めたい。 原が描く「ぼく」とももさんの姿の通わせる表情のどれもが、本当に楽しそうではありませんか。 『うまれたよ! モンシロチョウ』(安田守:写真 小杉みのり:構成・文 岩崎書店 2011) 全10巻の生物写真絵本です。コンセプトは統一されていて、卵から大人になるまでを一種類一冊をかけて見せていきますから、詳しく把握できます。 「よみきかせ いきもの しゃしんえほん」とあるように、今キャッチーな読み聞かせを売りとしていて、そのため文章がどうしてもリズム良く演じて(誘導して)しまうので、そこが科学的写真絵本と合うかは少し疑問です。しかし、「読み聞かせ」ってことにして、この10種類の生き物の詳細写真絵本が出たのなら、それはめでたいことです。 『麦ほめに帰ります』(一色悦子:文 国井節:絵 新日本出版社 2010) 未来、捨てられたロボットがビルを出て、麦畑にあるケヤキの木に近づくと、そこに兵士がやってきて、それから足軽が。 みんな違う時代を生きていたはずなのに何故? だれもが戦に関わっていたことがわかってきます。そして、死んだ。 それでも麦は実っていて、二人と一体は麦踏みと麦ほめを。豊かな実りを祈って。絶えた命を愛おしんで。 一色の寓意に満ちた短編に、国井の強いタッチの画がリアルさを付け加え、良質な作品に仕上げています。 『外国から来た魚』(松沢陽士 フレーベル館 2010) 写真家の松沢が、豊富な写真と共に外来魚の問題を語ったノンフィクション。 日本各地での事実が記されていく。そしてそれでも、たとえ外来魚でも、泳いでいる写真は美しい。 魚を撮るのが好きな松沢は決して、外来魚=悪といった単一視点ではなく、起こっていることと思っていることを、痛みを伴いながら率直に記していく。 今外来魚をどこかへ移動することは禁止されている。当然だ。が、では、外来魚を釣った釣り人はどうすればいいのか? リリースもできない。持ち帰ることも出来ない。その場で殺すしかない。これは魚好きにはかなりきつい。といったことを。 ここに答えはない。でも、考えてもいいことはたくさんある。 『ちいさなつきがらす』(マーカス・フィスター:作 谷川俊太郎:訳 講談社 2010) 渡りガラスのひなの一羽は小さくてみすぼらしい。なかなか羽が生えない。 かなり落ち込んでいる彼に、悪い冗談を言うのがいて、みんなに認めてもらうには月まで飛んでくるのが条件。信じた小さな渡りガラスは月へと飛び立つのですが・・・・・・。 今作では銀色を月の光として活かしています。 物語は昔話の雰囲気を漂わせつつ、個の問題も扱っているので現代風です。 『やぎのしずかのたいへんなたいへんないちにち』(田島征三 偕成社 2011) 『やぎにしずか』シリーズを加筆、再構成して絵本にしています。 このお話は、大人になったしずかの、もう大変に災難の一日を愉快に描いています。 田島の自由な筆遣いと楽しんでください。 『どんぐりむらのぼうしやさん』(なかやみわ 学研 2010) どんぐりたちが被っている帽子。いつも同じじゃつまらないと、ぽー、ちー、くるんは帽子屋さんを始めることに。でもみんな今のままがいいという。そこで、行商に出かけた3個のどんぐりさんたち。スズメさんやネズミさん、色んな方のご意見を聞きながら思いついたアイデアは? ぬいぐるみもマスコットもある新シリーズです。 『へのかっぱ』(山下ケンジ 講談社 2010) トキオは、ヘンな少年フウタと出会って仲良くなるのですが、次の日、フウタはいじめられている。でも助けられないトキオ。 フウタに悪いことした・・・・・・。 そんな時、いじめっ子の弟が河でおぼれ、フウタが助けてくれる。フウタはカッパだったのだ! ちょっと苦くて、でも温かい友達物語。 フウタの顔が良い。 『あおい木』(中村牧江:作 林建造:絵 ひさかたチャイルド 2010) 「ぼく」は緑の森に入る。と、そこに青い木が。近づいた「ぼく」はそこに吸い込まれ、青い空を飛んでいる鳥になる。やがて青は海となり、「ぼく」は魚に。 その途次で色んな体験と考えを巡らせた「ぼく」が、青を抜け出し大人に少しだけ近づく。 この青を自由と自由故の困難ととっても良いでしょうし、純粋とそこにも潜む悪ととってもいいでしょう。 なんといっても林の画の静謐さが魅力の一品です。 |
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