【児童文学評論】 No.75                2004..03.25日号

       
【絵本】
児童文学書評3月(ほそえ)
○アートと絵本と
「土のコレクション」栗田宏一 (フレーベル館 2004.2)
 栗田宏一のインスタレーションを見た。東京都現代美術館に子どもと一緒にいった「地球の上で」という現代美術の展覧会のなかのひとつだった。白い壁に囲まれたところに整然とならぶ色々な土。言葉通り、青、緑、黄色、ピンク……きれいな色の円錐形のかたまりに「なあに、これ。きれいねえ」とたちつくす娘。「ぜんぶ土の色だって」「茶色じゃないの?」「土を乾かしてきれいにするとこんな色の土になるんだって」「きれいねえ」「すごいねえ」こんな説明で十分だった。いつも園で泥んこ遊びをして山を作ったり、さらさらに乾かしたり、丸めたり……毎日遊んでいる土のなかにこんなに色が隠れていたんだという驚き。いつも見ているもののはずなのに、一瞬にしてそのものの印象を変えてしまう、栗田のインスタレーションはまさにセンス・オブ・ワンダーだった。物事の見方のさまざまを一瞬にして感じさせるものこそがアートと呼ぶに値するのなのだが、それを身近なものから導き出しているのが「地球の上で」という展覧会のテーマであるようだった。だから、この絵本を見つけた時、「あっ、あの人の本だ」とすぐ手にとったのだ。フレーベル館の「ふしぎコレクション」はセンス・オブ・ワンダーを大事にしている写真絵本である。これまでの今森光彦「雑木林のコレクション」、浜口哲一・池田等「浜辺のコレクション」でもそれを感じることができるが、観察絵本という枠にとらわれがちなところもあった。「土のコレクション」でも構成に学習的な側面が強く現れているページもあるが、なによりも表紙写真や色のグラデーションに従って並べられている試験管のなかの土の写真や各地で写された土の表面の写真、それらを見るだけで惹き付けられてしまうのだ。これ、なんだろう。土なの?ぼくもやってみたい。こんなの見たことある……心や身体が動き出す。そんなきっかけを本というかたちで子どもたちに手渡そうと思った編集者がいたことをまず、喜びたい。
 余談だけれど、絵画や彫刻など美術の世界で仕事をする人たちがたまに絵本という子どもを目の前にした本を作ることがある。自分のしていることを子どもに伝えたいという気持ちからできる本もあれば、子どもの目という縛りをかけた時、自分に何ができるか、それを見極めたいという気持ちからできる本もある。そういう気持ちからでてくる本には力がある。でも、そんな本は本当に少ない。いわゆるアートシーンにいる人が子どもの本を作ったというだけで手放しで評価してしまうそこの浅さが児童書業界にはあるから、内容がきちんと吟味されないのだ。絵や物の力のみでは絵本としては成立しない。絵本は画集や展覧会の図録ではないから。それをきちんとわかって作ってほしいと思う本が多い。

○その他の絵本
「雪原の勇者〜ノルウェーの兵士 ビルケバイネルの物語〜」リーザ・ルンガ-ラーセン文 メアリー・アゼアリアン絵 千葉茂樹訳 (BL出版 2001/2004.2)
「雪の写真家ベントレー」の画家が取り組んだもう一つの雪の絵本。ノルウェーのビルケバイネルというなじみのない題材ではあるのだが、木版の絵の強さと神話的な物語の骨格の太さで読ませる。

「せかいいちゆうめいなねこ フレッド」ポージー・シモンズさく 掛川恭子訳(あすなろ書房 1987/2004.2)
「せかいいちゆうかんなうさぎ ラベンダー」ポージー・シモンズさく さくまゆみこ訳(あすなろ書房 2003/2004.2)
以前、佑学社でだされていた絵本の復刊が「フレッド」。おなじ作家の新作絵本が「ラベンダー」のほう。シモンズの絵本はコマ割りのせりふの多い絵本だが、むかしより、今の方がなじみやすく、手にとってもらえるのではないだろうか。たくさんのキャラクターをきちんと描き分け、その性格づけをストーリーの芯に展開するので安心して読み進められる。「ラベンダー」のほうはコマを区切る枠線がなくなり、イラストのレイアウトがより自在な感じ。お話は他愛無いといえば他愛無いのだけれど、本好きで何ごとも慎重なうさぎがひょんなことで英雄になってしまうという展開に心弾ませる子もいるかも。

「ママとふたりで」「パパとふたりで」アリサ・サテン・カプチーリ文 ティファニー・ビーク絵 片山令子訳 (ともにポプラ社 2003/2004.4)
パパと二人で、落ち葉をはき集めたり、そり遊びをしたり、自転車に乗ってハイキングしたり、ボートに乗ったり……季節ごとに描かれる親子の姿がほほえましい。この絵本は右ページが2重フラップになっていて、ぱたんぱたんと2回フラップを広げることで、同じシーンの二人の姿が変化するというしかけになっている。のびのびしたビーク(「ゆきのともだち」「ともだちからともだちへ」理論社刊の画家)の水彩画がこのしかけによくあっていて、絵の変化がたのしい。ラストはどちらも寝る前のおやすみシーンになっていてベッド・サイド・ブックとしてのおすすめ。アメリカでは母の日、父の日のプレゼントブックとしても売れていた。

「ふわふわあひるのこ」ジェーン・ワーナー・ワトソン文 アリス&マーティン・プロベンセン絵 劉 優貴子訳 (講談社 1949/2004.2)
ゴールデン・クラッシックスからの翻訳絵本。ゴールデンブックにはゴールデン調とも呼びたくなるような同質な雰囲気を持った絵で展開される特徴がある。プロベンセン夫妻も以前翻訳された「いろいろこねこ」でもそうだったが、本作でもキャラクター化されたラブリーな動物たちがたくさん描かれている。あひるのこがいっしょにおさんぽしない?と動物たちに声をかけ進んでいくのだが、一種のカウンティング・ブックとしても使えるようになっており、それがまたゴールデンブックスの特色でもある。(教育的なところやしつけっぽいところ)

「いってらっしゃい おかえりなさい」クリスティーヌ・ルーミス文 高林麻里絵 前沢明枝訳 (1996/2004.1)
原書は「ラッシュアワー」というタイトル。内容もそのまま、朝、仕事に出かける前のわさわさした様子と夜、お家に帰る夕方のラッシュをおさえ、「おやすみなさい」というまでを描いている。なかなか良い翻訳タイトルだと思う。さすが、アメリカで出されている本なので仕事の形態も、人種も、性別もさまざまな人たちが描き分けられ、一種のお仕事カタログ的な読み方も楽しめる。それぞれの人たちのピンスポットを当てるようなレイアウトも効いているし、声を読んでも楽しいように擬音語がたくさんはいった文章にしてあるのも工夫がある。

「ともだちがほしいの」柴田愛子文 長野ヒデ子絵 (ポプラ社 2004.3)
「りんごの木」という子どもたちと保育者の場での一こまを絵本にする「あそび島」シリーズ五作目。新しい場や子どもたちにどういう風に入りこめば良いかは子どもにとって大問題だ。「こっこさんのともだち」(片山健 福音館)という名作もあるが、本作もまた子どもの気持ちに寄り添って、その子なりの決着の付け方をきちんと見守ったところからリアリティのあるストーリーができあがっている。

「草花とともだち〜みつける・たべる・あそぶ〜」松岡達英/構成 下田智美/絵と文 (偕成社 2004.1
)春になって野原で見かける草花を使って遊ぶ方法を絵本仕立てで紹介した絵本。見開きに展開する色々な遊び方を見ては食べたり、遊んだり、楽しみ方がこんなにあるんだなとびっくり。細かく丁寧に説明され、自分でもやってみたいという気持ちになる。

「バースデー・ドッグ」斉藤洋作 高畠那生絵 (フレーベル館 2004.2)
ぼくの誕生日に犬がやってきた。それは……とはじまる絵本。斉藤洋の本らしくオチもびしッと決まっており、それにあわせてこびない犬の造型をしたところがなかなかではある。どういう絵でも(どういう解釈でも)成立するストーリーであり、この絵もまた一つの解釈に過ぎないと思えてしまうのがちょっと弱いところか。表紙から見開き、表4までデザインアップされた構成は新人らしからぬところではある。

「とのさまのひげ」増田ゆう子作 国松エリカ絵 (偕成社 2004.2)
いばりんぼうのとのさまにいやけがさしてにげたしたひげのおはなし。これはお殿さまにしたところがおもしろい。展開も気が効いていて、捜し絵的なところもあるし、楽しい。ラストは女の子の顔にひげがおさまってしまうのだが、何とも間が抜けていて、のほほんとしている。女の子とひげとは、などと小賢しくいろいろといいたくなる人もいるかもしれないけれど、そんなことは関係無しに、いろんな顔写真にひげを描いて笑っていた時のことを思い出して。

「なにたべてるの?」いちかわけいこ文 たかはしかずえ絵 (アリス館 2004.1)
ぶうたれたねこがいろんな動物に「なにたべてるの?」ときいて「いっしょにいかが」とさそわれても「いいえ、けっこう」とすすんでいく展開。これもまた、小さな子のリズムをベースに、動物や食べ物のことを絵本のストーリーに消化したテキスト。見慣れた展開、なんてことないやり取りだが、絵がおかしい。読んで、繰り返しのリズムにゆだねる安心感がある。

「ねんね」さえぐさひろこ文 (アリス館 2004.2)
動物写真にひとことそえて、いろんなねんねの様子を集めた赤ちゃん絵本。リズミカルで繰り返しの効いたテキスト。ただただ気持ちよさそうに眠っている動物たち。幼児雑誌的なテイストも否めないけれど、あまり最近、このような絵本がなく、おやすみ前の絵本として受けるのでは。
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『サムなら きっと できるから』(エイミー・ヘスト:ぶん アニタ・ジェラーム:え 小川仁央:やく 評論社 2003/2003.11 1300円)
 母子話です。おかあさんが焼いたケーキ12コを、雪の中トラックを走らせ、知り合い達の家に届けます。おかあさんは車に残って、サムが届ける役目。大丈夫?
 心配と安心のお話。
 でも、おかあさん(ママ)の名前はどこにもありません。小さな子どもにとってはそうかもしれませんが、一人でケーキを届けにいくという「成長物語」にしては、その辺り甘いですね。(hico)

『ぼくたちのしごと』(たばかよしひこ:文 長谷川義史:絵 解放出版社 2004.03 1500円)
 老人ホームにボランティアに出かけている二匹のヘビのお話。
 くねくね躍ったり、昔の歌を口笛で鳴らしてみたりと、がんばっています。
 老人たちの戦争時代の思い出なども語られていますが、ユーモアたっぷりの物語の中にですから、暗くはありません。(hico)

『フレッド せかいいちゆうめいなねこ』(ポージー・シモンズ:作 かけがわやすこ:やく あすなろ書房 1987/2004.02 1300円)
 ポージー・シモンズの絵本が連続して訳されるようです。こっちは1987年の作品。
 フレッドは家族が大事に可愛がってたネコ。でもいつも眠ってばかりでした。死んでしまったフレッドとの日々を回想する家族。
 哀しみの夜中、ネコの鳴き声で目が覚めたぼくは、外へ。するとフレッドの友達だったネコが。そして彼ファフレッドを世界一有名なネコだったというのです。いつもいつも寝てばかりだったのに。
 そこからお話は夜中のヒーローフレッドの日々を知ることとなります。
 あ、だから昼間は眠ってばかりだったのだと。
 可愛がっていたペットの死は、家族にとって重い事件ですが、こうだったら少しは慰められるかも。
 ほどよいユーモアが暖かな一品。(hico)

『くつ』(大田恭治・中仁摩淳子・山下美也子・文 中川洋典・絵 エルくらぶ 2003.12 2200円)
「人権総合学習 つくって知ろう! かわ・皮・革」シリーズ最新刊です。
 たった一足の靴ができるまでの工程を、眺めていくだけでも楽しいです。もちろん世界各国の靴や、昔の靴の紹介も。
 そうして読んでいくと、ただ何気なく履いている靴が、親しみのある物に変わっていきます。よりいっそう身近な物に。(hico)

『過食症』(ボニー・グレイブス:作 上田勢子:訳 大月書店 2000/2003.11 1800円)
 「10代のメンタルヘルス」シリーズの一冊目です。このあと『拒食症』『うつ病』『パニック障害』『怒りのコントロール』と続きます。過食と拒食だけで終わらないのがいいですね。アメリカで書かれたものですから、データ(10代の過食の%など)は少し違うかもしれませんが、何よりいいいのは、10代に直接、そして具体的に語りかけていること。よって、これは親にとっても役立つ情報となっています。(hico)

『こうちゃん ごんたくれ』(鹿島和夫:文・絵 ポプラ社 2003.11)
 鹿島が教師の頃に撮った子どもたちのドキュメント、第3弾。
 今回は、もう、ごんたくれでしょーがない、こうちゃんの記録。
 活発で、おっちょこちょうで調子乗り。
 鹿島センセイも大変な日々です。
 こーゆー子って必ずいる。私も似たような者でした。(hico)

『てがみはすてきなおくりもの』(スギヤマカナコ:作 講談社 2003.12 1300円)
 色んな物を手紙や葉書として送ることができることと、アイデア一つで、中身の文面を読む前に幸せにしてくれる方法を伝授してくれます。
 確かにどれも受け取った側は、幸せになれるものばかり。
 そっか、メールの時代、こんな手紙や葉書なら、まだまだいいメディアだと、納得。
 読んで、アイデアをぱくってでも良いから、誰かに手紙を送りましょう。(hico)

『ウィルフ きをつけて!』(ジャン・ファーリン:作 金原瑞人:訳 小峰書店 2003/2003.12 1400円)
 ギャングキッズとそのママのお話。
 ネズミの母と男の子。元気すぎるウィルフはママの言うことをちっとも聞かないで、失敗ばかり。
 ママは一応怒りますが、それも愛情たっぷり。
 反省してママにプレゼントを渡す、最後の最後でもまた、ウィルフは・・・。
 まるで自分の事のようで、おもしろがる子どももいるでしょうね。(hico)

【創作】
『白いのはらのこどもたち』(たかどの ほうこ 理論社 2004.01 1000円)
 のはらクラブ・シリーズ最新刊。
 雪の降った世界を歩きます。
 動物の足跡を始めとして、様々な冬の顔が見えてきます。
 これは、本当に安定した作品で、読む物のお腹を暖めてくれます。(hico)

『あかいくるまをさがせ ぶうぶさん1』(岡村好文:作・絵 岩崎書店 2004.01 800円)
 大きな箱を落としたのは赤い車。で、ぶうぶさんは、落とし主を探しに。
 様々な赤い車が登場してきます。話をあまりひねってないので、小さく笑えます。
 動きがとてもいい画面構成で、良いです。最後の幸せなオチも。(hico)

『それからのおにがしま』(川崎洋:さく 国松エリカ:え 岩崎書店 2004.02 1300円)
 人間の子どもがやってきて、鬼の子どもと遊んだり、そうそうおにごっこをするの。鬼の子が鬼役だと、鬼ごっこごっこ、なんだろうか?
 カミナリさんまで加わって、もう大騒ぎ。
 年老いたももたろうもやってきて、昔戦った鬼と、思い出話をしたり。
 もちろん桃太郎の昔話は殆どの子どもが知っているわけで、だからこの平和は嬉しいと思うよ。(hico)

『フラワー・ベイビー』(アン・ファイン:作 墨川博子:訳 評論社 1992/2004 1600円)
 男子校。最悪な生徒で構成されるのが四ーCクラス。「理科」のプロジェクトとして選ばれたのはなんと小麦粉袋の赤ちゃん(フラワー・ベイビー)を三週間育てながら育児日記を付けること!
 んなこと馬鹿らしくてやってらんない。とうんざりする生徒たち。クラス一番のやっかいな生徒サイモンも最初は同じ意見だった。終わったらみんなでクラスの中で小麦粉をぶちまけて遊ぶしかないか。
 が、何故かサイモンはフラワー・ベイビーに愛着を感じ始めます。この子の親をしている内に、父親のことを考えだす。サウモンが生まれてすぐ消えてしまった父親。彼はどんな気持ちだったのだろう。
 疑似子育てをする内に、自分のアイデンティティへと思いをはせる展開が、なかなかなもの。
 知らないこと、教えてもらってないこと、それらを母親から聞きだそうとするサイモン。
 口笛を吹きながら家をでて、それっきり帰って来なかった父親、その口笛のミロディをサイモンは知りたい。些細なことのようですが、些細だから重いのです。
 こうしてサイモンは「マジメ」で「考える」生徒になっていきます。彼の育児日記は絶賛されます。
 口笛のメロディとその歌詞はわかるのでしょうか?
 ラストがいいんだな〜。(hico)

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 今、大切なドキュメント写真本が出た。高校生たちが、園児や高齢者と関わり合った日々を撮した、活きのいい写真と、高校生へのインタビューで構成された、『自分が好きになっていく』(高塚人志:監修・写真 五木田勉:文・インタビュー アリス館 千二百円)。
 ある高校の生徒たちが、人間関係を学ぶ「レクリエーション指導授業」の実践として、保育園や老人ホームへボランティアに入る。パートナーと呼ばれる幼児や高齢者の世話をするのですが、それがお互いの心を柔らかくしていくの。コミュニケーションが苦手だと言われているイマドキの高校生。そう思い込んでいるイマドキの高校生。が、保育園でパートナーとなった幼児とコミュニーケーションするのは、ガチンコ勝負。泣き出した子を目の前にして、斜に構えてなんかいられません。
 多くの高校生は、周りから目が優しくなった、明るくなった、良く話すようになったと言われたと答えています。幼児や高齢者にとっても異年齢の彼らと接することは、いい刺激になるでしょう。でも、やっぱり高校生の方が得るものが多い。みんながガチンコ勝負をしていますから、親しくない同級生が必死になって幼児をあやしている姿が、目に入ってきます。と、その同級生のことが少しわかるようになる。こうして、クラス自体も活性化していくのね。
 みんないい顔してるよ!
読売新聞2004.03.01