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2008.09.10
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【絵本】 『おかあさんの おっぱい』(ホ・ウンミ:文 ユン・ミスク:絵 おおたけ きよみ:訳 光村教育図書 2008.08 1400円) 色んな動物の母と子の絵本なんですが、それはもうたくさんあるわけですが、この絵本が違うのは、ただただ、それぞれの動物のあかちゃんにとって、その保育者の乳房がなぜその位置にあるのが便利かを淡々と描いているところ。 それは写真絵本でも可能だし、それもきっととてもいい作品になるに違いありませんが、ここでは絵であることで、授乳者のほほえみが描けています。それはほんとうはそうであるはずのないこと(人間も)ですが、この絵本を読む側への作者たちのメッセージとなります。 とにもかくにも、人間もまた様々な動物の1種類として描かれていて、そこに優位性はなく、気持ちの良い仕上がり。 翻訳者だけ生年を記してのが気になりました。ご本人の希望でしょうか。 『3びきのこいぬ』(マーガレット・G・オットー:さく バーバラ・クーニー:え あんどうのりこ:やく 長崎出版 2008.06 1200円) ダックスフンドの三匹の子犬。子どもたちともとっても仲良しで、毎日楽しく遊んでいます。 ある日森へと遊びに出かけた三匹。いつの間にか迷ってしまって……。 子犬たちの、まあ表情の豊かなこと。クーニーのすごさを満喫できます。 そして、表紙カバーも含めて、デザインがいいですよ、この絵本。(ひこ) 『ニャンタとポンタの わたあめやさん』(たちの けいこ:さく あかね書房 2008.08 1200円) ニャンタとポンタですから、もう彼らがなにかは分かりますね。というか、キャラの場合、こういう風に堂々としたネーミングは、彼らを悪い意味ではなく、没個性にするように機能します(「本が好き!」(光文社)の連載で書いておいたキャラとキャラクターの定義を引用しておきますと、「キャラとは、成長すると気持ち悪い存在。キャラクターとは、成長しないと気持ち悪い存在」のことを言っています)。彼らは、ネコであり、タヌキであるだけなのです。だから、そんなことに気を取られずに、ストーリーをたっぷりお楽しみください、と言われているわけですね。 タイトル通り、二人は縁日でわたあめやさんを開きます。色んな動物がやってきて、それぞれの動物らしいドラマが起こって楽しいのですが、間でおばけやしきのエピソードだけが大きく扱われるのが、ちょっと残念。ここでリズムが少し狂います。 でも、わたあめはいい素材ですね。楽しい。(ひこ) 『はみがき だいすき』(たけいしろう:作 すがわらけいこ:絵 くもん出版 2008.07 800円) 「おやこであそぼう しかけえほん」六作目。仕掛けは毎度同じ左右か上下に閉じたり開いたりのパターンですから、何を素材に持ってくるかだけが勝負(これは変えない方がいいです)。 常に動きのあるパターンでないといけませんから、今回のはみがきなどはまさにぴったり。はみがき教育もしています。ただし、磨き方は描けてはいないので、保護者がちゃんと勉強しておきましょう。今の磨き方は、私が子どもの頃に推奨されていたのとは正反対です。だから、4〜50年前子どもで、その時教えてもらった知識を伝えると、今は間違いとなりますので、祖父母の年齢の方は、特にご用心。(ひこ) 『おでこ ぴたっ』『おはな つんつん』(武内裕人:さく くもん出版 2008.06 800円) こちらは、接触系です。 肌の触れあいの大切さを描きます。 いっぱいいじってあげれば、たいていの幼い子は喜びますから、ぴたっ、つんつん、よろしく。 ただし、ネコの場合は、ご用心。(ひこ) 『よしよし なでなで』(とくなが まり:文 いりやま さとし:絵 アリス館 2008.07 1200円) こちらも接触系です。 おねえちゃんのななちゃん、ぐっすり眠っている赤ん坊の弟をさわっています。 あそるおそる、でも、かわいい、かわいい。 やがて赤ん坊が泣く出してしまい、ななちゃんも泣いてしまい……、 という展開です。 服装が、もう少し今風でもよいのでは?(ひこ) 『はたらくくるま ブルブルン』(冬野いちこ 岩崎書店 2008.08 600円) 「はたらくくるま」といえばもう傑作があるので、そこでどう個性を出すかが勝負です。 前作『じどうしゃブンブン』と同じく、リズムよく擬音を駆使して快調にページが繰られます。 できれば、見開きで一台の方が楽しかったかな。(ひこ) 『ことばのくにの マジックショー』(マジック:大友剛 ことば:中川ひろたか 絵:大庭明子 アリス館 2008.07 1300円) 子どもにも簡単なマジックを絵本にというアイデアはおもしろいです。 全部で9つ入ってます。 なるほど簡単だし、それよりなにより、マジックというものの「不思議」の意味がよくわかって、そっちの方が子どもは喜ぶかもしれません。 ただ、開く方向は、逆のが良かった。 中川の「ことば」を横書きの「ことば」にして。(ひこ) 『りんごのおじさん』(竹下文子:作 鈴木まもる:絵 ハッピーオウル社 2008.07 1400円) 無農薬リンゴを育てるおじさんの実話に基づいた物語。 農薬を使っていた頃から、勇気を持って変えていった姿は、感銘に値します。 ただし、やはり感動をそこに依拠しているので、ドラマを作ることが難しく、平板になっているのも確かです。 作者の感銘をもっと前にだしてもいいのでは?(ひこ) 『あいさつ団長』(よしなが こうたく 長崎出版 2008.07 1500円) 『給食番長』の世界です。 今回は、金髪の転校生がやってきて女の子にモテモテ。頭に来た番長たちは、なんとかモテモテになろうとがんばるのですが、そのがんばりは的外れ! 「標準語」と、博多弁を並記した方法は健在で、なかなか良いです。 物語はチト強引。「あいさつ」の大切さなんてモラルに流れなくてもいいのでは? でも、絵の勢いは相変わらず吉。(ひこ) 『たくさんのふしぎ ニホンミツバチと暮らす』(飯田辰彦:文・写真 福音館書店 2008.10 700円) ニホンミツバチはセイヨウミツバチを比べて小さく、採れる蜜の量も多くなく、それを生業にしている人はあまりいないようです。 従って、それは商売ではなく共生そのもの。 この本は、あまり知らないニホンミツバチに関して、詳しく詳しく教えてくれます。 写真絵本のような訴求力はないのですが、ある意味無骨に、淡々と、その共生振りを伝えてくれています。 しかし、知らないことが多いなあ、私。(ひこ) 『はじめてのハミウリうり』(日紫喜洋子:作 福音館書店 2008.10 410円) ウイグル族の暮らしを描いた絵本です。 サンの家ではハミウリを作っています。 今日は市の日、お父さんと一緒に売りに出かけます。 賑やかな市を日紫喜の絵は、実に活き活きと伝えてくれます。 ところが役人がやってきて、路上販売はだめだとみんなを捕まえようとします。 サンがそこで見たことは……。 画も物語も、絵本が初めてとは思えない出来です。 今作は素材が特殊なので、物語がそこに頼っているところがありますが、そうではない作品のとき、どんな世界に仕上げてくれるか、とても楽しみな作家です。(ひこ) 『ほしのメリーゴーランド』(寮美千子:作 鯰江光二:絵 フレーベル館 2008.06 1000円) ひなちゃんはたなばたのとき星空にお願いをします。すると星空のメリーゴーランドに乗って、宇宙の旅に。 鯰江は、宇宙写真と画をうまく組み合わせて、幻想的な風景を作っています。 欲張りなことを言えば、言葉と写真と画が、もう少し融け合って欲しいかな。(ひこ) 『いろいろおんせん』(ますだゆうこ:ぶん 長谷川義史:絵 そうえん社 2008.08 1000円) ケロポンズのますだによるおもしろうたの絵本。 いろいろおんせんですから、いろんな色のおんせん、という、歌ならではのわかりやすい設定で、長谷川もノッて描いてます。 ちゃいろのゴリラが青いおんせんに入ったら、青いゴリラになった! ってのが、延々続いていきますから、このアホくささは、本当は歌った方がおもしろいに違いなく、だから長谷川も、リズム良く描いています。 最後、人間のところは、どうなんでしょうね。ちょっと観客を意識? もうすこしおもしろくして欲しいかな。 でも、楽しいです。 最後のページはほんとに正しいぞ。(ひこ) 『りんごろうくんのもりあるき』(わたなべ てつた:さく なかがわ かくた:え アリス館 2008.08 1400円) オーストラリアの森を父親を散歩するりんごろうくん。さまざまな生き物と出会っていきます。 朝の森の風景が、なかがわかくたの画で、涼しげに表現されていきます。 こういう時間の過ごし方があるんだなと思います。 せっかく、いい時間を読者に分けてくれるのですから、もう少しわかりやすく描いても良かったです。日本の子どもが父親と、オーストラリアの森に朝の散歩に出かける設定はなぜかを。 それと、りんごろうくんって名前も、どうしてもりんごろうくんでないといけないのかもしれませんが、もしそうでないなら、この名前は、ひらがなばかりの文では読みにくいです。 その辺りがちょっと残念ですが、おいしかったです。(ひこ) 『ヴェロキラプトル』(平山廉:文・監修 小田隆:絵 ポプラ社 2008.07 1500円) これを読むまで知らなかったのですが、こんな名前の、羽毛が生えた鳥の祖先みたいな恐竜がいたんですね。どうやら、「ジュラシックパーク」に出てきたすばしこくてどう猛な、人よりちょっと大きめの恐竜がそれらしいのですが、あれは学説的に今は間違いで、本当は犬位の大きさの恐竜だそうです。 この絵本は、今のところわかっている研究に基づいて、その暮らしぶりを描いています。 なんだか結構、かわいいです。肉食恐竜だし、んなことないのでしょうけれど。 1/2の化石フィギュアも売っていて、この絵本の平山が同じく監修で、小田が作ってます。三万六千円なのでお高いですが、迫力はありそうなので、お好きな大人には高くないでしょうね。 全身の化石は、ブリュッセルの自然史博物館にあるとのこと。あ、なら、見たはずですが、記憶にない。残念。(ひこ) 『クラウディアのいのり』(村尾靖子:文 小林豊:絵 ポプラ社 2008.07 1300円) 実話に基づいた絵本です。 終戦後、スパイとされてシベリアに抑留された日本人。解放後も日本に帰ることは許されず、ソビエトで暮らしていました。 そんな彼と出会い、愛し、四十年間苦労をともにしたクラウディア。しかし、日本の家族が待ち続けていると知ったとき、彼女は彼を日本へと送り出すのでした。 この物語に小林ほどふさわしい描き手はないでしょうね。(ひこ) 『けいこちゃん』(あまんきみこ:作 西巻茅子:絵 ポプラ社 2008.07 1100円) あまんの短編の絵本化です。1983年に「こどものとも」で出ていた物を改稿、絵も描き直しているそうです。」 入園の日、けいこちゃんは保育士の呼びかけに元気にお返事。が、あれれ、もう一人けいこちゃんが。 たちまち仲良くなった二人。電話番号を教え合います。 けいこちゃん、さっそくけいこちゃんにお電話。と、 あれれ、別のけいこちゃんにかかってしまいました。 という風にして、雲のけいこちゃん、イルカのけいこちゃんなど、次々色んなけいこちゃんと知り合って……。 ホント、あまんの話は、ホカホカ、ホクホクして、楽しいです。 数十年、ズーッと楽しませてもらってる感じですね。 西巻の絵も、素朴にうれしい。 あまんきみこって作家がいて、良かった。(ひこ) 『ぼくたち ともだち』(中川ひろたか:さく ひろかわ さえこ:え アリス館 2008.09 1400円) 前作で、ともだちなんかいらないとかいってたワニのカイくんですが、今はウサギの女の子ウーちゃんと仲良く遊んでます。 が、男の子ウサギのりょうくんがウーちゃんをハイキングに誘ったものだから、なんだか心が沈んでしまって。 うん、こういう気持ちってなりますよね。子どもの中にも芽生える気持ちが的確にとらえられています。 ただし、当然のようにウーちゃんがお弁当を作ってきて、カイくんはただよろこんで食べるところなど、男の視点しかないのが、なんだかなあです。 子どもが読むのだから、その辺りはちゃんと視線を行き届かせましょうよ(編集も)。 でないと、単なる、男の、女所有欲のお話になってしまいます。(ひこ) 『とらねこさん おはいんなさい』(山脇恭:作 小田桐昭:絵 偕成社 2008.09 1000円) とらねことらちゃんとくろちゃんが、なわとびをしていると、シャムくんが強引に割り込んできて、けんかになって、意地になったジャムは隣で一人でなわとびを……。 ここからの展開がとてもいいです。 互いが気になりながら、なわとびをする姿が、実にありそうだし、近づいていく心も、嘘っぽくなくて納得できます。 ちゃんと描いているといえば、ベテランお二人に失礼でしょうか。(ひこ) 【創作】 先日、『落下の王国』という映画を観た。監督・脚本は『ザ・セル』(2000年)のターセム。ターセムが「本当に作りたかった映画」というこの作品は、インディペンデントだとは信じられないほど美しい映像(4年をかけて24カ国以上でロケ、世界遺産13カ所が登場)や、北京オリンピックの開会式のコスチュームも手がけた石岡瑛子の独創的な衣装、物語るということに「取り憑かれた」監督の思いが結実したストーリーなど、魅力を挙げればきりがないのだが、わたしが興味を引かれたのは、随所に子ども独特の感覚を描くエピソードがちりばめられていたことだ。 主人公の少女アレクサンドリアは五歳。文字を習い始めたばかりの彼女が、「この薬をとってきて」と渡されたメモ(MORPHINEモルヒネ)を見てちょっとした勘違いをするエピソードなどは(ネタばれになるので、これ以上書けないけれど、かなりかわいい!)まさにその典型例だが、例えば、片手に写真を持ち、もう片方の手の人差し指を立てて写真の前にかざし、片目ずつつぶると、指が動いているように見える(そのたびごとに、集合写真の中の別の人物が、指のうしろに隠れることになる)ことに感嘆しているシーンなどは、自分も子どもの頃、そうした不思議に感嘆していたことを思い出させられた。 アレクサンドリアを演じたカティンカ・アンタルーは、撮影時、実際に五歳。彼女の勘違いや、素のリアクションもそのまま脚本に活かしたというだけあって、映画の中では子どもの思考や感じ方がさまざまな形で描かれている。 そんな映画を観たこともあって、大人の感覚や常識と、子どものそれとのズレを実感させてくれる次の一冊が心に残ったので紹介したい。 『世界じゅうの子どもたち いろいろな幸せのかたち』ベアトリクス・シュニッペンケッター著 清水紀子訳 主婦の友社 2008年) 世界80カ国以上の子どもたちに「すきなことは?」「将来の夢は?」「こわいものは?」「動物になるなら?」「宝箱にしまっておきたいものは?」などの質問をし、その答えと、その出身国についての簡単な説明をまとめた本だ。子どもたちの答えがおもしろい。 「お金があったら?」という質問には、「食べ物を買う」(フィリピン)「ストリートチュルドレンを助けてあげたい」(アルメニア)「学校で使う教材を買いたい」(中国)「友達とサッカーができるくらい大きな庭がある家がほしい」(シンガポール)、「こわいのは?」という質問には「テロリスト」(アメリカ)「誘拐」(メキシコ)、など各国の状況を思わせるものがある一方で、「自分の中で変えたいところは?」「かわいくなりたい」(ブルキナファソ)、「お金があったら?」「家とニンテンドーのゲームとテレビと自転車とラジオがほしい」(ドミニカ共和国)、「すきなことは?」「『ハリー・ポッター』を読むこと」(スペイン)など、身近に感じる答えもある。 また、「こわいのは?」「魔術師」(セネガル)「ヘビと神さま」(アフガニスタン)、「変えたいところは?」「プールの水で緑色になった髪の毛を元にもどしたい」(オーストラリア)、「すきなことは?」「ホウキではくこと」(エルサルバドル)、「宝箱にしまっておきたいものは?」「妹をとじこめておきたい」(南アフリカ共和国)、「何才になりたい?」「36才」(ガーナ)など、興味を引かれる答えも多い。 大人がその国に抱いているイメージと必ずしも一致しない答えもあれば、大人の目からは本当に些細な「楽しいこと」「いやなこと」もあるし、大人には思いもつかないようなユニークな回答も多い。固定観念に縛られない子どもの考えから、思わぬ真実が見えてくることもある。 だから、子どもに向かって本を描くというのは、面白くて難しいのだと思う(三辺)。 -------------------------------------------------------------------- 『チャリンコ・ヒコーキ・ジャージャー麺』(イ・サンベ:文 ペク・ミョンシク:絵 高橋宣壽:訳 現代メディア 発売元:理論社 2008.07 1200円) 現代メディアで始まった「韓国人気童話シリーズ」の第一弾です。 まず、隣国の現代児童文学をシリーズで読めることを喜びたいです。 絵本は今多く訳され、その力に圧倒されていますが、創作はどうでしょう。 タイトルから原文、どこまで原作のままなのかは分かりませんが、章ごとにその扉に、これからのお話の前振りが語られていることや、著者の「はじめに」が読者への強いメッセージ性があることなど、少なくともこの作品に限って言えば、語り手や著者が前に出てくる姿は、懐かしいスタイルです。 そこからは、韓国児童文学における子どもとの距離感がうかがえます。それは、日本ではもうあまり採られていないものです。古い感じがするといってもいいです。 要するに子ども観の違いなのですが、それを知ることが出来るのは、隣国との文化理解、現状理解にとても役に立ちますし、日本の子どもにとってもそうなのだと思います。 物語は、三兄弟だけで暮らす子どもたちの貧しいけれど幸せな日々を描いています。子どもだけで暮らす制度があるんですね、韓国には。 ペクの挿絵は総カラーで三人の子どもを活き活きと切り取っています。 タイトルは一工夫欲しいところ。 これは一〇〇ページほどの短い物語で、出版社に聞いたところ、そういった作品ばかりがあるのではなく、今後長編も考えているとのことです。ITに関して、日本より先を行っている国ですから、そんなことをテーマにしたのがあれば読みたいです。 同時に『心に刺さったガラスの破片』(ファン・ソンミ:文 キム・ユデ:絵 高橋宣壽:訳 現代メディア・理論社 2008.07 1200円)も刊行されました。こちらも「はじめに」で著者が熱く語ります。 これから、たくさんの物語が読めますように! 『夢の彼方への旅』(エヴァ・イボットソン:作 三辺律子:役 偕成社 2008.06 1600円) 孤児のマイアはロンドンの寄宿舎学校から、ブラジルに住む叔母の家に、家庭教師のミントン先生とともにやってきます。 叔母は、彼女を扶養する手当が目的。ブラジルにいながら、こっけいなほどイギリス風に暮らしています。叔母の双子の娘は、いじわるでマイアを無視。舞踏会も行かせてもらえません。 そんな日々、マイアは、現地の人々の文化に興味を持ち、溶け込んでいくのですが……。 いやあー。もう、良き日の児童文学みたいな作品です。古いって意味ではありませんよ。 これぞ物語。しっかりした物語とでもいうのかな。今、よくこれが書けるなあ。イボットソンに脱帽。 今のエンタメを読み慣れていると、確かに入りにくいかもしれません。私が古い人間なので、こういうのも大丈夫なだけで。 でも、そんな若い人にこそぜひ読んで欲しいです。入ればどんどんおもしろくなっていきますから。物語の「新しい」おもしろさを発見して欲しい。(ひこ) 『グレッグの ダメ日記』(ジェフ・キニー:作 中井はるの:訳 ポプラ社 2008.05 1200円) この記録をグレッグが書くことにしたのは、将来有名になったとき、いろんなばかげた質問(子どもの頃はどんなでしたか? とか)に答えないですむようにです。 とってもわかりやすい理由です。 でも、記録なのにママが買ってきたのは日記帳。 ここですでに、親子、大人と子どもの思いがズレてしまっているのがおもしろいですね。 書かれていることは、まあ、ドジで気のいい、ちょい悪ガキの、でも、悪気はない、そんなグレッグくんの、実にしょーもない日常であります。楽しいの、わかるでしょ。 でも、こんな風に「子ども」っぽく日常を送れるのが、やはり幸せに見えてしまうのは、日本の子どもの現状がキツイからです。 「夜スペ」なんかしたって、本当の学力はつかないって。その場の見かけだけで。それよか、遊ぶ時間をもっと確保した方が、絶対に吉ですよ。だって、学んだことを子どもが実践できるのは、遊びの場ですもの。遊ぶ時間がないから、応用問題が苦手なのよ。(ひこ) 『うわさの雨少年』(宮下恵茉:作 丸山薫:絵 ポプラ社 2008.03 1000円) ハルは遠足、運動会など、ことごとく雨にたたられ、父親から雨男と言われています。 お盆に父親の実家へ二人で戻ったハルは、そこで村の七不思議を知り、その中に、約束を守らないと雨男にする呪いをかける少年がいることを知ります。 あれ? ってことは、実は雨男はおとうさんじゃないのか? ハルもその少年に出会い、キャッチボールの約束をしてしまうのですが、果たしてそれは守られるのか? 短い物語ですが、巧く収まっています。ただ、この七不思議はちと無理があるような。 それで、おもしろがってもらおうという意欲はわかるのですが、そこを雨男のことだけに絞って、もっと書き込んだ方が作品の印象派深くなると思います。(ひこ) 『妖精フェリシティ1 ときめきおしゃれクラブ』(エマ・トムソン&ヘレン・ベイリー:作 エマ・トムソン:絵 神戸万知:訳 岩崎書店 2008.08 800円) 魔法学校ならぬ妖精学校に通う女の子フェリシティを描いたシリーズ。 一巻90ページに3話入っているので物語というより、ごく普通の日常の断片です。 世界を救うわけでも、アイデンティティの崩壊に遭遇するのでもなく、ちょっとしたドジや、笑いや、喜びがクリップされていきます。 物語至上主義の人からは、下らないと一蹴され、男性至上主義の人からは、だから女というものはと嘲笑されそうです。 が、いやいや、ごく普通の日常に「妖精」を振りかけて楽しむ様は、案外腰が強いものです。主人公たちが、楽しそうだもんね。(ひこ) |
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