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2010.01.15
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【絵本】 『水曜日の本屋さん』(シルヴィ・ネーマン:文 オリヴィエ・タレック:絵 平岡敦:訳 光村教育図書 2009) 水曜日、学校がお休みの「わたし」は、本屋さんへと出かけます。そこでは、おじいさんが毎日少しずつ、分厚い本を読んでいます。どうやら戦争のことが書いてある本みたい。 気になる「わたし」。この本が売れなければいいのにね。最後まで読み終われればいいのにね。 そしてクリスマス。あの本がない! ついに売れてしまったの? 『ルタとナントカ』シリーズでブレイク中のオリヴィエ・タレックですが、画風は全く違って、物語に寄り添って落ち着きのあるものになっています。 人を好きになれる、シルヴィ・ネーマンの素敵な短編との組みあわせが良いですね。(ひこ) 『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』(高野文子 福音館「こどものとも年少版」2010.02) いやいやすばらしい! 小さな子どもが布団に入って眠る前に、色々お願い(おしっこをしないように、怖い夢をみないように)をして、ふとんさんがそれに応えようとするって物語です。 物語と書きましたがストーリーがあるわけではなく、お願いと応えが、ただ呪文のように唱えられているだけです。 それが耳に残って、良いのですよ。 子どもたちはきっと、これを読んで、同じような呪文を唱えてぐっすり眠ることでしょう。 まあ、ときどきは呪文が効かない場合もあるでしょうが、そのときは気にしない気にしない。(ひこ) 『サラちゃんと おおきな あかいバス』(ジェーン・ゴドウィン:文 アンナ・ウォーカー:絵 石津ちひろ:訳 光村教育図書 2009) サラはいつもおねえちゃんと一緒に学校のバスに乗って通学しています。実はバスは苦手です。色んな子どもがいるし、どこに座ったらいいかもわからない。でも、おねえちゃんがいるから、大丈夫。 今日はおねえちゃんが風邪でお休み。 下校バスに乗ったサラは緊張の余り疲れて、ぐっすりと眠ってしまい・・・。 子どもが世界や社会を信じるための。大事な絵本の一冊です。 アンナ・ウォーカーの絵は、サラを見守って暖かい。(ひこ) 『やさしいまもの バッパー』(野坂悦子:脚本 降矢なな:絵 童心社 2009) 世界に紙芝居を広げている一人、野坂によるオリジナル紙芝居です。 バッパーは大男で、こわ〜〜いまもの! のはずが、そんなに怖くなくて、子どもたちに好かれるのですが、実はバッパー、昼間は小さな男です。 子どもが一人川で溺れている。さあ、大男バッパーの出番だ! あれ、でも小さいまま。 どうしよう。 見ている子どもと一緒にドラマをもり立てていく段取りが、いかにも紙芝居で、良いですね。 最後は、紙芝居ならではの醍醐味を味あわせてくれますよ。(ひこ) 『ぼくのものがたり あなたのものがたり 人種についてかんがえよう』(ジュリアス・レスター:文 カレン・バーバー:絵 さくまゆみこ:訳 岩崎書店 2009) 皮膚の下はみんな同じ。人種で人を分けても意味がない。 という当たり前のことを、ジュリアス・レスターはわかりやすく語りかけていきます。 それは、この件が、見た目のこと故に、なかなかクリアされないからです。 ジュリアス・レスターの言葉は時に鋭く突いてきます。 「「わたしの人種は、ほかの人種よりすぐれている」という人は、どんな気もちなんだろう? じぶんに自身がないのかもしれないね。不安なんだよ、きっと」。 同感です。 カレン・バーバーは様々な民族の意匠をちりばめることで寄り添い、ジュリアス・レスターに同意しています。(ひこ) 『きぼう こころ ひらくとき』(ローレン・トンプソン:作 千葉茂樹:訳 ほるぷ出版 2009) 『むこう岸には』という、平和を伝える絵本を出してくれたほるぷ出版。今度はずばり「きぼう」です。 『パパがやいたアップルパイ』のローレン・トンプソンは同時多発テロを経験したというのが惹句ですが、それは世界中の人間が経験したと言って良い出来事ですので、横に置いて読みますね。 この絵本は、「イマジン」を想起させます。 「きぼう。それは、ほとばしりでる いかりの ことば。 はきだすことで、わかることもある。」といった風に、「きぼう」が、様々な子ども表情の写真に添えて、素朴な言葉で語られていきます。 どんなところにでも「きぼう」はあります。「ぜつぼう」がそうであるように。 「ぜつぼう」を「きぼう」に変えていく余裕を、子どもたちが持てますように。(ひこ) 『ブレンディバール』(トニー・クシュナー:再話 モーリス・センダック:絵 さくまゆみこ:訳 徳間書店 2009) 『かいじゅうたちのいるところ』の映画版が全米一位の大ヒットを記録したセンダックの再新訳絵本です。 映画の大ヒットは意外でした。ヒットはするだろうとは思っていましたが、これほどとは。それだけこの物語がアメリカ人の心にしみこんでいるのでしょう。 さて、今作は、ナチス収容所内で子どもたちが演じていたミュージカルを素材にしています。 病気の母親のためにミルクや食料を手に入れようと街に出かける子どもたちですが、なかなか難しく、しかもそこにお猿の大道芸師ブレンディバールが現れ、いろいろといじわるをします。 どこで演じられていたかを知れば、この物語の寓意は明かですが、そうしたことを横に置いて、現代の子どもが置かれている立場の物語としても読み応えがあります。 センダックの絵はかつてより丸くなったけれど、それでも冴えていて、人物の動きから背景の遊びまで、やはり存在感はすごいです。(ひこ) 『ことりのおさら』(叶内拓哉:ぶん・しゃしん 福音館 「ちいさなかがくのとも」2009.01) 庭に台を置いて、水の入ったお皿を乗せる。 ただそれだけで、やってきた小鳥を観察する写真絵本。 メジロが、ヒヨドリが、ああかわいい。 昔、庭のある家を借りて住んでいたころを思い出しました。いっぱい小鳥が来て、ユスラウメの枝で鳴きました。ヒヨドリは枇杷のみをつついていました。ウグイスの早春の歌声の下手なこと。 色々思い出して、さっそくベランダに使っていない椅子を設置し、お皿を置いた私ですが、あれから二週間、一羽も来てくれない。都会の十四階じゃ無理か。(ひこ) 『おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり』(太田大輔 福音館「たくさんのふしぎ」2010.02号) 「主人公のおじいちゃんがたばこ好きという設定で、読者から「喫煙シーンが頻繁に描かれている」との指摘を受けたため」「販売を中止すると発表した」(毎日新聞 2009年12月29日 17時11分)というもの。 「対象年齢は小学校3年生からで、発明家のおじいちゃんが2人の孫に江戸時代の暮らしを説明する内容。おじいちゃんはたばこ好きの設定で、喫煙したまま孫たちと同席する場面が何度も描かれている」ので「喫煙に反対する団体などから「たばこを礼賛している」「たばこ規制枠組み条約に違反する」といった指摘」がなされ(2009年12月29日05時08分 読売新聞)かららしいが、何が問題なのかわかりません。 パイプたばこ好きのおじいちゃんというキャラクターを作者がたてているだけです。作品が、子どもにたばこを勧めているというならともかく(それでもおじいちゃんというキャラクターだけがそうであるなら可です)、パイプ姿がおじいちゃんを表しているわけで、逆に言えばそれなしにこの物語は成立しないとも言えるものです。たとえばこの子どもたちは、おじいちゃんが亡くなったとき、子どもたちはこの香りを思い出すでしょう。 作者がおじいちゃんを造形するに辺り、どのようにイメージを膨らませていったかを考えれば、それは簡単に変更を迫れるものではありません(今後、作者がどのような判断を下すのかは、別問題であり、作者の権利です)。 子どもの物語が、物語ではなく、子どもを教導するためだけの道具だという意識が、批判者側にはあるのでしょう。今もまだそう思う人、子どもをなめている人がいることは仕方がありません。それは、子どもの物語を供給する側の力不足ですから。 が、このことで、子どもの物語を供給する側は、萎縮したり自主規制をしたりしてはいけないでしょう。そんなことをすれば、ますます力不足になるのですから。 たまたま今回は福音館のトップが、判断を誤ってしまったというだけです。 話は、エレキテルのぞきからくりで江戸時代の町を探索する趣向で、今の子どもにとって良い知識となるものです。画も当時の版木を思わせるものでなかなか凝っています。今の子どもが知らない言葉は、画面の隅で解説されていますから(当たり前か)、興味を持った子どもはそこから調べていくでしょう。(ひこ) 『クローズアップ大図鑑』(イゴール・ジヴァノビッツ:著 ポプラ社 2009) 写真絵本で大きな位置を占めるポプラ社が、良い図鑑を出してくれました。 昆虫から蛇まで、題名通りクローズアップで撮って、見開き一杯で見せて解説を加えているのですが、なにしろクローズアップですから佇まいが違います。なんだかもう、こっちも正座して昆虫たちと向かい合いたくなります。 日本にはすでに海野和男や栗林慧のような素敵な昆虫写真家がいて、写真絵本も展開してくれていますが、彼らが芸で見せているとしたら、こちらは真っ向勝負です。 ここまでクローズアップされると、ムカデも怖くないから不思議。 四十歳代は、『仮面ライダー』の世界を再見したくなるかも。 子どもにとっては、世界を別に角度から眺める良い機会となります。 いいわあ、これ。(ひこ) 『だいくの たこ8さん』(内田麟太郎:文 田中六大:絵 くもん出版 2009) 内田のおとぼけ世界がまたまた展開しています。 名人大工であるたこの8さん(たこだから8さんという安易さに、八ではなく8を配する切れの良さは見事ですね)、カブトムシさんからは棚作りのご依頼。もちろん飾るのは兜。お化け屋敷がなくなって困っているお化けたちには空き家を見つけてきて、ボロボロに修理(?)してあげます。といったおとぼけ世界が相変わらず楽しいですね。田中六大の絵は、まだ手探りな感じですが、隅々の遊びを見ると、絵本のツボを心得ている人なので、これからは大丈夫でしょう。(ひこ) 『やめて!』(デイビッド・マクフェイル:作・絵 柳田邦男:訳 徳間書店 2009) 「NO!」という勇気。 この絵本は、少年が大統領に手紙を書いて、それをポストに投函するまでの途次で起こっている様々な理不尽な出来事を、言葉ではなく絵だけで、ただただ描いていきます。 いじめっこ、兵士、戦車、戦闘機・・・。 力強くメッセージを伝えてきます。 良いです。 ただ、「ストーリー展開を絵だけで象徴的に語る」(訳者あとがき)絵本なのですから、訳者が何をしたのかがあまりよくわかりません。確かに、「NO!」を「やめて!」と訳しましたけれど。(ひこ) 『少年の木 希望のものがたり』(マイケル・フォアマン:作・絵 柳田邦男:訳 岩崎書店 2009) こちらはたっぷりと訳された絵本です。 マイケル・フォアマンの作品。 がれきの街。鉄条網の向こうは、ちゃんと建物が建っているようです。 少年は鉄条網の近くで何かが芽を出しているのを発見します。乏しい水を注ぐ日々。それががれきの街の少年の唯一の楽しみです。 やがて芽は育ち、ぶどうの木となって、鉄条網にツルを張り、覆っていきます。 子どもたちの絶好の遊び場に。 が、鉄条網の向こうの兵士がやってきて、ツルを引っ張り、すべてを取り払います。 絶望する少年。寒い冬。そして春。 少年は鉄条網の向こうで少女が小さな芽に水をやっているのを発見します。兵士が抜いたツルから落ちたぶどうの種です。 という風に進む物語は、私たちの予想内の平和絵本ですが、こうして、常に新しい物語が作られ、読まれていくことが大事です。 でも、解説は、語りすぎです。もう少し黙って、作品に任せましょう。(ひこ) 『マークのなかに かくれたかたち』(辻恵子:さく 福音館 「かがくのとも」2009.12) 「→」、赤い通行禁止マークなど、様々なマークから人物を切り出していく作品。 と説明しても、見てもらわないことにはわかりにくいのですが、どこにでもある印刷された紙の中に、別の姿を見つけ出していく辻の視線は、私たちが見慣れたと思い込んでいる日常を、新たに発見し直す手がかりを与えてくれます。 子どもたちに、なんでもいいから印刷されて紙とはさみを渡してそこから別のイメージを切り出してもらえば、子どもたちは世界の楽しみ方のヒントを得ることでしょう。 考えてみれば、読書でもそうなんですよね。テーマは何かだとか、んなことじゃなくて、自分のための物語をそこから切り出していければ、楽しいですもの。 この絵本を使って、ぜひ子どもたちに、切り絵をしてもらってくださいな。最初は簡単だと思っても、難しいのがすぐにわかって、だから、夢中で自分のイメージを切り出し始めるでしょう。 辻さん、いい仕事を、本当にありがとうございました。(ひこ) 『チコ・ボンボンと すてきなどうぐベルト』(クリス・モンロー:作 もん:訳 ひさかたチャイルド 2009) チコは腰に作業用の道具を揃えたベルトをしたお猿です。 まず、このベルトがかっこいいです。ハンズに売っていないかしらん。 もちろんこのベルトがある限り、チコはなんでも直してしまいます。 ところが、芸をするお猿を失った男がチコを誘拐。箱に閉じ込める。 でも幸いベルトは奪われなかったので、チコの大脱出! なんと言ってもこのベルトが最高です。あり得ないスーパー道具が入っているのではなく、あくまでホームセンター的なのでよろしい。 チコ、かっこいいよ。次の活躍を楽しみに。(ひこ) 『かわうそ3きょうだい』(あべ弘士 小峰書店 2009) 大きさの違うかわうそ3匹が、魚を捕って戻るまでを描いています。 ただそれだけのことなのですが、すべて擬音、擬態語で表されます。しかも大きさの違う三兄弟それぞれに沿った音と語で。 ですから、シンプルですがなかなか凝っていて、じっくりと眺めることができます。 そうそう、とられる魚の側だって、もちろんご意見がございますよ。(ひこ) 『白鳥の湖』(ピョートル・チャイコフスキー:原作 リスベート・ツヴェルガー:文・絵 池田香代子:訳 ブロンズ新社 2009) チャイコフスキー「白鳥の湖」の絵本化です。 バレエにもヴェージョンがありますが、基本は悲劇的結末です。 が、ここでは最後にハッピーエンドを用意しています。 それはそれで良いのですが、その処理が唐突で、最後の最後で、「実はね」といった幸せの作り方なのが弱いです。もう少し伏線を張るとか、どうせ改変するのならもっと大胆でも良かったのでは? これでは、元ネタを知っている読者を前提とした改変です。 とはいえ、ツヴェルガーの画は、幻想的に仕立ててしまいそうなそれを、現実的に描き、微妙な表情の変化まで描き入れていて、その細やかさはさすがです。(ひこ) 『いもほりやま』(山岡みね:作・絵 岩崎書店 2009) 幼稚園・保育園恒例のいもほり大会物です。 男の子が見つけたいものつる。どこまでもどこまでも長く伸びていて、彼はどんどんどんどんたどっていくのですが、山の頂上まで来てついに地面の中に潜り込んでいるのを発見。そこで、そいつを掘ってみると、たくさんのおいもが! つるとたどる横の動きと、最後の縦の動きが上手く活かされていて、楽しいリズムの作品です。 ただ、いもほり物ではない作品を読みたいです。 この素材は安全すぎます。(ひこ) 『宇宙船プロキシマ号の伝説』(ブライアン・グリーン:作 さくまゆみこ:訳 あすなろ書房 2009) 宇宙科学SF絵本です。 ブラックホールや時間の遅延問題など、難しそうな話題がでてきますが、父と息子の物語になっていることや、NASA提供の宇宙の美しい写真なので十分楽しめます。 私が子どもの頃は、優れたイラストレーターによる絵によってトキメキましたが、現在の宇宙好き、天文好きの子どもは、こうした写真の方が好きかな。 いずれにせよ、見ているとドキドキしてくるのは間違いありません。宇宙好きならね。(ひこ) 『かいぶつトロルのまほうのおしろ』(たなか鮎子 アリス館 2009) 羊の世話をしているニーナ。 いつもは両親の言うことを良くきくのですが、森の中に不思議な井戸があるという噂に負けて、出かけます。 ありました、ありました。 ニーナはそこに落ちてしまいますが、中は部屋になっていて、井戸ではない模様。 実はそこは、地中に埋もれてしまったお城で、人々を石に変えて、トロルが好き勝手をしていたのでした。 そう、井戸は、お城の煙突だったのです。 トロルに見つかったニーナは果たして? そしてお城のみんなの運命は? 様々な昔話がほどよくミックスされて、安定した物語が展開していきます。 とはいえ、こうした物語が、日本の昔話を借用してなされないのは、何故でしょう。 と言ったからと言って、嘆いているわけではありません。 日本の昔話を、グリム兄弟をまねて国民話にしようとしたのは巌谷小波でしたが、それほど根付きませんでした。アニメ日本昔話が一番、日本に日本の昔話を普及させたでしょうか。 しかし、明治以降の日本人は、西洋文化の中で育ち、教育を受けてきたのですから、グリムが自分たちの昔話でもあるのです。実際、日本の初等教育教員養成はグリム童話を使ってなされました。 それを文化的植民地化と呼んでもいいのですが(例えば、エヴァを代表として、日本のロボットアニメなんかはグノーシス派に依拠している物が多いでしょ)、軍事的植民地化を回避するために、自ら文化的植民地化(文明開化)を推し進めたのですから、私たちは植民地人との自覚を持っているほうが、ナショナリズムに走るよりよほどいいでしょう。だいち、考えてごらんなさい。私たちが西洋化以前の日本的文化として自慢するもののほとんどは、西洋によって価値を見いだされ、逆輸入した物ではありませんか。 手塚治虫も三島由紀夫も、自分たちが植民地人であることをよく自覚しながら作品を生み出したのですし、その辺りのコンプレックスを逆手にとって、読者を手玉にとるのが、村上春樹の上手さですね。(ひこ) 『どうぶつ』『たべもの』『のりもの』(ボコヤマクリタ ポプラ社 2009) 小さな赤ちゃん絵本です。それぞれのタイトル通りのものが、ページごとにシンプルな絵で示されていきます。 はっきりした輪郭や、表情、色遣いなど、ぬかりなく出来ていて良いです。 が、何故名称に英語も入れなければならないのかがわかりません。 売りやすさとしてそうなのはわかりますが、まだ母語も固まっていない赤ちゃんに外国語も覚えさせようとする親への誘惑は危険ですらあり、いかがなものか?(ひこ) 『あいうえ たいそう』(木坂涼:文 :絵 偕成社 2009) 母語を発音しやすくする、あいうえ体操であります。 放送部の練習の子ども向け絵本版かな。 でも、大人だって結構上手く発声できません。私なんか元々へただから、之を声に出して読むと、もう大変です。 スギヤマカナヨの絵が、へこみがちな私を盛り上げてくれます。(ひこ) 『トラトラトラクター』(小風さち:ぶん 関根立巳:え 福音館 「ちいさなかがくのとも」2010.02) 小風さちが「はたらくくるま」に挑戦です。 トラクターと台車が、はたらくとき以外は、基本的には切り離されていることへの小さな驚きと発見から始まったこの作品は、まさにそれを子どもに伝えようとしています。 合体変身ですね。エンジン戦隊カーレンジャーみたいです。 私はそうういとらえ方で、はたらくくるまに接近していいと思います。するとそこから社会がのぞき見ることができる。 大人の近代小説が行き詰まったのは、社会をのぞき見る方向ではなく、心をのぞき見る方向によりシフトしてしまったからですが、幸い子どもの近代小説や物語はまだ社会へと顔を向けています。もちろんそれは善し悪しを含むのですが・・・。(ひこ) 『星の王子さま』(サンテグジュペリ:作・絵 池澤夏樹:訳 岩崎書店 2009) 内藤ではなく池澤訳の文を使った、仕掛け絵本です。 テグジュペリの絵そのものが動きのあるものなので、というか動きの一瞬をとらえた絵が多いので、ポップアップしやすいですね。 『星の王子さま』は、サンテクジュペリの意図は別として、大人にとっての癒し本として、子どもの本を偽装して流通しています(詳しくは『大人のための児童文学講座』(徳間書店)を参照ください)。この王子さまが「子ども心」の理想型というのは、悪い冗談に違いありません(この王子は疲れた大人ですから)が、本気にされると子どもがいい迷惑でしょう。 帽子にしか見えない絵を描いてきた子どもには、「帽子の絵にしか見えないよ」と言ってあげるのが親切であり、子どもの側が「大人ってわかってないな」と嘆くのは、それはそれで当然である。ただ、それだけのことです。 そこに何か意味らしき物をほのめかすことで、テグジュペリがなにをしたかったかはわかりませんが、『南方郵便機』や『夜間飛行』や『人間の土地』のような、実体験に根ざした鋭い思索作品を描いていた彼も、世界大戦を目の当たりにしていささか疲弊したというところでしょうか。 この仕掛け絵本は、イメージだけが先行しているテクジュペリの挿絵を、おもちゃ箱のように徹底的に子ども向けにして、ごちゃごちゃと遊んでいるという点で、「子どもの本を偽装して」いる作品を逆手にとっていておもしろいです。 大人の『星の王子さま』ファンは怒るかもしれませんけど、遊んじゃえ!(ひこ) 【創作】 『ミムス』(リリ・タール:作 木本栄:訳 小峰書店 2009) 父王が、敵対する隣国の王と停戦交渉をするために出かけて不在であるところから、物語は始まります。 父のいないすきに、友人たちと羽を伸ばす王子フローリン。 そこへ、父王の使いが来て、交渉がまとまったので、祝いの席に出席するようにとの連絡が入ります。友好関係を継続するために隣国の姫と結婚させられるのでは? とはやし立てる友人たち。 どんな姫だろう? かわいいかな? なんてのんきに隣国へとむかう王子。しかしそこに待ち受けていたには隣国の王の罠でした。 すでに父王以下、国の重鎮たちは皆捕らえられ、そこにのこのことやってきたフローリン。 彼を殺さない代わりに与えられたのは、王の道化になることでした。逆らうと父親が殺されてしまいます。だからもちろん、脱出もできません。 この国の道化はミムス。フローリンは彼の弟子となり、生き延びるために屈辱的な身分を生きるのです。ミムスとは代々の道化の名前です。だからフローリンも今の名前はミニミムス。ミムスが死ねば彼がミムスです。最初はミムスを軽蔑し憎んでいたフローリンですが、やがて彼の道化としての生き方を知り・・・。 フローリンの運命は? 設定だけでもう、読みたくなるのは必至。 リリ・タールはそれによく応えて、読み始めたら止まりませんよ。 文章がすっと頭に入ってくるスキルが必要なレベルですが、最初、「読みにくいなあ、難しいなあ」って思う読者も、ちょっとだけがんばってみて。だんだん頭に入ってきますから。(ひこ) 『バレリーナ・ドリームズ』(アン・ブライアント:作 神戸万知:訳 新書館 2009) バレエのサクセスストーリーではなく、バレエを習い始めた子どもの普通の日常を描いて、バレエ物語の中で独自の世界を歩んできたこのシリーズもついに最終巻。 サクセスではありませんが、大きなバレエ団の公演、『くるみ割り人形』の子役に三人は選ばれます。そりゃあ最終巻ですから、これくらいのご褒美はあげなくちゃあ。 でも、やっぱり三人それぞれの悩みや問題に焦点は絞られます。 そして、バレエを習いたい子どものために、細かな解説を加えることも怠りません。特に今作は、プロの舞台裏ですから、リハから本番まで、興味津々。彼女たちが通う練習スタジオの更衣室より楽屋が汚いけど、それでもローズにとってはスタジオよりすばらしい場所だとか、リアルな感情が描かれています。楽屋とか舞台の袖にいた経験がありますが、確かに独特なほこりっぽい匂いがしたりしますものね。 コラリー先生との信頼関係が、今作でもとっても気持ちがいいですよ。 こうゆう、普通の日常物語でトキメクものがもっと出てくるといいですね。 そうそう、このシリーズは章ごとにポピー、ジャスミン、ローズ、三人それぞれの視点で語られるという、かなり複雑な描き方でしたが、そうした方法のおもしろさにも目覚めて欲しいですね。(ひこ) |
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