No.155

       
【児童書】
『パークフェアリーのパーリー』(ウェンディ・ハーマー:作 マイク・ザーブ:絵 あんどう ゆう:訳 講談社 2010)
 キラキラ楽しい、一巻、1エピソード幼年童話シリーズ。
 パーリーは公園に住む妖精の女の子です。みんなに公園を気持ちよく使ってもらおうと、紙に計画を書いて、管理人さんのように世話をしているのですが、なんだか大混乱。
原因は、計画表を破ってバラバラにつなぎ直したネズミのいたずらでした!
カラフルな色使いは、子ども読者がすぐに目をつけるでしょう。ディズニーアニメのようなキャラクターたちは好みの分かれるところでしょうけれど、まあ、だいたいは好きかな。(ひこ・田中)

『ソックモンキーのおくりもの』(秋山花 講談社 2010)
 古いソックスで作る縫いぐるみのモンキー。
 おばあちゃんが作ったそれを大切にする孫娘。いつも一緒に行動するものですから、色々痛んでしまって……。でも、なぜか翌朝、モンキーは元通り。どうして?
 もちろん、謎は誰にも判るものですが、判っているから安心して楽しめます。
 秋山の画は、色使いも筆遣いも、まだ迷っている感じが少しします。(ひこ・田中)

『うわさの ようちえん あきばこの うわさ』(きたやま ようこ 講談社 2010)
 好評シリーズです。
 今回は、色んなあきばこを、園児に配って、遊びます。それぞれが特徴ある箱を選びます。
 ぶうたんは大きな箱。らんらんは小さな箱。ふらわあちゃんは宝箱。でも、ぼっくすくんはどれも選びません。だって、彼自身が箱だから。
 さて、どんぐり広いをしましょう!
 きたやまは、様々な大きさの箱、形の箱、その違いを巧く伝えていきます。(ひこ・田中)

『こども ほじょりん 製作所』(安井寿磨子 講談社 2010)
 安井の子ども時代のお話です。
 安井の家は、日本で一軒の自転車補助輪工場。そこで父親のサポートで自転車の補助輪を外せるようになるまで。
 父親が作っている補助輪なのに、自転車に乗れるように成長したら、それを捨てなければならない。そんな心の揺れが丁寧に、ユーモアもまじえて描かれていきます。
 安井の動きあるスケッチ、色の置き方など、作りの良さがよくわかります。
 ただし、今の子どもに伝える工夫はもう少し必要でしょう。
 そうそう、堺市は自転車の街なんですよ。(ひこ・田中)

『レトロと謎のボロ車』(エミリー・ロッダ:作 さくまゆみこ:訳 たしろちさと:絵 あすなろ書房 2010)
 今回は七番地に住む車整備が得意なレトロくんが主人公です。
 彼の元にロージって人から手紙が。訪れると、古い車をもらって欲しいとのこと。お金持ちだったけれど泥棒に入られ貧乏になり、家を売らなければならず、この愛車を捨てるに忍びないとのこと。
 でも、クラッシックカーじゃなく、ただのボロ車だしと困るレトロ。
 人のいいレトロはもらって帰りますが、実はこの車には…。
 短いお話ですが、毎回ちゃんとおちまでたっぷりたのしませてくれます。たしろの絵もすっかりなじんで、さあ、あとお話は3つ。(ひこ・田中)

【絵本】
『ぼくがいちばん!』(ルーシー・カズンズ:さく・え 灰島かり:やく 岩崎書店 2011)
 たとえば私のような面倒くさがりはともかく、誰でも一番になりたがるのは自然なことです。
 いぬくんも、一番が好きで、他の生き物と比べて自分が一番であることを見つけては、喜んでいました。みんなそれでがっくり、うんざり。でも、一番って、他との比較で初めて成立するだけのものですから、その比較対象の生き物が変わってしまうと……。
 別に論理の絵本ではありません。友情絵本です。でもそれを論理とからめて豊かな説得力で見せていくルーシーに脱帽。
 絵はもちろん大好き!(ひこ・田中)

『ゴッホ 風がはこんだ色彩』(キアーラ・ロッサーニ:文 オクタヴィア・モナコ:絵 結城昌子:監訳 西村書店 2010)
 フィンセント・ゴッホの生涯を弟テオのそれと共に描いていく伝記絵本。
 子どもの頃のエピソードからフィンセントの死までを描いていますが、画家ゴッホの現代の評価から見直すというより、出来るだけゼロ地点から語っているのに好感が持てます。
ゴッホの話を絵にするのは大変でしょうが、オクタヴィアは油彩から水彩まで様々なパターンを切り絵のようにコラージュすることで、絵画から距離を置くことに成功しています。この絵を眺めるだけでも価値ありです。(ひこ・田中)

『シルム 韓国のすもう』(キム・ジャンソン:作 イ・スンヒョン:絵 ホン・カズミ:訳 岩崎書店 2011)
 韓国すもうのトーナメントの様子を描いています。最後に残ったのは大男と小さな男。果たして戦いの結末は?
 この決勝戦の細かな動きをイ・スンヒョンは力強い線と荒々しい筆の運びで見事に表現しています。田島征三の画を彷彿とさせます。
 日本の子どもたちにとっては、同じような格闘技が韓国に存在するのを知ることは、文化を考え始めるためにとても良いです。
 でも、それ以前に、ワクワクと楽しい出来なのが一番いいですね。(ひこ・田中)

『ぼくの図書館カード』(ウイリアム・ミラー:文 グレゴリー・クリスティ:絵 斉藤規:訳 新日本出版社 2010)
 一九二〇年代。奴隷解放はされても、人種差別はまだ隅々まで蔓延している時代。「ぼく」は本を読みたいけれど、図書館は黒人に本を貸し出してくれません。本を読んでいるのが見つかっても大変です。そんなとき「ぼく」は仕事先のフォークさんに頼んで、彼のカードで本を借ります。
 本によって世界を知っていく「ぼく」。知識への欲求はもう後戻りできません。知識が力になっていくのです。(ひこ・田中)

『アンネの木』(イレーヌ・コーエン=ジャンカ:作 マウリッツオ・A.C.キュアレーロ:絵 石津ちひろ:訳 くもん出版 2010)
 アンネとその家族が隠れていた部屋の窓から見える裏庭のマロニエの木に焦点を当てた絵本です。
 四季の移ろいはいつの時代も変わらず続いて、アンネたちが隠れ暮らした二年間もまたそうだからこそ、彼女の傷みが伝わってきます。
この部屋には私も入ったことがあるのですが、暗くイメージしていたのと違って、裏庭の風景がとても穏やかなのに、不思議な気がしたのと同時に、少しだけほっとしたのをよく覚えています。(ひこ・田中)

『トリックアート図鑑 だまし絵』(北岡明佳:監修 グル−プ・コロンブス:構成・文 あかね書房 2011)
 だまし絵って、必ずどこかの年齢で知って、「おもしろい!」って思うものですが、それは自分が見知った尺度や感覚を揺らしてくれるからでしょう。
この図鑑はそうした入門からどっぷりまで、様々なだまし絵を、もう感動的なくらいたっぷりと、わかりやすく見せてくれます。
良いです。
図書館はもちろん、学校図書館は置いて欲しい。子どもたちの概念を揺らすために。
それと、子どもへのお土産にもいいですよ。これを喜ばない子どもはまずいない。気持ち悪くなる子はいるでしょうけれど。
続いて『ふしぎ絵』も出るそうです。楽しみ、楽しみ。(ひこ・田中)

『しんた、ちょうたの すっとびかご! なぞの おおにもつ』(飯野和好:作 学研 2010)
 好調、飯野のシリーズ2作目。籠かきのしんたとちょうたの活躍を描きます。
 今作は、運んでいた荷物が誘拐されたお姫様と知って助けます。お庭番のチャンバラもかっこいいです。
 飯野の調子の良い言葉に乗っかって、時代劇絵本を子どもも一緒に楽しんでくださいな。(ひこ・田中)

『あふりかのあかいみち』(やましたはるお:さく しまだ・しほ:え 教育画劇 2010)
 アフリカのクロアリの子どもが遠くに行こうと歩いていると、オンブバッタが大変だろうと背中に乗せてくれます。
 次にカメレオンが彼らを乗せてくれてと、順々に大きくなっていきます。
 目新しい工夫ではありませんが、確実に楽しい工夫です。
 しまだのパステルと水彩による画はとても勢いがあるのに、不思議に柔らかです。(ひこ・田中)

『よくぞ ごぶじで』(ルドウィッヒ・ベーメルマンス:作 江國香織:訳 BL出版 2010)
 一九五九年作品。
 キツネ狩りに出かける楽しいシーンから始まります。
 でもそれは、キツネの家族にとっては命に危険が及ぶ出来事。遊びではありません。ベーメルマンスは、キツネの家族に視点を切り替えて、キツネ狩りの物語を綴って行きます。
 いかに人間を出し抜くか?
 朝から夜まで、森の明るさの変化など、とても繊細に描かれていて素敵です。(ひこ・田中)

『十二支のしりとりえほん』(高畠純 教育画劇 2010)
 十二支で展開するなんでもありシリーズ。今回はしりとりです。ねずみくんから始まってねずみくんまで、うまくしりとりで物語は紡げるでしょうか?
 帯も紅白の注連飾りでめでたいめでたい絵本です。
 もちろん、こうした条件物は、無理が出るので、その無理をどうおもしろく突破するかが腕の見せ所。無理矢理でも笑わせたが勝ち。(ひこ・田中)

『ごきげんなライオン ともだちはくまくん』(ルイーズ・ファティオ:文 ロジャー・ヂュボアザン:絵 今江智・遠藤育枝:訳 BL出版 2010)
 動物園にやってきたくまくん。さっそくライオンが挨拶に行くとなんだか友好的じゃない。どうして?
 実はね、実はね、くまくんは……、
 圧倒的な安定感。(ひこ・田中)

『はしれ! やきにくくん』(塚本やすし ポプラ社 2011)
 寿司の次は焼き肉。塚本は実に正しい路線を歩んでいます。
 お店にやってきた焼き肉の部位たちがなんだか元気がない。そこで野菜君たちも協力して運動を始めます。
 実に正しい。
 さあ、元気になったら、しっかり食べてもらいましょう。
 でも、お客の子どもは野菜嫌い。当然野菜君たちはしょげるので、今度は焼き肉君たちの協力でお肉ごと食べさせちゃえ! ね、おいしいでしょ。
 実に正しい!(ひこ・田中)

『ブルルルル はるは まだ?』(イルソン・ナ:作 小島希里:訳 光村教育図書 2010)
 ウサギ、コモ、鹿、羊。様々な動物の冬支度を描いていきます。
 なんといってもすばらしいのは、イルソン・ナの絵作り。ドローで作った質感の柄やパターン画、水彩のスケッチなどをコラージュ(CGで?)して画面を構成していきます。その見たことのない画面の美しさ!(ひこ・田中)

『韓国のお正月』(イ・サンヒ:作 ホン・ソンジュ:絵 おおたけきよみ:訳 岩崎書店 2010)
 タイトル通りの絵本です。
 他国の風習というものを知る機会はなかなかなく、ぜいぜいが映画やTVドラマで見るくらいなのですが、こうして絵本でゆっくり眺められるのはありがたいです。
 子ども向け絵本ですので、細かく描かれているのも良いですね。ただ、韓国の子ども向けですので、日本人には説明不足になっていることが多くなるのは致し方がないところ。(ひこ・田中)

『笑顔大好き 地球の子』(田沼武能 新日本出版社 2010)
 子どもを撮った写真絵本をたくさん作っている田沼の新作。
 今作は、世界中の子どもの表情が一杯並んでいます。笑顔あり、妙にまじめくさった顔あり、遊ぶ子、お手伝いの子、学ぶ子、色々、色々楽しいです。どんな状況での写真かの田沼の解説も、簡潔で気持ちのいい仕上がりです。(ひこ・田中)

『もりのねこ』(工藤有為子:文 あべ弘士:絵 小峰書店 2010)
 キジネコのキエシェは、猟師小屋で寝泊まりしていますが、食料調達などは自立したネコ。
毎日森の様子をうかがって、狩りをして、夜になると猟師と一緒に眠ります。
野生のネコだけだとつまらないですが、冒険心と緊張感と、そのあとの弛緩具合がなかなかよろしい作品です。
ネコは性格や育てられ方によって色んな生き方をしますが、畑地や大きな公園でもあれば町中でも、結構自分で食料調達をしてきます。ただ、町中ネコは、調達品を家の中で食べるので、同居人の人間は、少々覚悟が必要ですが。(ひこ・田中)

『ふゆねこ』(かんのゆうこ:文 こみねゆら:絵 講談社 2010)
 おお、「四季ねこえほん」ですって! ネコ好きにはたまらんです。
 ちさとの母親が亡くなります。
雪の日、彼女の元にふゆねこと名乗る真っ白なネコがやってきて、母親の代わりになるという。編みあげられなかった毛糸の赤い手袋を仕上げて欲しいと頼まれたと。
編み終えたふゆねこは去っていくのですが……。
 流れ、構成、色使いと、絵本としてのレベルは高いですが、ネコの立ち姿を描くのは難しく、こみねも成功しているとはいえません。が、それを仕草によってうまくカバーしているのはさすが。4巻ありますから今後の変化を楽しみに。
物語は時代がかっていますが、「感動」趣味の方にはおいしい果実でしょう。(ひこ・田中)

『ねえ、あそぼ! 2さいのパンダちゃん』(のぶみ 講談社 2010)
 「しかけのないしかけ絵本」とキャッチされたシリーズ。
 輪郭線を強調したシンプルな正面(対面)画という基本を押さえ、これを読み聞かせるだろう大人と、見聞きするだろう幼児の参加を前提として、文は常に呼びかけとなっています。それが「しかけ」です。
このグレードの絵本はおもちゃとして扱うのが吉ですから、それを意識的にしているのが正解。(ひこ・田中)

『やさいむらのなかまたち 冬』(ひろかわさえこ 偕成社 2010)
 これで四季がそろいました。
 今回は冬においしいおやさいさんたち。にんじん、だいこん、はくさいなどが、キャラクターとして描かれると同時に、詳しく解説されます。ですから、野菜への知識も仕入れられるわけです。
 一応、食育絵本になるのでしょうけれど、あるようでなかった作品ですね。(ひこ・田中)

『おひさまとおつきさまのしたで』(マーガレット・ワイズ・ブラウン:作 黒井健:絵 教育画劇 2010)
 マーガレット・ワイズ・ブラウンの文に黒井が絵を添えました。
 柔らかな月明かりの中で眠る動物の親子たちを描いていきます。最後は人間の子ども。
 子どもの心を穏やかにしたり、小さな発見を促したり、マーガレット・ワイズ・ブラウンはそういう仕事をしてきたのですが、これもその一つ。(ひこ・田中)

『だれかしら』(佐々木マキ 福音館書店 2011)
何かの後ろに隠れて、少しだけ姿が見えている動物。次のページでそれが出てきて判るという、めくればパッ!物。
 幼児にとって最初は謎かもしれませんが、二度目からの方が楽しいでしょう。自分も何か知っているのがうれしくてページを繰る。それに親がつきあうことでコミュニケーションが深まるのですね。(ひこ・田中)

『おおきな けやき』(林 木林:作 広野多珂子:絵 すずき出版 2011)
 様々な動物たちの住まいにもなっていた大きな木が、ついに寿命を迎えて倒れました。
 この絵本は倒れた木への動物の思いや、それが倒れたことで生まれてくる豊かさを語っていきます。
 広野多珂子は科学絵本画的綿密さと、物語的奥行きを、微妙にバランスをとって描いています。(ひこ・田中)

『クリスマスにやってくるのは?』(K.バンクス:さく G.ハレンスレーベン:え いまえよしとも:やく BL出版 2010)
 クリスマスの日。いったい何が起こるのでしょう。そのドキドキは、バンクスが少しじらしながら語っていき、ハレンスレーベンが、冷たいはずの冬の風景を暖かく描いていきます。(ひこ・田中)

『ルララとトーララ クリスマスのプレゼント』(かんのゆうこ:ぶん おくはらゆめ:え 講談社 2010)
 2匹の子ウサギ、クリスマスのプレゼントは何がいい? ふかふか、あったかセーター。でも、どんな色?
 ということで、7色の色のセーターを着た時のエピソードが語られます。色は、夕日、太陽、海、夜空など、世界と関連づけられます。色によって世界を認識します。
 で、もらったセーターの色は?
 物語運びも絵も、もう少しシンプルにすっきりした方が、もっと世界が見えたでしょうね。(ひこ・田中)