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【エッセイ】
『夏海の直球勝負』(長崎夏海 影書房)
 「子どもプラス」連載エッセイの書籍化です。
 長崎夏海の作家としての背景と、ingが正直に書かれているので、信頼感が増します。長崎ファン必読のみならず、「子ども」を考えるための一冊です。

【小説】
『ワンス・アホな・タイム』(安東みきえ 理論社)
 昔話っぽい、または寓話っぽい物語が七編。
 パロディではなく、あくまで「っぽい」のがミソ。
 ここには知的遊戯や、既成の価値観の転覆めいたものはありません。ただただあほらしいお話が語られていきます。だからとってもリラックスして、にまり。
ついつい、何かを伝えたがってしまう誘惑から逃れた身軽な小さい物語たちをお楽しみくださいな。

『ネジマキ草と銅の城』(パウル・ビーヘル:作 野坂悦子:訳 村上勉:絵 福音館)
 王様はもう1000歳。すっかり体が弱ってしまわれました。お仕えするノウサギは心配でたまらない。ネジマキ草は、体のねじを巻き直してくれる薬草。早くそれを手に入れなければ! 魔法使いが探索を買って出る。一方ノウサギは、王様がそれまで元気でいるようにしなければいけない。方法は素敵な物語を毎日お聞かせすること。そこで、様々な動物たちが順に物語ります。
 仕込み方が巧みですが難しくもなく、物語の物語を楽しめます。
 絵が村上勉というのもすてき。でもちょっとはまりすぎかもね。

『エリザベス女王のお針子』(ケイト・ペニントン:作 柳井薫:訳 徳間書店)
 時はエリザベス朝。シドニー卿お抱えの仕立て職人の娘メアリーが主人公です。彼女は女王暗殺の計画を耳にしてしまいます。そのとき、陰謀を企む者に見つかった父親は殺されてしまう。お針子の話など誰も信じてはくれませんから、敵を知りながらもそれを告発できないメアリー。彼女はお針子の腕を見込まれて女王付きになるのですが、果たしてメアリーと女王の運命は?
 歴史を背景に語られるサスペンスはやはりおもしろいねえ。

『もういちど家族になる日まで』(スザンヌ・ラフルーア:作 永瀬比奈:訳 徳間書店)
 父と妹を交通事故で無くし、ママは失踪。おばあちゃんと一緒に暮らすことになったオーブリーの日々を描きます。
 彼女にとってとても悲惨な事態なのですが、だからといって毎日は続いていき、友だちができ、ママも見つかり、親として次第に回復していく様が、実にまっすぐに語られていきます。そのさわやか度はなかなかなもの。
 堀川理万子の表紙もいいぞ。

『空色の凧』(シヴォーン・パーキンソン:作 渋谷弘子:訳 さ・え・ら書房)
 「凧の色は金曜日の青でなきゃ」と、なにやらランボーのようなことをいう少年ハル。いつも不思議な心の動き方をする彼と、幼なじみのオリビアの日々を描いています。
 ハルの父親は幼いときに亡くなり、今母親は別の男性と暮らし、結婚しようとしています。それが気に入らないハルは色んな画策をするのですが・・・。

『秘密のマシン、アクイラ』(アンドリュー・ノリス:作 原田勝:訳 あすなろ書房)
 ジェフとトムは学校屈指のダメダメ生徒。いつも遊んでばかりで、学校の悩みの種。そんな二人が遺跡で見つけたのが雲型UFO。それの上に乗ってボタンを押すと見えなくなって、どこへでも飛んでいけるのです。
 UFOの構造や、何故存在するかや、操作方法などを知りたくて二人は、先生たちに色んな質問をします。ついにはラテン語の学習まで! もちろん理由は秘密ですから、先生たちの驚くこと驚くこと。
 荒唐無稽な設定で、物事を理解していくことや考えることのおもしろさを巧く伝えています。
 こうした作りの場合、大人の思惑がどうしても見え隠れしてしまうのですが、この作品はそんなこともなく、ユーモアたっぷりに楽しませてくれます。
 レベルの高いエンタメです。

『ウサギのトトのたからもの』(ヘルメ・ハイネ:作・絵 はたさわゆうこ:訳 徳間書店)
 トトは学校を卒業しました。自分だけの宝物を見つけたいと出かけていきます。色々とんちんかんなことも起こりますが、ちょっとブラックでありながら幼年物的な前向きさも全開で、レベルの高い作品です。

『変身』(フランツ・カフカ 酒寄進一:翻案 牧野良幸:画 長崎出版)
 酒寄がカフカの傑作を翻案し、牧野の画で新たにイメージを膨らませています。装丁から箱に至るまで全部で味わいます。つまりは、電子書籍では成立しない、本だけのための作品です。
 原作の不条理不決定な面白みはやはり言葉が醸し出すものですから、いささか削がれていますが、カフカ世界への入門にはいいできあがりです。

【絵本】
『おんなじ、おんなじ! でも、ちょっとちがう!』(ジェニー・スー・コステキ=ショー:作 宮坂宏美:訳 光村教育図書)
 アメリカの子どもがインドの子どもに絵を添えた便りを送ります。インドの子どもからもお返事。
 たくさんの子ども、人であふれる都会、木に登って遊ぶこと、みんな言葉では同じだけど、文化や環境によってそれは全く違うのを、二人の子どもは知っていきます。
 これも絵本ならではの伝え方。

『さよならなんてだいきらい』(レベッカ・ドーティ:作 千葉茂樹:訳 ほるぷ出版)
 さまざまなお別れシーンが描かれています。でも、さよならは、再び出会うための約束(「セーラー服と機関銃」)であるのも確か。という、前向き思考絵本です。
私の場合、人とは出会うときは出会うだけなので、別れるときも別れるだけと思っていますが。で、また出会えたら、「やあやあ」。そんだけ。
レベッカ・ドーティの絵が温いぞ。

『どうやって作るの? パンから電気まで』(オールドレン・ワトソン:作 竹下文子:訳 偕成社)
 物作り開示絵本。71年作ですから、今はもう見えにくいものも多くあります。
 いいのは、ゴムならゴムの生成までで終わらずに製品までを描いているところ。こうして私たちは原料から、自分が手にしている製品目での流れを知ることができます。
 スマートフォンやタブレットで、「エコシステム」などという「ゲットーシステム」にどんどん追い込まれている現在、押さえておく必要のある部分です。
 ただし、原材料を得るための植民地や搾取の問題まで辿れていないところが作者の視点の狭さです。

『ひるねのね』(あべ弘士 ポプラ社)
 ゾウである。移動しながら餌を食べるのだが、群れはいつもちゃんと子ゾウを守っている。だから子ゾウはお腹が一杯になったら安心して眠るのだ。ひるねのね、とね。
 という、ただそれだけのことをあべは、大事に大事に描いています。
 昔、動物園でお散歩中の子ゾウの頭をなでさせてもらったことがある私は、もうふにゃふにゃになるのだ。

『みっつのねがい エストニアの昔話』(ピレット・ラウド:再話・絵 まえざわあきえ:訳 福音館書店)
 ある村に二人とも、なまけものだから貧乏で仲も悪い夫婦がおりました。謎のおじいさんが現れて言うことにゃ、三日後に三つの願いを叶えてあげるから考えておけ。
 二人は自分勝手に願いを次々に思い浮かべます。そんなものだから、三日目になったとき、妻はたまたましょうもない願いをしていました。大きなソーセージ一本。怒った夫はソーセージを妻の鼻に付けろと願ってしまい・・・。という昔話らしいシンプルなお話です。
 すばらしいのはピレット・ラウドの絵。こってり描き込むのではなく、挿絵のように淡泊な画面なのですが、描かれている絵のシュールで奇態な雰囲気なこと! それが、妙におかしいのですね。こんな画家と組んでみたいなあ。

『かっぱ』(杉山亮:作 軽部武宏:絵 ポプラ社)
 二人のおばけ絵本シリーズ3作目。
 かっぱはなんだかもう、カワイイや、オッチョコチョイなどの好感度の高いいたずら者キャラとして流通していますが、怒れば本当は怖いぞと、杉山と軽部が仕掛けます。でも、最後はちゃんと回収していますよ。

『カラー図鑑 ストップ原発2 放射能汚染と人体』(野口邦和:監修 新美景子:文 大月書店)
 『ストップ原発』第二巻。データも豊富に、わかりやすく解説されています。こうした知識はやはり知っておく必要があります。それは3.11とはかかわりなく、それ以前でも。3.11から変わったのは、こうした書籍を出しやすくなったことです。もちろん、出す必要のない状況が一番いいのですが。学校図書館には置いてくださいね。

『カエサルくんとカレンダー 2月はどうしてみじかいの?』(いけがみしゅんいち:文 せきぐちよしみ:絵 福音館書店)
 月の内、二月だけが何故日数が少ないかを、太陽暦を決めたカエサルから教えてもらうという趣向の絵本。
 これは、ほとんどの子ども(大人も?)が疑問に思いつつそんなもんだとやり過ごしているし、それで別に困ることもないけれど、知るとなるほどなの話です。その背景には歴史も隠されていますし、なにより一件何の役にも立ちそうもない知識のおもしろさがわかります。こうした知識の積み重ねが教養を支えます。だから大事なんですね。近頃、直接役立つ知識ばかりを子どもに注入しようという親が増えていますが、あれは虐待です。

【エッセイ】
『春を待つ里山』(会田法行:文 山口明夏:写真 ポプラ社)
 『被爆者』、『プロイ』の会田が福島の人々と出会い、彼らの思いと現状を伝えるフォトエッセイ。今作では友人の山口が写真を担当し、会田は取材に徹しています。取材といっても事実だけを伝えるのではなく、これまでの作品と同じように出来るだけ相手に寄り添い、必死で理解しようとする様が伝えられます。
会田の良さは、自身が理解し尽くせるわけではないことを常に自覚していることです。だから読む物にリアルなのです。
 原発事故による、理不尽な状況に置かれた様々な一家の姿が、原発とは何かを雄弁に語っています。

『福島からあなたへ』(武藤類子:文 森住卓:写真 大月書店)
 福島在住の武藤からの脱原発メッセージ。言葉の一つ一つにリアルが宿っています。彼女が養護学校の教員だった当時、障害児を普通学校から養護学校に分離してしまうことに反対運動を繰り広げていた(私もそうでしたが)障害者が、対立しながらも武藤と友人となっていったことを語る解説は、武藤という人間をよくあらわしている。

『12歳のキミの語る憲法』(福島みずほ:編 岩崎書店)
 色々異論もございましょうが、とにかく一冊、中学の図書館に。
 憲法に沿った話をしているのが「偏向」と見なされる奇妙な時代ですから、腰を強くするための一冊として。

【YAの世界】(読売新聞掲載)
2012.09
歴史の授業は、年号を覚えるのが面倒な割に何のために必要かわからないと思っているYAも多いでしょう。確かに、大化の改新も、フランス革命も、第二次世界大戦も知らなくても暮らして行けます。
でも、私たちが生きている社会は、過去の様々な出来事の結果としてここに存在します。だから歴史を知れば知るほど、今の世界がなぜこんな姿なになってしまっているのかがより分かるのです。つまり、歴史の知識増やせば、自分がどんな場所にいて、これからそこをどんな場所にして行きたいのか、そのためにはどんなことをすればいいのかが見えてくる。社会にとってあなたは必要な存在なのが具体的につかめる可能性も高くなっていきます。地理もお忘れなく。だって知らないと世界全体をイメージできないでしょ。
『ともしびをかかげて』(ローズマリー・サトクリフ 岩波少年文庫上下巻)は、五世紀末、四五〇年もブリテン(イギリス)を支配していたローマ軍が撤退。アクイラはローマ軍の将校ですがブリテン人です。支配もそれだけ長く続けば血縁も出来、文化も融合しています。だからアクイラはローマの軍人としての誇りを持っていますが、やはりブリテンこそ自分の場所だと、脱走兵となってこの地に残り、苦難の道を歩み始めます。現代とは全く価値観の違う時代の知識と、それでも現代と変わらない人間の愛憎の存在を知ることができます。
『翼のある猫』(イザベル・ホーフィング 河出書房新社 上下巻)。夢を決して忘れない少年ヨシュア。その能力を買われ、夢を通路にして時間を行き来し、物を売り買いする組織に雇われます。彼には盗癖もあり、それも商売に役立つのですが、組織の本当の目的が徐々に明らかになり・・・・・・。この物語の背後にはオランダが過去に行っていた植民地主義への作者の批判が隠れています。そうした歴史を調べながら読めば、楽しさが倍増。そう、歴史に知識は物語を楽しむツールでもあるのです。

2012.10
現代は私がYAだった40年前と比べて、人と直接繋がらなくても生きて行きやすくなっています。極端に言えば、ネットと通販があれば、外に出なくても衣食に困りません。戸外でも、音楽を聴きながら歩行していれば、周りの話し声を遮断して自分のプライバシーを守ることができます。
しかし、簡単に一人になれる今は、簡単に一人になってしまう今でもあります。だからこそ以前にも増して私たちは、誰かと繋がっていたいと願うのでしょう。
今日は、繋がりの物語を二つ。
『深海魚チルドレン』(河合二湖 講談社)。中学に入学した真帆がしなければならない第一のことは友達作りです。学校が繋がりを持っていないと過ごしにくい世界なのは、誰もが知っています。が、頻尿になってしまった彼女は、トイレのことで頭がいっぱいで、そんな努力をしている余裕などありません。それを説明することもできないし。他の誰のせいでもなく、自分のせいでもなく訪れる孤独。外で急にトイレに行きたくなった真帆は、『深海』という喫茶店に飛び込みます。そこで出会ったナオミやその母親の繋がりによって、しだいに癒されていく孤独。と同時に、繋がりあえない親との関係も見えてきます。孤独を感じている人は、この物語と繋がってみてください。
『チロル、プリーズ』(片川優子 講談社)。チャコは高校三年生。いつも彼女をリードしてくれている親友のトキコが突然結婚をすると言い出します。お相手は10歳年上のタニモトさん。今の自分たちの重要事項は大学受験のはずなのに結婚ってどういうこと? うろたえ、動揺するチャコ。異性と意識したことはない予備校仲間のポンちゃんに相談したり、タニモトさんを探ったりするチャコ。チャコとトキコの元々あった強い繋がりが、どんな風に変化し、深まっていくかが暖かく描かれています。受験で余裕が無くなったとき、頭を切り換えるため、読んでみてください。

【児童文学評論】 No.167 Copyright(C), 1998〜