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【児童文学】
『そして、ぼくの旅はつづく』 (サイモン・フレンチ:作 野の水生:訳 )
 旅人と音楽。なんとも魅力的で、嫉妬さえ覚えるこの二つが物語のベースになっています。
 記憶にない昔に父を失った少年アリは、母と共にドイツの祖父の家で暮らしています。ヴァイオリニストであった祖父の影響か、アリは小さな頃から才能を発揮し、演奏も作曲もします。
 母と共に旅をするアリ。祖父はふたりを暖かく見守っています。やがて、シドニーは母親は新しい伴侶を見付け、一緒に暮らすことになるのですが、祖父を大好きなアリにとってそれはさみしさの始まりでもあります。
 祖父宛のメールという体裁で書かれた本書は、愛し合うこと、いたわり合うこと、人世を楽しむことを描いていくのですが、その基本には音楽があり、そして、大人達がアリを尊重してちゃんと対峙している姿が美しい。
 読み慣れない子どもには入りにくいと思いますが、巧く入りこめれば、かなり心が飛躍するでしょうね。

『ブラック・ダイヤモンド3』(令丈ヒロ子 岩崎書店)
 人の心の闇もまさぐる令丈ミステリーの3巻目です。今度はラブストーリーも加わって、よりいっそう粒が立ち上がってきました。嫉妬や見栄や欲望と受容や知力。様々な酵素が働いて、さてさて、そのたどり着く先は?

『あたしって、しあわせ!』(ローセ・ラーゲルクランツ:作 エヴァ・エリクソン:絵 菱木晃子:訳 岩波書店)
 まず、『おにいちゃんがいるからね』(徳間書店)の絵描きエヴァ・エリクソンの表紙絵で幸せになれます。
 そして物語。ドゥンネは、小学校で友だちができるか心配。おとうさんにかわいがられていたから、それ以外の関係にまだ、そんなに慣れていないのね。
 案の定、遊び時間にひとりぼっち。でもでも、もう一人のひとりぼっちを発見! それがエッラ。
 たちまち二人は大親友に。
 毎日毎日、一時間一時間が幸せ!
 この感じは、覚えている大人も、わかる子どもも多いでしょう。
 ところが、エッラは引っ越すことになって、たちまちドゥンネから幸せが逃げていく。
 もちろん、大丈夫。
 幸せに向かって物語は進みますよ。

『「リベンジする」とあいつは言った』(朝比奈蓉子:著 ポプラ社)
 アレルギーで出た湿疹でいらついていた「ぼく」は、教室で浮いている転校生の江本をついいじめてしまう。
めがねを取り上げて遊んでいたら、壊れてしまったのだ。そのおかげで、江本は階段から落ちて足首を骨折し、入院。
その顛末を担任に知られまいと、クラス中が嘘をつく。「ぼく」もそれに従ってしまう。
「ぼく」は、ただ一人病院を訪ね、江本に謝罪するけれど、江本の返事は「リベンジする」だった。
「ぼく」は江本の従僕のように扱われるのですが・・・。
「空気を読む」ことでは決して解決しない、前へ進めない出来事を描いています。

【絵本1】
『アトリエのキツネ』(ロランス・ブルギニョン:作 ギ・セルヴィエ:絵 中井珠子:訳 BL出版)
 雪の冬。アトリエにいた「私」はハンターから逃れたキツネと出会う。それから何度も見かけたキツネにエサを与えるようになり、交流のようなものが生まれる。やがて子ギツネが生まれ、画家は彼らの姿を描かずにはいられません。
しかしもちろんそれは人間の側が思っていることで、キツネには関係がないかもしれない。そうしたあわいに作品は立っています。
ギ・セルヴィエは、絵本の絵と「私」という画家の絵をシームレスに描いていくことで、絵本の中へと誘います。

『まほうの森のプニュル』(ジーン・ウィリス:作 グウェン・ミルワード:絵 石井睦美:訳 小学館)
 小さな頃に森の河で見つけた森の子プニュルとの不思議な交流を描きます。最初は森から連れて帰ってコップやバケツで飼いますが元気がなくなり・・・。
 悪魔と怪獣が合体したような姿が可愛く見えるのが素敵。

『王国のない王女のおはなし』(アーシュラ・ジョーンズ:文 サラ・ギブ:絵 石井睦美:訳 BL出版)
 王女は王国がなく、小さな馬車に荷物を積んで子馬と共に旅をしています。美しい彼女を娶りたい王子や王は数知れず。だけど、王女は受け入れません。そんな彼女が出会った人は? そして王国は?
 お話はよくあるたぐいのものですが、サラ・ギブのあでやかな彩色が素敵。

『ようちえんがばけますよ』(内田麟太郎:文 西村繁男:絵 くもん出版)
 内田の発想の良さが光った作品です。
 タイトル通り、幼稚園が変身します。犬になったら園児たちも。魚になったら園児たちも。
 そうして、幼稚園が祝祭の場と化すのです。
 というか、なんだかもう、可笑しい。

『とこよのくにのうらしまさん』(伊根町立本庄小学校の子どもたち・たじまゆきひこ:作 くもん出版)
 浦島伝説は色々ありますが、その中でも最古の形を保っている伊根のお話を元に小学生たちと田島征彦で制作しました。
 もちろん中心は子どもたちで、田島はサポーターとして見守っていたのでしょう。
この作品を眺めていると、こうした方法で出来上がる絵本の面白さを考えることとなります。
 子どもの絵は奔放で、想像力に富んでいて、大人がマネできないすばらしさがある、とは別に思っていません。むしろ子どもであるだけに自己規制をかけてしまう面もあるはずです。ですから、絵だけがそこから解放されるとは思いません。
 この作品では、田島の画力やこれまでの生き方や表現の仕方が、子どもたちを解放している側面もあるのではないかと感じるのです。

『ふくろうのダルトリー』(乾栄里子:文 西村敏雄:絵 ブロンズ新社)
 人気コンビの作品。ダルトリーはお月様が大好き。だから毎日やせていくのが心配で、屋根の上にリンゴを置きます。すると、お月様はだんだん太ってきて満月に。
 実はリンゴはいつも屋根から転がり落ちて、別の役に立っているのです。
 ふくろうの恋と、リンゴという道具が巧みに組み合わされて、ほっこりした世界が描かれています。

『おべんとう』(小西英子 福音館書店)
 もう、そのまんまの幼児絵本です。
 空の弁当箱に、ページを繰るごとに色々詰められていきます。
ごはんでしょ。ミートボールでしょ、たまごやきでしょ、タコウィンナーでしょ。
もう、そのまんま。入るおかずも王道です。
堂々弁当箱の絵本。

『カモさん、なんわ?』(シャーロット・ポメランツ:文 ホセ・アルエゴ&アリアンヌ・ヂューイ:絵 こみやゆう:訳 徳間書店)
 フクロウの子どもがカモの子どもの数を数えていきます。間で白鳥まで一緒に数えてしまうことも起こり、数の概念が示されていきます。
 数えるリズムも楽しいね。

『なべぶぎょう いっけんらくちゃく』(穂高順也:文 亀澤裕也:絵 あかね書房)
 貧しい人がお餅を拾ったけれど固いので食べられない。
 ウナギ屋でその香りのいい煙で暖めておいしく食べるが、金を払えと訴えられます。
 さて、なべぶぎょうのお裁きは?
 時代劇風コメディ絵本。なべぶぎょうって発想がいいし、言葉のリズムがやはり巧いなあ。

『これ なあに?』(みやにしたつや:作 すずき出版)
 「とんかち」と「かなづち」。「べろ」と「した」といった。同じ物を指す違った言い方、同義語を数個提示している絵本。
 言葉への興味を喚起します。
 採り上げられる言葉とその順には工夫がされていますが、もう一ひねり欲しいです。

【絵本2】
『あなたとわたし わたしとあなた 知的障害者からのメッセージ』(谷口奈保子:文 寺澤太郎:写真 小学館)
 知的障害者のための支援活動「ぱれっとを支える会」(現在は「NPO法人ぱれっと))を立ち上げて30年の谷口が伝える彼らの日々です。
 身体障害者の活動は70年代から本格化しますが、知的障害者の場合、本人が動くのがなかなか難しいことや、家の外に出る機会の少なさで、10年ほど遅れて始まりました。
 障害者と接する最初は結構緊張すると思います。傷つけてはいけないとか、どう反応されるかわからないとか、目のやり場に困るなど。それは、あなたの差別意識ではありません。本当に差別意識を持っている人はそんなところでためらいはしません。そうではなく、その緊張感こそ、障害者とかかわりたいあなたのエネルギーです。障害者も見知らぬあなたに緊張しているのですから。お互い慣れてしまえば、どうってことなくなります。一緒に障害者も住みよい社会を目指せます。
 この本は、寺澤による、いい表情の写真が満載なので、緊張感を少しほぐしてくれるでしょう。

『愛すること はじめての哲学』(アスカー・ブルニフィエ:文 ジャック・デプレ:イラスト 藤田尊潮:訳 世界文化社)
 はじめての哲学シリーズ二作目です。
 「愛」について、色々考えています。一方向からの考え方ではなく、見開き左右に、相対する「愛」の考え方を配置していますので、読者はここから「愛」とはこれだ! を得ることはできません。答えは自分で見つけましょう。
 人形たちが男女のシーンが多いのでどうしてもその「愛」だけかと思いそうですが、んなことありません。「愛」という言葉を巡る様々な問いが置かれています。

『江戸の子ども 行事とあそび12か月』(菊池ひと美 偕成社)
 『お風呂の歴史』(講談社)で、素敵な仕事を見せてもらえた作者。
 今回も魅力的なテーマですね。
 一一月が「歌舞伎」って辺りが、江戸です。京都ならそれは一二月。
 菊池の日本画は、絵巻物の動きのよい画面そのままで、子どもの活き活きとした様子を伝えます。派手に走らないその色合いが、描かれた風物の日常感覚をよく伝えています。
 もっと絵本を描いて欲しいなあ。

『ふるさと60年 戦後の日本とわたしたちの歩み』(道浦母都子:文 金斗鉉:絵 福音館書店)
風景を一つの町に固定して、時代の変化を描いていきます。
私のような年齢では懐かしい風景も、今の子どもにはきっと新しい。
金の絵は動的なものも輪郭で留めてくれますので、変化をじっくり眺めやすいですね。

『風の島へようこそ』(アラン・ドラモンド:さく まつむらゆりこ:やく 福音館書店)
 デンマークのサムス島の実話を元に、島の電力を風力でまかなうまでを描いています。
 小さな島であること、それがある地域など、条件の良さもあるでしょうが、風力発電による生活が実際に存在しているのを知るのは、具体的ビジョンを描くための力になります。

『ストップ原発4 原発と私たちの選択』(辻信一:監修 高橋真樹:文 水野あきら:絵 大月書店)
 シリーズ掉尾を飾るにふさわしく、「速い、安い、便利」が人間に豊かさにつながるわけでもないことを伝え続けている辻が監修を務めています。
 このシリーズは子ども向けに作られているので、大人にも良い入門書となっています。基礎知識をここから仕入れて自分なりの思考を作れます。もちろん、脱原発側からのそれですから、原発推進に賛成の方は読みながら論破していけばよいのです。子ども向けにわかりやすく書いてありますから、それはやりやすいでしょう。

【連載】
YA世代になって、親に反発したい感情がわき起こってきた人もいると思います。これという原因はなく漠然とそんな気分になってしまうことも。
こうした感情は、親に庇護され信頼していないと生じません。彼らに心身を預けている時期から卒業し、自分自身の考えで物事を判断し始めたとき、それまでの関係を見直そうとしたくなるのです。
でも、親に庇護されず、虐待を受けたり育児放棄に近い状態に置かれたりして育ったとしたら? 元々良い関係がないのですから、反発することもできません。寂しさから友達を強く求めますが、信頼関係をどう築けばいいのかわかりません。
今日はそんな子どもが出てくる、少し痛い物語を二つ。
『チューリップ・タッチ』(アン・ファイン:作 灰島かり:訳 評論社)。引越をしたばかりのナタリーと友だちになってくれたチューリップ。彼女は誰にでもわかる嘘を平気でつくし、人の心をもてあそぶのが好きなので、学校では誰からも相手にされていません。しかしナタリーはその強烈な個性に引きつけられ、行動を共にする。やがて自分が支配されていることに気づいたナタリーはチューリップと距離をおきますが、一人残されたチューリップがとった行動は・・・・・・。
『コブタのしたこと』(ミレイユ・ヘウス:作 野坂悦子:訳 あすなろ書房)
 友達がいないリジーの前に現れたのが、自らコブタと名乗る女の子。リジーは強引に友だちにさせられるのですが、コブタは人に悪意を持って接することしかできない子どもだったのです。リジーを馬鹿にしている男の子を懲らしめると称してコブタはある事件を起こします。その結果は?
チューリップやコブタを悪い子どもだと切り捨てるのは簡単ですが、一度彼らの寂しさや怒りを共有してみてください。
どうすれば良かったのか? 答えは見つからないかもしれませんが、そうして寄り添うところから理解は始まります。(読売新聞2011.11)

【児童文学評論】 No.169 Copyright(C), 1998〜