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*『プリキュア』シリーズ生みの親、鷲尾天さんとの対談です。(ひこ)
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【研究書】
『マイノリティは苦しみをのりこえて アメリカ思春期文学をよむ』(吉田純子・鈴木宏枝・大喜多香枝:著 冬弓社)
 アメリカにおけるマイノリティYA作品9編の分析が読めることの意味は大きいです。と同時に、日本のYA作品との描かれる世界の違いも改めて認識できます。

【児童文学】
『はるかなるアフガニスタン』(アンドリュー・クレメンツ:著 田中奈津子:訳 講談社)
 成績が悪いので、中学進学のために他所の国の子どもとの文通を課題とされたアビー。ロッククライミングが好きなので山が多そうな国として選んだのがアフガニスタン。
 アフガニスタンのある村にアメリカとの友好のために子ども同士の文通の話が来る。村一番の英語ができるサディードが指名されるけれど、一つ問題が。相手が女の子なので、イスラム文化的には、異性との文通は困る。そこで、妹のアミーラを文通相手に仕立てて、サディードが英語に翻訳することに。
 この奇妙な文通は、いったい何を起こしていくのかが描かれていきます。

『レ・ミゼラブル ファンティーヌとコゼット』(リュック・ルフォール:再話 ジェラール・デュボワ:絵 河野万里子:訳 小峰書店)
 もちろん、この大長編を絵物語に落とし込むことは不可能ですので、ファンティーヌとコゼットの部分に焦点を当てています。世界名作劇場『レ・ミゼラブル 少女コゼット』(2007)と描く範囲はほぼ同じです。
ここから、原作へと読み進んでいってもいいし、このダイジェストだけでも、一九世紀ロマン派文学の香りは楽しめますから、他の作品へと向かってもいい。要は、物語というものの醍醐味を摂取できれば、物語好きになれます。
 ジェラール・デュボワの画の気合いの入ったタブローは子どもにも強い印象を残すでしょう。

『グレッグ公認 きみだけのダメ日記帳』(ジェフ・キニー:作 中井はるの:訳 ポプラ社)
 『ダメ日記』シリーズ番外編。読者自身が書くためのダメ日記だぞ。「○○なともだち」とか、「きみのクラスメイトファイル」とか、「はずかしいまちがいベスト3」とか、自分を外から見つめるためのノート。完成すれば、自分自身のプロファイルができる。数年後読み返すとおもしろいだろうなあ。こうした頭の切り替えや、自分の考えの整理はやって損はありません。この日記帳で、その面白さに目覚めたら、今度は自分で作ってね。

【絵本】
『はずかしがりやのミリアム』(ロール・モンルブ:作 マイヤ・バルー:訳 ひさかたチャイルド)
 はずかしがりだわ、赤面するわで、クラスのみんなにトマトなんて言われて、ますます真っ赤になってしまうミリアム。この恐怖のスパイラルはよくわかります。
 悪いことに今度、自分で作った詩の朗読をする授業がある。さあ、どうするミリアム。どうなるミリアム。
 誰にでも思い当たる節がある展開と、幸せな結末。
 モンルブの描く子どもはかわいさに墜ちることなく気持ちいいです。

『ローズ色の自転車』(ジャンヌ・アシュベ:作 野坂悦子:訳 光村教育図書)
 ゾランは今新しい町に住んでいる。前に暮らしていた町は紛争地域で、風じゃなく銃弾の音がしていた。
 心が少し暖かくなったゾランだけど、気になる女の子がいる。名前はわからないけれどいつもローズ色の服を着ているからローズって呼んでいる。彼女は暗い顔をしてひとりぼっち。笑顔を見たことがない。
 ゾランはローズの笑顔が見たい。
 「笑顔が見たい」という願いが押しつけにならずに、心と行動を誘っていくのがいいね。

『アマンディーナ』(セルジオ・ルッツイア:作 福本友美子:訳 光村教育図書)
 犬のアマンディーナは色んな芸が得意です。自分だけでそれを楽しんでいたのですがついに決心してみんなに披露することに。そのために使われていない劇場を借りて一から修理する展開がいいですね。
 でも、いざ幕を開けてみると・・・。
 とてもしあわせな結末。
 心がホカホカ。

『おなかのなかの、なかのなか』(あさのますみ:ぶん 長谷川義史:え 学研)
 あはは。これ愉快なお話ですよ。
 食いしん坊な動物たちの胃袋のマトリョーシカ物語!
 え、意味がわかりませんか。
 ぜひ読んでくださいな。

『おもちゃびじゅつかんでかくれんぼ』(デイヴィッド・ルーカス:作 なかがわちほろ:訳 徳間書店)
 大好きな『ナツメグとまほうのスプーン』の作者の新作です。
 たくさんの人形の美術館では夜になると、もっとも歳を取ったネコのぬいぐるみパンドンがみんなを集めて、体操をし(だって昼間は動けないから体が硬くなる)、傷んでいる部分をチャックし、美術館の歴史の講義もします。
 でもある夜、パンドンの前に誰も集合しなくて、どこ行った?
 とんでもない展開があるわけではありませんが、約束されたような物語運びと、隅々にまで心を運んでいるデイヴィッドの絵が、質のいい絵本に仕立てています。

『キュッパのはくぶつかん』(オーシル・カンスタ・ヨンセン:さく ひだにれいこ:やく 福音館書店)
 丸太の男の子キュッパが、森に落ちている、捨てられている物を集めて行くところから始まります。それを整理し、博物館を開き、それでも段々物があふれてきて・・・。
 情報の収集・整理・管理を見えやすく示した絵本。
 細かに、たくさん描かれた物から何かを探していく絵本のブームがありましたが、これは全体をざっと把握するタイプです。
 「アンパンマン」や「コナン」でおなじみのトムス・エンタテイメントがキュッパのキャラクター展開もしていくようです。

『おやおやじゅくへ ようこそ』(浜田桂子 ポプラ社)
 子どもたちが先生で、親たちが生徒。
 子どもの気持ちを伝えます。
 親が子どもより体が大きいには子どもをだっこするためです。という感じです。
 最後に置かれている「おやおやじゅくドリル」の設問は良いですねえ。

『おすしですし』(林木林:作 田中六大:絵 あかね書房)
 言葉師の林による、寿司を巡るだじゃれから回文までが、これでもかこれでもかと展開。
 帯の宣伝文句の「一〇冊分」も、誇大ではありません。
 良い意味で、騒がしい絵本です。
 田中の落ち着いた絵が、ええ塩梅にバランスを取っています。

『なみだどろぼう』(キャロル・アン・ダフィ:文 ニコレッタ・セコリ:絵 こしばはじめ:訳 新樹社)
 女として初めて桂冠詩人になったことで話題となったキャロル・アン・ダフィの絵本。
 泣いている子どもたちの涙を集めて回る妖精のお話です。このイメージがやはりポイントになります。
 ニコレッタ・セコリの描く妖精は、単にカワイイのではなく哀愁も漂っていていい感じですよ。

『たんじょうび おめでとう!』(マーガレット・ワイズ・ブラウン:さく レナード・ワイスガード:え こみやゆう:やく 長崎出版)
 よき時代の言葉に、ワイスガードがその雰囲気を活かした画を付けています。とても単純な画面構成と文字の置き方ですが、絵本造りの基本のような仕上がりです。
 まだ絵本造りに慣れていない若い編集者はここから始めればいいのではないかなあ。

『ミチクサ』(田中てるみ:文 植田真:絵 アリス館)
 彼女は、名前を知らない4つの葉がついた草を見つけて、連れ帰り、鉢に植える。
 するとそこに様々な生きものがやってきて、その草をミチクサと呼び、ミチクサを食う。
 植田のとりとめもなくたゆたうような絵がピタリ。
のんびりとした、道草を食う時間を田中の言葉と植田の絵で作ります。

『ひみつのおかしだ おとうとうさぎ』(ヨンナ・ビョルンシェーナ:作 枇谷玲子:訳 クレヨンハウス)
 「おとうとうさぎ」シリーズ最新作。パパとの約束を破って、木曜日におかしを食べてしまったおとうとうさぎ。すると怖いトロルがやってきた! 食べられてしまいそう。
 ビョルンシェーナの画は細かく描き込まれて重いのですが、輪郭線がフワフワしていて、その重さを感じにくくなっています。そのため、たっぷり詰め込まれた情報の楽しさがありつつ負担なく眺めることが出来ます。子どもに人気があるのもそういうところでしょう。

『ともだちやま』(加藤休ミ ビリケン出版)
 山が大好きな子どもが、登って遊ぶぞ! って絵本なのですが、これが、絵本ならではの素晴らしい表現と展開になっています。
 山で遊ぶぞ! がいつの間にか山と遊ぶぞになっていきます。もう、本当に山に抱きついてぶら下がったりするの。当然山と子どもはほとんど同じ大きさに表現されていく。そのダイナミックさは、山好きの気持ちをまっすぐに現していて気持ちいいです。

『ちゅーとにゃーときー』(デハラユキノリ:再話・絵 長崎出版)
 土佐弁で語る昔話絵本。最後に言葉の解説はありますが、いちいちそれを確認して読むわけではないので、純粋に土佐弁の響きを楽しみます。
もちろん、土佐の方は、これで読み聞かせをして大受けでしょう。
各方言の絵本をよろしく、長崎出版さま。

『いちりんの花』(平山弥生:文 平山美知子:画 講談社)
 哀しみに閉じた心も、時には一輪の花が開いてくれる。そんな娘の詩に、画家が版画で絵を添えています。
 清楚で凛とした造りは、受容する豊かさを伝えます。

『れおくんのへんなかお』(長谷川集平 理論社)
 「ぼく」の友だちのれおくんはいつもへんな顔をする。それも、「ぼく」にだけ。どうして?
 長谷川自身にこれまでの絵本もちょっと出てきて、楽しいですが、それよりやはり、「へん」を巡る考え方が良いですね。

『みどりのカーテンをつくろう』(菊本るり子:作 のぐちようこ:絵 あかね書房)
 夏の節電に向けて、去年もブームになったゴーヤのすだれの作り方絵本です。
 昔は朝顔やヘチマで日差しを柔らかくしていましたね。そうした知恵は捨て去ったり、他の方法に入れ替えたりするのではなく、これに新しいものを追加していけば無駄なエネルギーを使わなくてすむんですね。

『とうさんと ぼくと 風のたび』(小林豊 ポプラ社)
 日本の風景を巡る旅なのですが、現代でも過去でもなく、「日本独自」でもなく、時も場所も文化も混じり合いながら様々なイメージが、父子の旅という暖かい設定に乗せられて展開していきます。もちろんそれは、閉じた風景ではなく、「日本」の外部へとつながるのです。

『きこえる?』(はいじま のぶひこ 福音館書店)
 うさぎの大きな耳。
 きこえる?
 風の音。葉のざわめき。呼吸。星の輝き。
 音を巡る絵本はこれまでもありますが、画がどこまでもどこまでも静謐なので、ページを繰りながら耳を澄ます感じになる絵本はなかなかありません。
 静かな音の絵本。

『ピヨピヨ ハッピーバースデー』(工藤ノリコ 佼正出版)
 今日はかわいいかわいい五匹のひよこたちの誕生日。母親ニワトリさんは子どもたちを連れてケーキ屋さんに。母親が予約していたのはバースデイケーキ! 嬉しいな。
 このお話、ひよこが卵たっぷりのプリンを食べたり、五匹が個々の名前もなおままひよことして認知されて一緒に誕生日をするところなど、結構ブラックであります。

『ゆーらり まんぼー』(みなみじゅんこ アリス館)
 まんぼーに釣られて周りの魚もなんだか、ゆーらりとしとります。みんなで一緒にスイミーみたいになったりもしますが、スイミーの緊張感とは正反対で、ほわーとしとります。
 みなさんもどうぞご一緒に。

『のりたいな』(みやまつともみ 「こどものとも0,1,2」5月号 福音館)
 男の子は車が好きというのは、誤解ですけれど、この絵本の面白さは、地元の車風景に徹底的にこだわって描いたところ。
 一見それだと、その地域以外の人には退屈に思えるのですがさにあらず。架空の町じゃないので、興味が沸く沸く。

『絵本・子どもたちの日本史』(全五巻 大月書店)
 完結しました。子どもの暮らしに焦点を絞っています。最終巻の現代では、最後に原発事故が置かれ、こう書かれています。「ぼくたちは歴史の転換点に生きているんだな」。
 そうかもしれないし、そうではないかもしれません。
 でも、これだけは言えるでしょう。子どもたちはいつの時代にも、時代の転換点に生きていると。

『野菜をそだてる 12か月』(亀田龍吉 アリス館)
 「生きものカレンダー」の六巻目は野菜です。季節ごとの野菜を生育から収穫まで見やすくまとめています。こうして見ていると外から入ってきて今はなじみの野菜がなんと多いこと。
 日本は明治に重工業に舵を切り、近代化に邁進してきたのですが、そこで培った技術でもって少ない土地でも野菜を作ることが出来ます。今こそ農業国に立ち返るという発想になってもいいのでは?

『中をそうぞうしてみよ』(佐藤雅彦+ユーフラテス 福音館書店)
 「かがくのとも」からの単行本化。
 木の椅子、貯金箱などを、レントゲンデ撮影して中を見せていきます。中を見せると言うより、見えない部分を見ることで、普段でも見えない部分を類推して、視点の膨らみを促す試みです。
 疲労や、先行き不安からのニヒリズムが拡がりつつある現在、強いリーダー任せにしないで、自分で考える力を育てていくことはより大切になってきています。この絵本もその最初の一助になるでしょう。
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