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【児童文学評論】 No.172    1998/01/30創刊
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【児童文学】
『夜明けの落語』(みうらかれん:朔 大島妙子:絵 講談社)
 暁音(あかね)は話すのが苦手です。なのに担任は、日直が最後に5分間のスピーチをするように決めました。とてもできない暁音。と日直の相方三島くんが暁音の時間分も落語をしてしのいでくれます。それから暁音は三浦くんの練習のために落語を聞くようになり、やがて自分も始めますが、彼女を心配した親友の初音の一言で・・・。
困難の克服、友情のもつれ、世界を愛すること。自分を信じること。児童文学の王道要素がバランス良く描かれ、ちゃんと事件を回収しています。
 児童文学って、どうなんだろう? って最近迷い始めた親や、司書や、教師や、書店員はこれを読めば大丈夫。積み重なってきた迷いがリセットされますよ。もちろん、子どもには愉快で染みる。

『よるの美容院』(市川朔久子 講談社)
 あることがきっかけで言葉がでなくなった、まゆ子が心の再生を果たすまでを描いています。そのサポートとして彼女を両親から預かるのが、おばのナオコ。
この構図は『西の魔女が死んだ』を彷彿とさせます。が、大人が強く導いていくのではなく、子ども自身の自然な治癒力を信じている点において、『よるの』は今の作品です。大人には『西の』の方が受けるでしょうけれど。

『ドレスを着た男子』(デイヴィッド・ウィリアムズ:作 クェンティン・ブレイク:画 鹿田昌美:訳 福音館書店)
 サッカー少年のデニスは店で見た雑誌ヴォーグに惹かれます。それを父親たちに見つかって怒られてしまいますが、女の子の服を着たい自分を発見したのです。女の友人に助けてもらって女装を楽しみますが、別人として学校にまで行くこととなり、ついにばれてしまいます。でも、好きな服を着て、どうしていけないの? そこをちゃんと主張している物語が素敵。

『とんでる姫と怪物ズグルンチ』(シルヴィア・ロンカーリャ:作 エレーナ・テンポリン:絵 たかはしたかこ:訳 西村書店)
 「ときめきお姫さま」シリーズ。
今作は、元気なお姫さまの物語。大好きな王子さまは絵が得意。そんな彼が怪物にさらわれてしまいます。助けねば。怪物は人の心を盗み取る。王子さまの心はどれ?
エレーナ・テンポリンの絵と共にお楽しみあれ。

『ねこの手かします たこやきやのまき』(内田麟太郎:作 川端理絵:絵 文研出版)
 内田の「ねこの手」シリーズ最新作。夏の縁日で人手の足りないたこやきやさん。となりで営業しているオニマサに妨害を受けながらも、人ではなくてもねこの手を借りて乗り切るのだ。一応悪役のオニマサもちゃんと回収している辺りが、内田の腕。

【絵本】
『空とぶ鉢』(寮美千子:文 長崎出版)
 信貴山縁起絵巻から、1挿話を寮が絵本に仕立て上げました。物語は読んでのお楽しみとして、やはり絵巻の躍動感とリアルさとユーモアに圧倒されます。
戦前への日本回帰という、貧しい想像力が拡がりつつある現在、こんなに豊かな絵巻を子どもにも親しい物に近づける寮の仕事は賞賛に値します。残りの挿話もぜひ!

『ネビルってよんでみた』(ノートン・ジャスター:文 G.ブライアン・カラス:絵 石津ちひろ:訳 BL出版)
 ネビルは引越しました。知らない町、知らない学校、友だちもいない。どうしましょう。
 そこで、ネビルは外に出て、自分の名前を大声で叫ぶと・・・。
 子ども同士の繋がりが、とても自然に描かれています。とても愉快で暖かい。

『どうぶつしょうぼうたい だいかつやく』(シャロン・レンタ:さく・え まえざわあきえ:やく 岩崎書店)
 『どうぶつびょういん おおいそがし』に続く、動物てんこ盛りシリーズ2冊目です。
 今作は小さなツノメドリ隊長が率いる消防隊に大きなヘラジカが入隊してきたところから始まります。ヘラジカに教えるという設定で、消防隊員の色んな仕事が紹介されます。もちろん、単に人間を動物にトレースしただけではなく、それぞれの動物に特有のエピソードでコーティングし、笑いを誘います。いよいよ出動、ヘラジカさんの活躍で終わるのがいいですね。

『モーディとくま』(ジャン・オーメロッド:ぶん フレヤ・ブラックウッド:え 角田光代:やく 岩崎書店)
 小さな女の子モーディちゃんと大きなくまさんの温々のお話5編です。モーディちゃんは、マイペースでしっかり計画も立てているけれど、どっかで抜けていて、そこをくまさんがちゃんとフォロー。親ではなく、頼りになる友人ってスタンスが。子どもの自由感を高めます。フレヤ・ブラックウッドの輪郭線が好きだなあ。

『ずら〜りイモムシ ならべてみると』(安田守:しゃしん 高岡昌江:ぶん アリス館)
 18種類のイモムシが顔をそろえております。嫌いな人、怖い人は見ない方がよろしい。かというとそうでもなくて、並べて見せられると違いが気になって、結構見てしまいます。こんなにしげしげと眺める機会はめったにありませんので、どうぞ。でも、山椒の天敵、アゲハのイモムシなどは、可愛いけど個人的には憎たらしい。

『ちっちゃなしろうさぎ』(ケビン・ヘンクス:さく いしいむつみ:やく BL出版)
 子どもの好奇心の物語。
 子ウサギは、草原をピョンピョン跳びながら、みどりについて考える。と、次のページで緑が拡がります。子ウサギの想像力をお楽しみに。ケビン・ヘンクスの絵はシンプルでいいなあ。

『モリくんのすいかカー』(かんべあやこ くもん出版)
 コウモリのモリくんが、色んな物を車にするシリーズ最新作。今回は夏なのですいかです。海辺で作りますから、水陸両用でイケイケです。もちろん冒険もあります。子どもが好きな食べ物を車にしてしまうアイデアは秀逸。だって、作るためには中味を食べないと行けませんからね。これからも続々と車が登場する気配。楽しみだぞ。

『キャベツのくすくす』(大川久乃:文 伊藤秀男:絵 「こどものとも年少版」 福音館書店)
 発想が素敵です。蝶々がキャベツさんに触れて、キャベツさんはクスクス笑ってしまい、その震えが隣のキャベツさんに伝わって、くすくす。と、くすくすが次々と伝播していきます。

『まってるまってる』(高畠那生 絵本館)
 高畠の絵は不思議な軽さを持っていて好きですが、今作ではユーモアにも磨きがかかって、読む子どもがページごとにニヤニヤし、最後に笑う展開となっています。行列という物は並んだ先に何があるかを確かめもせずとも、ついつい並んでしまうもので、行き着けば待ってた分、消費行動が起こり、そうして・・・。みんな覚えがあるでしょう。
 
『まわるおすし』(長谷川義史 ブロンズ新社)
 絶好調、長谷川の新作。
 家族4人で回る寿司を食べに行き、お父さんの号令の元、まわるすし大イベントが進んで行きます。その発想の何とも庶民的なこと。めちゃくちゃわかります。やっぱりお寿司は回らないとね。

『東北んめえもんのうた』(長谷川義史 佼生出版)
 これまた長谷川の東北大支援絵本。といっても、がんばれ!とか絆とか、そんなことを長谷川は描きません。ただただ、各地のおいしいもんをご陽気に描いていきます。おいしいぞ。

『あかにんじゃ』(穂村弘:作 木内達朗:絵 岩崎書店)
 にんじゃはこっそり行動するのが基本でありますが、この方、赤いもので、目立って目立って。カラスに変身して逃走するも、カラスの中でも目立って目立って。どうしましょう。ほおっておいても赤に視線は行くのですが、木内はそれをいっそう効果的に描きます。そのため、話のおかしさがいっそう際立つ仕掛けですね。

『たんけんケンタくん』(石津ちひろ:作 石井聖岳:絵 佼生出版)
 回文物です。
 おじさんに招待されて南の島にやってきたケンタくん。
 イスからバッタまで様々な物が、ケンタくんに回文を求めます。がんばれ、ケンタくん!

『ちきゅうのへいわを まもった きねんび』(本秀康 岩崎書店)
 男の子と女の子が砂場でままごと。砂のご飯と、木の枝のおかずを食べています。
 それを観察していた、宇宙人たち。地球人はなんて原始的なんだとあきれます。果たして地球は守れるのか? な〜んてね。