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【児童文学】
『真夜中の動物園』(ソーニャ・ハートネット:作 野沢佳織:訳 主婦の友社)
 第二次世界大戦、ナチスによるロマ(ジプシー)虐殺を背景にしたリアルファンタジー。
 両親を失ったアンドレイとトマスの兄弟は赤ん坊の妹を守りながら、逃走を続けています。住民に助けを求めるわけにはいきません。彼らも今はロマを嫌っているのですから。
 食料もほぼ尽きた兄弟は動物園にたどり着きます。そこには、人間がいなくなったあと、檻に閉じ込められたままの動物たちがいました。兄弟と彼らは語り合います。この戦争と、人間について。
 幻想的な風景の中で語られるのは、それが悲惨な出来事だからです。
 ナチスの迫害はユダヤ人に関してはよく知られていますが、ターゲットにされたのは政治犯、障害児、障害者、ロマもです。

『レジェンド』(マリー・ルー:作 三辺律子:訳 新潮文庫)
 デビュー作。温暖化で地球の陸地のほとんどが水没した時代。アメリカも東西に二つの小さな地域が残っているのみ。両者は戦争状態です。小さな国家は国民を子ども時代の検査によって分け、エリート以外はうち捨てられ、処分されています。主人公の一人ディは処分されたが生き延びた子どもで、国家と一人戦っています。国家から見ればテロリストです。もう太りの主人公ジューンはエリート中のエリート。検査でただ一人満点を取り将来を嘱望された存在です。彼女の兄がディに殺されたと知ったジューンは貧民街に潜り込み彼を捜し、見つけるのですが、ディもまた満点を取った子どもだったのです。謎がどんどん膨らみ、いいところで次作待ち。
 さほど新しい設定ではありませんが外連なくまっすぐに書かれています。

『宝島』(スティーヴンソン:原作 クレール・ユバック:翻案 フランソワ・ロカ:絵 藤本朝巳 横山安由美:訳 小峰書店)
 しっかりとした画で見せる、古典文学翻案絵本の一冊。といっても、ダイジェストではありません。ユバックはナレーターを女性にすることで、「冒険=男の世界」的なノリと距離を置いて、世界を再構築します。彼女の元に主要登場人物たちが現れ、語っていくのです。

『かえるの そらとぶ けんきゅうじょ』(村上勉 偕成社)
 村上勉久々のオリジナル作品です。
 かえるたちが快適に過ごしている木に、毛むくじゃらで、なんだか怖そうな顔の生き物が出現して、葉っぱをむしゃむしゃ食べている。葉っぱは大事な日よけなのに。かえるたちはそいつに頼むのですが、どうやら聞こえているらしく、葉っぱを食べる量が日に日に減ってきて、やがてそいつはいなくなってしまいます。いなくなると心配するかえるたち。そして、空を飛ぶきれいな生き物が現れます。蝶々です。彼女は自分はあの毛むくじゃらなのだと教えてくれます。空を飛ぶことにあこがれ始めるかえるくん。いろいろ研究を始めますが、果たして飛べるのか?
 とても優しくて、安定した物語展開が、村上の絵とピタリ(当たり前ですが)。

【絵本】
『じゆうをめざして』(シェーン・W・エヴァンズ:作 さくまゆみこ:訳 ほるぷ出版)
 奴隷制度の時代、逃亡奴隷をカナダへ逃がす組織がありました。地下鉄道や、地下組織と呼ばれていたものです。
これは、黒人が困難を乗り越えて脱出するドラマを緊迫感いっぱいに描いた絵本。
小説では『ヘンリー・ブラウンの誕生』(エレン・レイヴァイン:作 千葉茂樹:訳 鈴木出版)や『秘密の道をねけて』(ロニー・ショッター:作 千葉茂樹:訳 あすなろ書房)、『自由への地下水道』(ヒルデガード・ホイット・スウィフト:作 三谷貞一郎:訳 新日本出版)などもどうぞ。

『かあさん ふくろう』(イーデス・サッチャー・ハード:作 クレマント・ハード:絵 おびかゆうこ:訳 偕成社)
 ふくろうの子育て、巣立ちまでを描いた絵本です。木版画なのですが、そのリアルさは驚愕です。なにもリアルに描かれているというのではありません。仕草、表情の一つ一つが存在感を持って迫ってきます。それを眺めるだけでも値打ちありです。

『赤ずきん』(フェリス・ホフマン:画 大塚勇三:訳 福音館書店)
 ウォー! ワォー! ホフマンの赤ずきんだよ。もっとも孫娘のために描いた手稿と、大塚訳の文章で再構成した物なので厳密には絵本ではないのですが、その活き活きしたタッチがいいわあ。ホフマンのグリム物はどれもニコニコですが、これも趣があります。うん、いいわあ。

『ぼくの こえが きこえますか』(田島征三 童心社)
 「日・中・韓 平和絵本」の一冊。
 出征した「ぼく」の語りで進みます。やがて「ぼく」は戦死し、弟も「ぼく」の敵をとるとばかりに出征してしまう。残された母親を気遣う「ぼく」の声は聞こえない。そして・・・。
 田島の仕事の中で、一番静かな、だから力強い一作。

『よしこがもえた』(たかとう匡子 たじまゆきひこ:作 新日本出版社)
 1945年7月3日の姫路大空襲で亡くなった、たかとう自身の妹よしこを描いた作品。強烈なタイトルに思えるかもしれませんが、そのままの事実の重みです。たじまの画(版画)は声高ではなく、空襲のエネルギーを写し取ることに傾注していて、激情や怒りより静かな決意が伝わります。

『105にんの すてきなしごと』(カーラ・カスキン:文 マーク・シーモント:絵 なかがわちひろ:訳 あすなろ書房)
 訳者を変えての再刊です。
様々な年齢、男女105人が、それぞれの家でシャワーを浴びて、下着を着けてと、しだいに身形を調えていく様子が描かれていきます。そうして会場に集った105人は私たちにすてきな何かを届けてくれます。
 仕事をするまでの準備と心構えが描かれたことはあまりないのですが、ここではそれが子どもにも伝わってきます。

『ゆうだち』(あき びんご 偕成社)
 絶好調、あきびんごの最新作。カリブの昔話を元にした、とても愉快な話です。
ゆうだちで困っているヤギさんを迎え入れて、タオルまで貸してくれたのはオオカミさん。もちろん思惑アリアリなのですが、ヤギさんもそれを知っていて、さてどうしますか。それは読んでのお楽しみ。絵の生暖かさは相変わらず。

『ものまね名人 ツノゼミ』(森島啓司:文・写真 福音館書店)
 「たくさんのふしぎ傑作集」。
 私、ツノゼミって全く知りませんでした。知らなかったから余計におもしろい。セミではないようですが一見セミみたいなこの昆虫はたくさんの種類がいて、それぞれ何かに擬態しています。昆虫の抜け殻に擬態しているのもいて、これはすごいです。鳥の糞ってのもいる。知ったからと言って、お金持ちになるわけでも、権力を持てるわけでもありませんが、おもしろい。それがいい。

『セミとわたしはおないどし』(高岡昌江:文 さげさけのりこ:絵 福音館)
 一夏を生きるセミが地中で何年もそのときを待っていることを子どもの頃知ったとき、私は「あ〜、そしたらセミの人生は見ている部分より地中がほとんどなんや」と、人間との違いにクラクラしました。この絵本は、そうしたセミの生態をコマ割りで詳しく解説していきます。きっと今年の夏も、セミの真実を初めて知って感動する子どもがたくさんいるんだろうなあ。

『おしいれじいさん』(尾崎玄一郎 尾崎由紀奈:作 「こどものとも年中向き」 八月号)
 押し入れの中にすんでいるじいさんのことは、家人はなにも知りません。一見アンコウのようなそのじいさんは、せっかくゆったりしている布団を毎夜、家人に取り上げられるのが(って、寝るのに使っているだけですが)腹立たしい。おしいれに下段に家人は色んな物を押し込んでいますが、そこがじいさんの遊び場。そこで釣り竿をみつけたじいさんは、押し入れの中でつりを始めます。
 いやあ、発想がいちいち面白い。狭い押し入れなのに絵の構図がダイナミック。いい仕上がりです!

『たなばたバス』(藤本ともひこ すずき出版)
 す、すみません、藤本さん。たなばた昨日でしたね。
 バスシリーズ、今回はたなばたバスですよ。お天気がわるそうなので、オリヒメ、ヒコボシのためになんとかしようと、たなばたバスが天の川までやってきます。さて、どうなるか?
 お礼の品がよろしいなあ。

『あまぐもぴっちゃん』(はやしますみ 岩崎書店)
 小さなあまぐものぴっちゃんは親とはぐれてしまいました。見つけた子どもたちは一生懸命お世話をして、遊びますが、やがて忘れがちになり・・・。夏の日々の活き活きとして、でもどこかだるい感じが伝わります。

『くるくる なあに?』(やまもとしょうぞう:さく てづかあけみ:え くもん出版)
 ファースト絵本。
 カタツムリの殻からぞうさんの鼻まで「くるくる」を見つけていくのは、しっぽがくるくるのリスさんであります。

『かこさとし こどもの行事 しぜんと生活 7月のまき』(小峰書店)
 はい、7月ですよ。かこさんが七月に案内してくれます。たっぷりお楽しみください。

『アルフィーのいえで』(ケネス・M・カドウ:文 ローレン・カスティーヨ:絵 佐伯愛子:訳 ほるぷ出版)
 アルフィーお気に入りの靴。でも足が大きくなったので、ママは誰かにあげちゃうって。絶対いやなアルフィーは家出を敢行! ママは止めませんけれど(笑)。
 優しいパステル画がいいわあ。

『大接近! 妖怪図鑑』(軽部武宏 あかね書房)
妖怪というか、怖いものブームはまだまだ続いています。デストピア小説ブームも含めて同じ流れなのでしょうが、その妖怪と、今年のトレンド、図鑑を組み合わせ、近頃、妖怪ならこの人、軽部が描くという、かなり強力な企画です。しかも「大接近」ですもん。きっと節電にも役立ちます。

『桜守のはなし』(佐野藤右衛門 講談社)
 木のお医者さん、特に桜一途の佐藤さんの語りがいい、写真絵本です。桜は江戸時代にソメイヨシノが全国を席巻して、様々な種が顧みられにくくなってしまいましたが、もっともっと復活してほしい。そうそう、佐藤さんの表情も見ていてこちらが幸せになりますよ。

『からだのなかにはなにがある?』(キム・ヨンミョン:文 キム・ユデ:絵 かみやにじ:訳 福音館書店)
 本題の前にまず、貯金箱や冷蔵庫の中に何があるかから導入していく手法がいいですね。あとは、いろんな物を食べたらそのままの形でおなかに入ったように描いていく。体がだんだんアンチンボルトの絵画のようになっていき、楽しい、楽しい。食べればそれは、まあ、あれに変わっていくわけで・・・。楽しい、楽しい。

『アングランドの小さなおくりもの(全2巻)』(J.W.アングランド:作 小川 糸:訳 文渓堂)
 『ともだちはどこ?』と『はるになると』、小さな2冊の本の箱入りです。どちらも、心慰め、暖かくしようという言葉と画で構成されています。疲れたときにどうぞ。分冊でもございます。

『ぺんちゃんのかきごおり』(おおいじゅんこ アリス館)
 かきごおり物は夏の絵本定番ですが、本作は氷をお皿にどんどん積み上げていく楽しさを、折り込みを使って表現しています。ベタなのですが、こうした喜びは妙にひねくるより思い切りベタな方が伝わりやすいですね。ひねくりたくなるけど、ひねくらない。そういえばかきごおりって、何年も食べていないなあ。宇治金時に練乳が好きだが、高くて食べられなかったなあ。

『じゅえきレストラン』(新開孝:写真・文 ポプラ社)
 これまでも様々な昆虫写真絵本を提供してくれた新開。やっぱりこの時期には新作が欲しいですよね。ということで、今作は樹液に集まる昆虫たちをじっくり観察です。樹液が欲しいのもいるし、樹液に集まるのを狙っているのもいるし、おしっこもするし、まあ賑やか。というか、これ見ていると、人間も昆虫とあんまり変わらないなあと思えてくる。

『こんやはなんのぎょうれつ』(オームラトモコ ポプラ社)
なんだか行列ができているもので、みんなも並びます。みんなというのは妖怪さんたちであります。その先には一体何が?  70体の妖怪さんであります。すごい。

『おひげ おひげ』(内田麟太郎:作 西村敏雄:絵 すずき出版)
 黄金コンビの新作です。
おひげがすてきと思うのはおじさんだけではありません。だから、みんなおひげをつけます。女の人も、子どもも。いえいえ、家だっておひげが欲しい。山だって欲しい。みんなおひげで幸せに。
いいなあ。
もっていきかたが絶妙。

『あしたも ね』(武鹿悦子:作 たしろちさと:絵 岩崎書店)
 動物の子どもたちが遊び終えた夕方、みんなお家に帰ろうとすると、ブタの子どもが呼び止めて、明日のお約束を確認。じゃあ、帰ろうとすると、まだ不安はブタさんはもっと確認。この気持ちはわかるなあ。
 さて、次の日ちゃんと集まれますかどうか。

『うどんドンドコ』(山崎克己 BL出版)
うどんの怪人、うどんドンドコは、おいしいうどんを動物みんなに運ぶのだ。って、よくこんな怪人を考えつくなあ。怪人の姿もすごいの。

『うみのいきものかくれんぼ』(いしかわこうじ ポプラ社)
幼年絵本「これなあに? かたぬきえほん」シリーズの最新作。
 今回は海ですよ。カメ、イルカ、カニ、それぞれの模様が型抜き画面を重ねることで実体となって現れてきます。シンプルですから、あきませんよ。

『テッコン ぼくの犬山まつり』(いしだたみこ リーブル)
 愛知県犬山市のお祭りを再現した絵本です。車山、操り人形、お囃子。豊かな祭りの様子が、子どもの目を通して描かれていきます。どの地方であれ、その祭りの規模がどうあれ、祭りは地域に根ざしたものですので、地域感が薄れた現在貴重な行事です。私のところでも高津さんのお祭り、生魂さんのお祭りと、子ども参加で楽しいですよ。

『小さなよっつの雪だるま』(長谷川集平 ポプラ社)
 様々な雪の日を、家族をつなげる風景として描いていきます。
 小さなサイズの絵本が、そのささやかな幸せの大切さを示しています。

『こおり』(前野紀一:文 斉藤俊行:絵 福音館書店)
 「たくさんのふしぎ」傑作集の一冊。
 家で作る氷にはなぜ気泡が入るのかから始まり、なぜ氷は色が着かないか、そして氷によって起こる海流と、それが支える生命の営み、地球環境へと、解説は心地よく、日常が世界とつながっている様を見せていきます。こういう風に授業を持って行けば、子どもは、自分と世界のつながりを実感でき、何の役に立つのかわからない授業の意味を知ることができます。いい出来。

『かぶとん』(みうらし〜まる すずき出版)
 小さなカブトムシのかぶとんが樹液を吸っていると、大きなカブトムシに追い払われてしまいます。そこでかぶとん、力をつけようとトレーニング!
 はてさて、どんな話に展開しますか。

『ルンピ・ルンピ おそろしい注射からにげろ!の巻』(シルヴィア・ロンカーリア:文 ロベルト・ルチアーニ:絵 佐藤まどか:訳 集英社)
 小さなドラゴンルンピ・ルンピとその友達ジャンピが繰り広げる愉快なお話。今回は、ジャンピが注射をすることになり、怖いもので、もう怖いもので・・・。さてどうなりますか。

『うみ ざざざ』(ひがしなおこ:文 きうちたつろう:絵 くもん出版)
 シリーズ四作目。ひがしの言葉ときうちの画のコラボです。
 夏だから、海。海水浴の匂いが立ち上がる。
 最後が赤で終わるのもいいなあ。

『あいうえおのうみで』(すぎはらともこ 徳間書店)
 家族で海で遊ぼうとやってきたら子犬が逃げてしまって、追っかけていく風景の仲で「あいうえお」の言葉遊びが展開します。後に行くに従ってだんだん苦しくなってきますが(笑)、それもご愛敬。

【資料】
『絵本作家のアトリエ 1』(福音館書店 母の友編集部)
 「母の友」に連載されていた、絵本作家インタビューをまとめた貴重な資料。どのようにして絵本作家となったかのきっかけや過程から、創作動機、意欲が語られ、また聞き手によって解説されていきます。もちろん、小ぶりのインタビューですから作家論、作品論に至っているわけではありませんが、そのための基礎資料の一つとして貴重です。
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