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【児童書】
『八月の光』(朽木祥 偕成社)
 原爆投下に遭遇した人間の三つの物語。まだ子どもの彼らは突然、惨状に投げ込まれ、子どもとしてあることの特権も奪われ、悲惨な風景の中で、時に過酷な判断を迫られ、時にただ影を愛おしむしかない。
 原爆の悲惨さ以上に、原爆が人間の心に及ぼしたものを描いている本作は、語り継ぐための新たな方法の一つとして記憶されるでしょう。

『世界一力もちの女の子のはなし』(サリー・ガードナー:作 三辺律子:訳 小峰書店)
 これからはじまる「マジカル・チャイルド」シリーズ、最初に登場するのは、突然力持ちになったジョシーちゃん。次々挑戦すると、どんどん大きなものを持ち上げられて、バスなんかでも簡単、簡単。力自慢の挑戦者もはねつけ楽しい日々のはずが、興行師の誘いに両親がのってしまったもので、ジョシーの苦悩は始まります。
 ピッピを筆頭に、力持ちは子どものあこがれです。ジョシーの場合突然なってしまったものだから色々事件に巻き込まれてしまいます。
 痛快な物語が短めのヴォリュームで展開するので、気軽に楽しめますよ。

『ライオンがいない どうぶつ園』(フレート・ロドリアン:作 ヴェルナー・クレムケ:絵 たかはしふみこ:訳 徳間書店)
 ドイツのある小さな町。結構何でもありますが、動物園がない! 町民が動物大好きだと知った町長さん、動物園を作ろうとします。予算もないので町民みんなで作ります。でも、ライオンがいない動物園・・・。どうしましょうか?

『内田麟太郎詩集 しっぽとおっぽ』(内田麟太郎 岩崎書店)
 敬愛する内田の最新詩集。もちろん、子どもが楽しめます。
「いのちは なぜ うまれてくるのだろうか このよがくるしいばかりなら うまれてこなければようのに」(「誕生」)から、「タイのくちぐせ たいしたもんだ サケのくちぐせ さけもってこい」(「くちぐせ」)までの幅の広さが内田のすごさ。

【絵本】
『おうさまのおひっこし』(牡丹靖佳 福音館書店)
 「傑作絵本」シリーズ。
 気のいい王様と、慌て者のご家来衆のお話です。王様が大きなベッドを所望すると、城に入らないほどの大きさのものを作ってしまうご家来衆。気のいい王様は怒りません。ベッドが入る城へとお引っ越し。その途次、困った動物や国民を助けようとお触れをだすたびにご家来衆は、とんちんかんな判断をして、引っ越し荷物は次々となくなってしまいます。
 愉快です。
 絵が色合いも含めて繊細で、日本的洋風画らしさを醸し出しています。というか、明治以来の日本人の想像するヨーロッパのイメージかな。

『サウスポー』(ジュディス・ヴィオースト:作 金原瑞人:訳 はたこうしろう:絵 文溪堂)
 ジェネットはピッチャーをしたいのに、リチャードは男の子でメンバーを固めたい。怒ったジャネットは絶交しますが、リチャードはそれがいやなので色々言ってきます。ジャネットだってそうで、ただし絶対に譲れないのはピッチャーに起用されること。というやりとりが、二人の間で交わされ、しだいに歩み寄っていく様がいいです。はたの絵もぴたり。

『たまごって ふしぎ』(アリス&マーティン・プロベンセン:作 こみやゆう:訳 講談社)
 ハチドリから、カモノハシ、カエル、様々なタマゴが描かれ、命を語ります。画のユーズドめいた肌合いが、奥行きを感じさせて、とてもいい仕上がり。

『はなの はなうた』(内田麟太郎:文 おぼまこと:絵 絵本館)
 「ふくろうの おふくろ うたいます」といった、ダジャレ気味の言葉が、リズムよく陽気に進みます。お祭というか、祝祭というか、なんやらめでたい、内田とおぼの世界です。

『しげるのかあちゃん』(城ノ内まつ子:作 大畑いくの:絵 岩崎書店)
 ヤンキー、イケイケかあちゃん登場です。
 しげるのかあちゃんは二トントラックの運転手。トラック野郎ならぬトラック女傑です。しげるを学童保育にあずけながら、がんばって働いています。その生きる力が子どもにも伝わって、元気いっぱいです。大畑の勢いあるペン画がかあちゃんを描きまくります。

『ニコとねずみのすてきなせかい』(マンフレート・マイ:作 ヨッヘン・シュトゥーアマン:絵 斉藤洋:訳 フレーベル館)
 トラ猫ニコにおそわれたねずみは絶体絶命。そこでニコに、もっといいことがあると提案します。ニコはついつい乗ってしまって・・・。そうして次第にはぐくまれる友情。シュトゥーアマンによる、思惑たっぷりのニコとねずみの表情をお楽しみください。

『あかちゃんかたつむりのおうち』(いとうせつこ:ぶん 島津和子:絵 福音館書店)
 かたつむりが卵からかえって、葉っぱを食べて、少しずつ大きくなっていきます。島津の淡いけれどしっかりとした色彩が、そのゆっくりとした成長を伝えてくれます。

『おやすみくまちゃん』(シャーリー・パレントー:ぶん ディヴィッド・ウォーカー:え 福本友美子:やく 岩崎書店)
 おやすみ絵本物です。
 おおきいくまさんはこぐまたちをベッドに入れます。でも、音がする。電気をつけると、みんな眠れず起きています。って、おおきいくまさんも気になって眠れなかったので、同じね。この辺りが巧いですね。結局みんな一緒にお休みなさい。

『だいすきのしるし』(あらいえつこ:さく おかだちあき:え 岩崎書店)
 幼稚園の発表会。ママがきてくれるはずが、弟が熱を出してしまいます。不安でいっぱいのれな。
 大丈夫、大丈夫。でも、
 という気持ちを描きます。
 最後は回収されるのですが、そこをもう少しがんばってもよかった。

『まよなかの びっくりコンサート』(まつおかたつひで ポプラ社)
 動物大好き、カエルが大好き、松岡さんのカエルたちが、コンサート。という段取りで、水辺の様々な生き物の饗宴です。
 旺文社から出ていた物の再刊。

『みんなのはなび』(おくはらゆめ 岩崎書店)
 花火に託して、おくはらのイメージが散乱していきます。花火見物をしていた動物たちが、その圧倒的な光にクラクラとし、気持ちが高揚し、夢かうつつか幻か状態で、盛り上がっていく様を、おくはらの画が、ぐんぐんぐんぐん追っていく。追い越していく。楽しい。

『だんごうおです』(平田昌弘:作 平田景:絵 徳間書店)
 本当にある魚の変な名前で、だじゃれをかましていきます。「テングハギ」で「てんぐはげ」となり、頭の禿げた天狗が描かれます。だじゃれですから、読むのがかなりきついです。そのきつさに耐えてこそ、あなたは、きっと何かになれる(笑)。

『トリックアイ ルバニーカのカーニバル』(ハヤシシロー:作 ポプラ社)
 斜線などを使った目のトリックがてんこ盛り絵本。もう、クラクラ。じっくり楽しむ余裕はなし。ずっとクラクラ。

『ぼくのゆきだるまくん』(アリス・マギー:文 マーク・ローゼンタール:絵 なかがわちひろ:やく 主婦の友社)
 喪失感の絵本。ぼくはゆきだるまを作り友達になります。でも、ゆきだるまはやがて消え。ぼくはいろいろな場所、局面で消えたゆきだるまを探し、思い出します。でも、もういない。でもでも、また冬が来て。

『がたん ごとん がたん ごとん さぶん ざぶん』(安西水丸 福音館)
 あかちゃん絵本。シンプルさのツボを押さえた、さすがな一品。蒸気機関車が小さな駅ごとに次々色んな物を乗せます。かき氷、浮き輪、スイカ・・・。そして行き着く先は、海!

『こぐまとめがね』(こんのひとみ:作 たかすかずみ:絵 金の星社)
 大好きだったおばあちゃんの形見の眼鏡をかけ続けているこぐま。でもそれでは物がよく見えず、食欲もなくなり・・・。たかすのパステル画が、こんのの淡い世界を表現しています。物語はもう少し強さが欲しいかな。

『恐竜研究室1 恐竜のくらしをさぐる』(ヒサ・クニヒコ あかね書房)
 恐竜と言えばヒサさん。このシリーズは、恐竜に関する様々な知識を頭に入れるためのものです。いろいろコネタも散らしながら、恐竜大好き子どもに読ませます。しかし近頃恐竜物がへったなあ。

『ゆうれいのまち』(恒川光太郎:作 大畑いくの:絵 岩崎書店)
 怪談絵本の一冊です。
 真夜中友達に連れられてたどり着いたのはゆうれいの町。そこで「ぼく」を待ち受けるものは? ゆうれいの待ちでの暮らしが楽しそうなのが怖いです。

『ききみみずきん』(広松由希子:ぶん 降矢なな:え 岩崎書店)
 広松による昔話の現代絵本シリーズ一〇巻目です。早いなあ。
 おなじみの話が簡潔に、そしてなによりリズムよく、心地よく語られていきます。降矢の画は明るく愉快に、ハッピーエンドまで描いています。

『タマゴ イスにのり』(井上洋介 すずき出版)
 井上洋介がすごいのは、誰もがみんな知っていることですが、この作品もやっぱりすごいです。
 イスさんは、ニワトリさんに頼まれて、産みたての卵のお散歩を手伝います。座席に乗せて、歩きます。
 ああ、もう、すごい。

『どこいったん』(ジョン・クラッセン:作 長谷川義史:訳 クレヨンハウス)
 クマは赤いとんがり帽子をなくした。動物たちに聞いて回るが、なかなか見つからない。まてよ、さっき確かうさぎが・・・。どうしましょう?
 ちょっとブラックな話なので、ベタな大阪弁風で訳すのがよかったかは疑問。クラッセンの絵と展開は問題なく素晴らしいです。


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