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【資料】
『児童読物の軌跡 戦争と子どもをつないだ表現』(相川美恵子 龍谷叢書)
 戦中戦後、そして現在。日本の子どもの物語が戦争とどのように結びついていたのか、戦争責任と向かい合えたのか、戦後世代はWW2をどう受け継げるのか? 戦争への実感を持てない世代の著者が、実感を持てない実感を手放さずに書いた地道な研究書。

『赤木かん子 自然科学の本50冊』(赤木かん子 てらこや豊橋出版室)
 二〇ページの小冊子ですが、情報はしっかり入っています。へたにページ数を増やすより的確に必要なものにたどり着きやすいでしょう。「自然科学」関係の図鑑が多いですが、そこにちゃんと『銀の匙』(荒川弘)が入っているのは、さすがですね。

『絵本作家という仕事』(講談社)
 十五人の絵本作家へのインタビュー集。そのアトリア風景も納めていますので、絵本好きの人には貴重な一冊です。しんどいけど好きな仕事をしているからかな、みんないい顔しています。

【児童書】
『リックとさまよえる幽霊たち』(エヴァ・イボットソン:作 三辺律子:訳 偕成社)
 イボットソンのデビュー作。幽霊の子どもハンフリーは自分がちっとも怖くないのに悩んでいます。そんな折、幽霊たちが住んでいた城が観光開発されることになり、住まいを奪われます。幽霊を信じてくれる少年リックと共に新しい住まいを求めてロンドンへ旅立つ幽霊たち。
 算段をして首相と面会して交渉するなど、幽霊が大好きなイギリスならではの楽しい物語ですが、キツーイ描写と展開もまた、幽霊物語本家らしいもので、そこが読みどころ。

『アンナのうちは いつもにぎやか』(アティヌーケ:作 ローレン。トピア:絵 永瀬比菜:訳 徳間書店)
 アフリカの小さな女の子アンナ・ハイビスカスのお話です。アフリカの子どもの生活を描いた物語はなかなかありませんので貴重です。なじみのない文化、なじみのない生活なのに、どこか懐かしく感じてしまうのは、そこにある種の憧憬が生まれているからでしょうね。

『ルンピ・ルンピ わがままはトラブルのはじまりの巻』(スルヴィア・ロンカーリア:文 ロベルト・ルチアーニ:絵 佐藤まどか:訳 集英社)
 シリーズ四巻目。かっこいいブーツが欲しいジャンピですが、買ってもらえません。機嫌が悪いジャンピ。そこで想像のドラゴン、ルンピ・ルンピが登場し、いつものように二人で心を解放していきます。

『あまやどり』(市川宣子:作 陣崎草子:絵 文研出版)
 おかあさんが風邪を引いたので、弟を連れて公園にでも、雨が降ってきて・・・。おねえちゃんの心細さと気合いと想像力が相まって、柔らかく温もりのある世界が拡がっていきます。陣崎の画が雨の匂いを運んでくれます。

『天のシーソー』(安東みきえ ポプラ社文庫)
 安東、はじめの頃の良い仕事が文庫になりました。『頭のうちどころが悪かった熊の話』がベストセラーになったので、大人にはそっちのイメージが強かろう安東ですが、リアルな子どもの心が漂う、この世界もいいですよ。文庫化に辺り、書き下ろしが一つ入っています。

『忘れられた花園』(ケイト・モートン:作 青木純子:訳 東京創元社)
 児童書ではなく、大人向けのミステリーですが、タイトルからも推察されるように『秘密の花園』絡みの物語。物語全体が『秘密の花園』であり(という言い回しの意味も最後の方で明らかにされます)ますし、『嵐が丘』も『ジェーン・エア』も浸透していて、まあおもしろいこと。

【絵本】
『いぬのおしりの だいじけん』(ピーター・ベントリー:文 松岡芽衣:絵 灰島かり:訳 ほるぷ出版)
 犬は何故互いの尻をかぐのか? について解説いたします。
 犬たちのパーティーが開かれます。会場には、礼儀としてみんな、お尻をはずし、お尻かけにかけてから入場いたします。楽しいパーティ。ところが!
 とんでも愉快なお話を松岡の画はちょっぴり真剣に描きますから、なおいっそう可笑しい、可笑しい。
 出来がいい絵本です。

『グランパ・グリーンの庭』(レイン・スミス:作 青山南:訳 BL出版)
 ひ孫が語る一人の男の人生。それは語られる記憶としてだけではなく、樹木を刈って作る造形、トピアリー(児童書好きでしたら『グリーン・ノウ』シリーズのイチイの木がおなじみですね)として描かれていきます。
 トピアリーは、この家族の歴史の永遠性と、それが手入れされ続ける(つまりは愛情を注ぐ)ことで維持される点を示しています。
 トピアリーと人物の描き分けも巧いなあ。

『シルクハットぞくは よなかの いちじに やってくる』(おくはらゆめ 童心社)
 シルクハットを被った怪しい紳士たちは空を飛んで、あちこちの家に侵入するのですが、何をするためにかが、とても素敵です。話せませんけどね。おくはらの発想力のすばらしさが遺憾なく発揮された作品です。

『どうなってるの? きかいのなか』(コンラッド・メイスン:文 コリン・キング:絵 福本友美子:訳 ひさかたチャイルド)
 工場の機械から蛇口まで、その表面を描いた絵の一部をめくると、中の構造が見えるという簡単な仕掛け絵本です。簡単ですが、このめくって覗くというのがなかなかな発想で、なるほど確かに子ども時代、中はどうなっているんだろう? と好奇心を抱いたとき、こんな風にして見ることができたら楽しいだろうなと思ったものでした。
 めくって閉じて、閉じてめくって、好奇心を発動してください。

『おやすみ、はたらくくるまたち』(シェリー・ダスキー・リンカー:文 トム・リヒテンヘルド:絵 福本友美子:訳 ひさかたチャイルド)
 「おやすみ」絵本でありつつ、「はたらくくるま」絵本でしょ。これでおもしろくなかったら、私は怒ります。
子どもが眠りにつくための絵本ですけど、働いて帰ってきた親がゆっくり眠るための絵本でもあるのよね。子どもたち、親に読んであげてくださいよ。

『ケイティときょうりゅう博物館』(ジェイムズ・メイヒュー:作 西村秀一:訳 富田京一:監修 サイエンティスト社)
 「ケイティのふしぎ美術館」シリーズは、子どもとミュージアムの距離を縮める優れ物絵本ですが、六巻目は恐竜化石で有名なロンドンの自然史博物館。子どもがミュージアム世界に潜り込んでしまう趣向です。
本当の自然史博物館自体も素晴らしい展示の仕方で圧倒しますので、ロンドンに行かれたときはぜひ。

『どうなってるの? からだのなか』(ケイティ・デインズ:文 コリン・キング:絵 福本友美子:訳 ひさかたチャイルド)
 『どうなっているの? きかいのなか』と対の絵本。仕掛けも同じです。しかし、機械と体が対として出ていることは示唆に富みます。体の構造から機械は発想され、また、体を機械のように把握することで西洋医学は進歩してきたからです。機械は体の写しであり、体は機械のようにパーツとして意識される。それがルネッサンスから近代に起こった意識の変化でした。

『くぎになったソロモン』(ウィリアム・スタイグ:作 おがわえつこ:訳 セーラー出版)
 新訳で登場です。ウサギの男の子ソロモンは、ある日自分が釘に変身できることに気づきます。色々いたずらするのですが、ネコに捕まってしまい、釘に変身したこともばれてしまって、ソロモンはネコの家の壁に打ち付けられてしまう。でも、ウサギに戻ったらネコに食べられてしまうし、どうしましょう?
 どこからこんなアイデアが思い浮かぶのか、今は亡きスタイグに訊いてみたい。

『わたしが山おくに すんでいたころ』(シンシア・ライラント:文 ダイアン・グッド:絵 もりうちすみこ:訳 ゴブリン書房)
 『メイおばちゃんの庭』や『ヴァン・ゴッホ・カフェ』のライラント、デビュー作。幼い頃、母親と離れ祖父母の元で暮らした4年間を綴っています。寂しくはあったのでしょうが、それでも日々に喜びを見いだす子どもの姿は力強い。

『おひさまみたいに』(スーザン・マリー・スワンソン:文 マーガレット・カドス=アーヴィン:絵 ふしみみさお:訳 ほるぷ出版)
 女の子が種を植えて、ひまわりが花を拡げるまでを、リズムよく語り、描きます。別になんてこともないのですが、うきうきしますよ。

『おかめ列車 嫁にいく』(いぬんこ 長崎出版)
 『おかめ列車』の続編が登場。そうか、嫁に行くか。誰のところに? お相手は、ひょっとこ特急便。もう、なんだか目出度いモード全開で描かれています。良い意味でチープな雰囲気を漂わせた、懐かし画風もますます磨きがかかっていますよ。

『ぶりっぺ すかっぺ』(村上八千世:文 せべまさゆき:絵 ほるぷ出版)
 食育ならぬ便育絵本シリーズ最新作。おならについて語ります。様々なおならの出方。おならの種類。おならの原因。知っておくとおならがかわいくなりますよ。

『よろしくともだち』(内田麟太郎:作 降矢なな:絵 偕成社)
 ともだちシリーズももう十一巻目です。オオカミやキツネたちが野球をして遊んでいると、コダヌキも参加したそう。ところがオオカミが怖い。オオカミはなんとかコダヌキに自分は優しいことをわかってもらいたいのですが・・・。ワンポイントのひねりが本当にすごいなあ。

『サバンナのむかしがたり 岩をたたくウサギ』(よねやまひろこ:再話 シグリ村の女たち:絵 新日本出版)
 悪賢いウサギは動物みんなを集めて、ばかにする言葉、ゴォーゴを使った動物は皮になってしまう罰を科すことを提案し受け入れられます。
ウサギは他の動物に次ぐ次とゴォーゴと言わせるように仕組み・・・。
愉快な昔話に現地の人たちが絵をつけています。どの動物がどんなシンボルなのか、どの色は何を意味するかも解説されていて興味深いです。

『わるいことがしたい』(沢木耕太郎:作 ミスミヨシコ:絵 講談社)
 そりゃあ、子どもはみんな悪いことがしたい。沢木はそんな子ども心に沿って、色んな悪さをさせています。子どもはそうして社会性を身につけていくんだもんね。ミスミの絵のなんと活き活きとしていること。

『北京』(于大武:作 文妹:訳 ポプラ社)
 「天子は中心にあり、北を背にして南を向く」という考え方に基づいて中軸線に沿って作られた北京の姿を、南大門から北へ向かって描いていく絵本。清時代の風景から次第に現代へと移り変わっていきます。そこには都市計画の美しさと、権力中枢の有り様と、時代による変遷が重なっています。
 ポプラ社による、『ヤンヤンいちばへいく』に続く日中出版交流作品。こんな時だからこそね。

『ベルとブウ すてきな たんじょうび』(マンディ・サトクリフ:さく ひがしかずこ:やく 岩崎書店)
 ベルとウサギのブウ、仲良しコンビの絵本です。ベルがお誕生日の準備を始めます。カードを作り、ケーキを焼いて・・・。ブウはお誕生日を知りませんから、興味津々。そして準備は整って、誰が祝ってもらうのかな?
 50年代風の絵に、安定感のあるストーリー。幸せな結末。王道ですね。

『おばけのバーティ よーいドロン!』(エリザベス・バグリー:ぶん マリオン・リンジー:え いしずちひろ:やく BL出版)
 おばけはみんなの怖がらせるのが本分。でも、ちっちゃなバーディは恐がりで、そんなことはできません。でも、でも、やっぱり怖がらせたいと夜中に出ていくのですが、オオカミが怖い、ドラゴンが怖いと逃げ回ります。自分はだめだと思い始めた頃バーディがたどり着いたのは?
 次のページを繰ることの怖さと繰った後のおもしろさが良くできている一品。

『ぴーかーぶー!』(新井洋行:さく 小林ゆき子:え くもん出版)
 お化けが住むぴーかーぶー村には、人は誰も近づきません。ところが、一人の男の子がやってきます。かれ、お化けを全然怖がらない。何故?
 小林が、いろいろなお化けの創造を楽しんでいる様が愉快です。

『白い馬』(東山魁夷:絵 松本猛:文・構成 講談社)
 東山の代表作「白い馬」のシリーズに、東山の心に沿って松本がイメージ豊かに文をつけ物語った絵本です。
 どちらかと言えば大人向き。
 国民的画家と評された東山もまた、ヨーロッパへの憧憬がその基礎を築いているのがよくわかります。

『世界のふしぎな虫 おもしろい虫』(今森光彦 アリス館)
 アリス館で昆虫関係の写真絵本をたくさん出している(『やあ! 出会えたね』全七巻。いいですよ)今森の文と写真、安曇野蝶類研究所提供の珍しい昆虫標本241体を原寸大によって比べるという構成の図鑑です。未知の生き物にドキドキできますよ。

『おじいちゃんのひみつ』(やぎゅうげんいちろう 「かがくのとも」九月号 福音館)
 老いの見え始めた「おじいちゃん」という生き物を描いています。昔は男前だったと主張する。耳が聞こえにくいわ、物忘れが激しいわ、白内障になるわ。「おじいちゃん」という生き物はなかなかおもしろい。

『ヒコリみなみのしまにいく』(いまきみち 「こどものとも 年中向き」九月号 福音館)
 ヒコリはおじさんと南の島に出かけることに。そこは遠浅で引き潮になると楽しいことがいっぱい! 色んな生き物を捕りますよ。様々な色の布と糸で描く絵の風合いは、涼しくて、同時に温もりもあります。素敵な作家だなあ。

『ペコペコざかな』(菅野由貴子 岩崎書店)
 小さな仕掛け絵本。ペコペコざかなのお腹が開けてあって、ページを繰るとその穴に前のページの生き物が入る仕組み。次々とお魚がお腹に増えていって、最後は?
 なるほどね。

『ようかい がまとの ゲッコウの怪談』(よしながこうたく あかね書房)
 学校に潜むガマガエルの妖怪がまとのシリーズ二作目です。がまとののお宝、月光石を拾った子どもたち。怒ったがまとのが月光石を取り返そうとします。学校に住むこわ〜い妖怪たちも襲ってきて、もう大変。
好きな人にはたまらない、好きでない人にもそれはそれでたまらない、こうたく世界です。

『おもちゃびじゅつかんのクリスマス』(デイヴィド・ルーカス:作 なかがわちひろ:訳 徳間書店)
 おなじみのおもちゃの面々。イヴの日、プレゼントを自分たちも欲しい。でも考えれば、おもちゃなのですから自分たち自身を箱に入れて互いのプレゼントにすればいいと思いつきます。素晴らしい! ん? でも誰が開けるの?
 良質のユーモアは相変わらず。

『こんちき号北極探検記』(あべ弘士 講談社)
 BS取材もありつつ、あべが、十一人のクルーで北極ヨット巡りをしたスケッチノート。山のような締め切りからの脱走も兼ねているので、北極探検と言っても緊張感もなく、緩く描かれています。あなたも北極を身近に感じてくださいませ。