176

       


【児童書】
『コヨーテのおはなし』(リー・ペック:さく ヴァージニア・リー・バートン:え あんどうのりこ:やく 長崎出版)
 ネイティヴ・アメリカンに伝わる民話を採取したものにバートンが挿絵をつけています。コヨーテがこんなに偉い動物として描かれているなんて知りませんでした。オオカミからヒツジを守ったり、人間に光と火と動物を与えたり。コヨーテの賢さを尊敬していたのでしょうね。

『スター・ネズミの秘密』(ルーシー・ダニエルズ:作 千葉茂樹:訳 サカイ ノピー:絵 ほるぷ出版)
 「こちら動物のお医者さん」シリーズは、母親のような獣医になろうとしているマンディを描いています。今回は学校で自分たちのペットと一緒に劇をやることになり、でもネズミさんは演技ができるのかしら? と楽しく展開していきます。
 全体が地味なシリーズなので手にとってもらうまでは大変でしょうけれど、読めば、そのほんわか度合いを好きになる子どもは多いはず。

『がっこうにんじゃ えびてんくん』(村上しいこ:作 真珠まりこ:絵 岩崎書店)
 カズキくんのクラスメイト、忍者えびてんくんの活躍を描きます。
 なつみちゃんが学校に来なくなった。心配したカズキとえびてんくん。なつみちゃんの家にどうして入るかを、忍者的に考えます。果たしてなつみちゃんが学校に来ない訳は?
 村上流あほくささに、学校お悩みが絡んできますよ。学校部屋シリーズとはひと味違うのでお楽しみあれ。

【絵本】
『ケープドリとモンドリアンドリ』(ワウター・ヴァン・レーク:作 野坂悦子:訳 朔北社)
 ケープドリと抽象画のモンドリアンが出会う絵本です。ワウターがモンドリアンを敬愛しているのがよくわかる作品で、画面がモンドリアンを生きています。そこにワウターの日本趣味も加わって、ふしぎな世界が展開。でも、この作品が「金のりんご賞」を取れる、というか、この作品に賞を与えられる審査のすばらしさ。

『ジャックと豆の木』(ジョン・シェリー:再話・絵 おびかゆうこ:やく 福音館)
 おなじみの昔話です。天地の空間移動が多いお話ですから、構図をどのようにするかで迫力が違ってきます。ジョン・シェリーは空間を少しだけゆがめることで膨らみを持たせ、人物たちの姿も力の入った一瞬を描き、そこから動きを想像させます。
 しかしこのお話、昔から私は、ジャックたちの方が強欲だと思うのですが。

『おにぎりがしま』(やぎたみこ ブロンズ新社)
 ある日、おにぎりがのった船が岸にたどり着く。こたろうが近づくとおにぎりのなかからおにの子どもが! おにの子どもは山に田を作り、米を実らせ、飯を作り、おにぎりにします。と、その中からまた子どものおにが!
 いいなあ、この展開、この発想。素晴らしい!

『パオアルのキツネたいじ』(蒲松齢:原作 心怡:再話 蔡皋:絵 中由美子:訳 徳間書店)
 聊齋志異から採ったお話をアレンジして絵本化です。
 母親がキツネに取り憑かれてしまったパオアルが知恵を絞ります。冒険し、推理し、やっつける。かわいそうだからオオカミさんを生かしておきましょう「赤ずきん」的ノリではありません。蔡皋の絵が素晴らしい。

『くろくまくん あいうえお』(たかいよしかず:さく・え くもん出版)
 疲れ知らずの絶好調、たかいのくろくまくんが、二色以上で登場だ。ま、あいうえおだから仕方がないのですがね。もう単純でおかしい。くろくまくんが「あ」の口をすると、他の動物たちも「あ」の口。「い」から「お」も同じ展開。それがどうした! って言ってはだめですよ。どうもしないのですから。この止めがたかいの素敵さ。なにやら「くろくまくん」シリーズでクリスマス絵本を出すって噂もありますぞ。これは本当に多色刷りだ。

『アナベルと ふしぎなけいと』(マック・バーネット:文 ジョン・クラッセン:絵 なかがわちひろ:訳 あすなろ書房)
 アナベルは編み物が大好き。自分のセーターを編み終えたら、毛糸がまだ余っているので愛犬マースのも編みます。あれ、でもまだ余っているよ。ということで、アナベルは友達から動物、樹木と次々、着る物を編んでいきます。
 絵もこの文章に良く呼応して、世界中がどんどん編み物で満たされていく様子を描いていきます。ああ、なんて暖かい!
 まさに、絵本ならではの幸せの世界です。ちょいとした事件もありますが、そんなことはものともせず。

『リンゴのたび』(デボラ・ホプキンソン:作 ナンシー・カーペンター:絵 藤本朝己:訳 小峰書店)
 開拓時代、アイオワからオレゴンまで三千キロ、リンゴやブドウ、果樹の苗木を馬車で運んだ家族の物語です。暑さ、寒さ、干ばつ、雹と、様々な難局を乗り切っていきます。
 語り手は家族の長女。この娘がなかなか元気で気持ち良い。ナンシー・カーペンターのリズム感にあふれた絵も素敵。

『生まれかわり』(寮美千子:文 長崎出版)
『空とぶ鉢』に続く、寮による絵巻物絵本二作目。今作は東大寺大仏縁起絵巻から採っています。今の人たちには縁遠い絵巻を身近なものにし、関心を持ってもらう優れた試みです。それは近頃かまびすしい「復古」のような薄っぺらな発想ではなく、歴史と文化を自分の中に位置づけることで、しっかりと現在を見据えるための試みです。

『わたしのいちばん あのこの1ばん』(アリソン・ウォルチ:作 パトリス・バートン:絵 薫くみこ:訳 ポプラ社)
 なんでも自分が一番だというバイオレット。なんだかそれが嫌な私。私は好きな物が好きなだけ。クラスみんなで鉢植えをしたとき、バイオレットの鉢の芽が一番のようで、私はバイオレットが病気でおやすみの時、その鉢を・・・。単に一番より大事なことを描くのではなく、どちらをも認める視点がいいですね。

『ふるさとはフクシマ 子どもたちの3.11』(NPO法人 元気になろう福島:編 文研出版)
 福島から避難した子どもたちが、思いを綴った作文に、和歌山静子たちが絵をつけています。
 子どもたちの生の気持ちが伝わります。
 みんな本当に帰りたいんですね。
そうだよね。

『えんそくごいっしょに』(小竹守道子:さく ひだ きょうこ:え アリス館)
 どろぼうさんたちが山へ遠足に出かけます。ところが、刑事さんたちも遠足にきていて。どろぼうさんたちは隠れたり、逃げたりしますが、遊びだと思った刑事さんたちがすぐに見つけてしまいます。さて、どうなることでしょう? という愉快なお話に、ひだがリズミカルな絵を提供。

『カーリーさんの庭』(ジェイン・カトラー:作 ブライアン・カラス::絵 磯みゆき:訳 ポプラ社)
 人生、色んな楽しみ方があります。ご近所みんな庭作りが大好き。でも、カーリーさんの庭の花や葉っぱは穴だらけ。カタツムリのせいです。ご近所さんたちは親切に色々アドバイスをしてくれますが、カーリーさんはこれでいいらしい。そのわけは? ははは、これは素敵だ。

『チビウオのウソみたいなホントのはなし』(ジュルア。ドナルドソン:文 アクセル・シェフラー:絵 ふしみみさお:やく 徳間書店)
 海の中、チビウオはお話が得意。嘘か本当かわからない話でみんなを楽しませています。遅刻ばかりして先生にしかられますが、遅刻の理由も作り話です。でも、海のみんなは、チビウオの、冒険話を次から次へと語り継いでいます。あるとき、学校をさぼっていたチビウオは漁師に捕らえられ、見知らぬ海で放されるのですが、さて帰り着くことができるのか? 「物語」の魅力と力を伝えるメタ絵本でもあります。

『こどもの行事 しぜんと生活 11月』(かこさとし:文・絵 小峰書店)
 早いものでもう、11月。文化の日、七五三、冬ごもり。日本の文化が、季節と共に描かれていきます。さあ、もう一巻で、一年が巡ります。いい十二冊が揃うなあ。

『てくとこ ずんずん』(マーゲレット・ワイズ・ブラウン:詩 レミー・シャーリップ:絵 木坂涼:訳 集英社)
 世界を、地球を、てくてく、とことこ、ずんずん、歩いて行く。マーゲレット・ワイズ・ブラウンの詩に、イメージ豊かな絵を添えた絵本。木坂の言葉ですから、日本語もピタリ。

『小さなミンディの大かつやく』(エリック・A・キメル:文 バーバラ・マクリントック:絵 福本友美子:訳 ほるぷ出版)
 シナゴーグの壁の中でひっそりと暮らす小さな人たち。ユダヤ教のハヌカ祭りのためにロウソクを補充したいのですが、教会にネコが出没して危険。でも娘のミンディが勇気を出してロウソクを取りに出かけます。「床下の小人たち」絵本版といったところですが、マクリントックの詳細な画が、やはり圧巻です。ネコの迫りようったら。

『きょうりゅうの たまごにいちゃん』(あきやま ただし:作 すずき出版)
 たまご生活が快適で、たまごから出ないにいちゃんシリーズの最新作。今作のにいちゃんは、たまごを割って出ようかなって思っておりますぞ。どうなることやら。
 相変わらず、いい発想。

『せかせかビーバーさん』(ニコラス・オールランド:作 落合恵子:訳 クレヨンハウス)
 いつも動いているビーバーさん。一生懸命木を削りますが、落ち着いて考えないものだから、必要ない木まで切るわ、鳥の巣は壊すわ、自然破壊をしとります。とうとう自分が切った木が倒れてきて怪我をして入院・・・。そこで初めてゆっくりとした時間を過ごします。
 いきなり自然の大切さだとか、スローライフだとか言わずに、一度失敗するところから描いているのがいいですね。失敗したことは素直に認めればいいのだから。

『きょうりゅう、えらいぞ』(クリス・ゴール:作 西山佑:訳 いそっぷ社)
 恐竜と働く車を合体した発想で展開します。恐竜時代にクレーンサウルスとかセメントサウルスがいるんですね。これはまた、ふしぎとピタリとあうんです。それに、恐竜と働く車の合体なんて、贅沢この上もない。

『月の満ちかけ絵本』(大枝史郎:文 佐藤みき:絵 あすなろ書房)
 月の満ちかけは、目で見ることができるダイナミックな変化の一つですから、その理屈に子どもは興味を持つことが多いでしょう(私もそうでした)。この絵本はその理屈をわかりやすく説明してくれています。理屈は、想像を減少させるのではなくむしろ高揚させます。

『くまさんの おたすけ えんぴつ』(アンソニー・ブラウン:さく さくまゆみこ:やく BL出版)
 アンソニーの愉快な「くまさん」シリーズ二作目です。くまさんが歩いていると、ハンター二人が登場。くまさんを捕らえようとしますが大丈夫。まほうの鉛筆があるもんね。サイを描いてそれを捕まえさせたり、鉄砲の先を曲げたりね。このあほらしさが素敵ね。

『川のぼうけん』(エリザベス・ローズ:文 ジェラルド・ローズ:絵 ふしみみさお:訳 岩波書店)
 雨が降り、その雨水が海を見たいと、上流から冒険します。だから冒険するのは川の流れそのもの。この発想が素晴らしいです。
流れは様々な生き物と出会います。下れば下るほど勢いがなくなっていきますがそれは、川が大きくなっていくから。
魚やカワウソではなく、流れを物語っていくことで、物の見方を拡げていきます。

『小さいのが大きくて、大きいのが小さかったら』(エビ・ナウマン:文 ディーター・ヴィースミュラー:絵 若松宣子:訳 岩波書店)
 いつもネコが怖いネズミさん。もし大きさが逆転したらと想像します。想像はネコとネズミだけでなく、色々と拡がっていきます。ニワトリとミミズ。オオカミとヒツジ。絵本ですから、その比較が奇妙な感覚を誘います。

『おおきいおうち と ちいさいおうち』(上野与志:作 藤嶋えみこ:絵 岩崎書店)
 くまとねずみはいつも反対方向へ出かけるので、お隣同士なのに互いを知りません。ある日、くまもねずみも気分を入れ替えて反対方向へ出かけます。でも、行き慣れていない場所は孤独で・・・。
 二匹が友達になるまでを描きます。
 藤嶋の派手でない落ち着いた色の置き方がなかなか良いです。

『メガネをかけたら』(くすのき しげのり:作 たるいし まこ:絵 小学館)
 メガネをかけたくない子どもにどう納得してもらうかが描かれた絵本。似合うと言ってみたり、賢く見えると言ってみたり。なかなか説得できません。どうしましょう?
 垂石真子はいろいろな絵が描けますね。

『まほうのコップ』(藤田千枝:原案 川島敏生:写真 長谷川摂子:文 福音館書店)
 フォーク、きゅうり、おきゅうす。水の入ったコップの後ろに置くと、ぐにゃりとして見えます。簡単にできる不思議。そこから興味がわいてくる。藤田千枝はいつも冴えています。

『ふしぎな深海魚図鑑』(北村雄一:絵と文 汐文社)
 深海魚は、陸に揚げたとき水圧の影響で形が崩れてしまいます。そこで、この図鑑では元の形態を想像して描いています。写真もいいですがこうした手書きは却って怖かったりします。私たちが知っている魚類とはちょっと違う姿形も怖さの原因ですが、そうした未知への恐怖を飼い慣らすのもいいですね。

『おやおやおやつ なにしてる?』(織田道代:作 tupera tupera:絵 すずき出版)
 「いちごと りんごで いちりんしゃ」といった風に軽い言葉遊びの絵本です。「おにぎりの おにごっこ おには だれかな?」。ベタですが、子どもの心をくすぐります。tupera tuperaの絵は、いつも楽しいですね。

『ブラック・ドッグ』(レーヴィ・ピンフォールド:作 片岡しのぶ:訳 光村教育図書)
 恐怖は過剰な思い込みからもよくおこりますが、この絵本はそんな家族の姿を描きます。雪のやまない夜中、パパは家の外に虎ほどもある黒い犬を見ます。それに呼応してママは象ほどもあると思います。一家は恐怖に震えるのですが、末っ子チャイは気にせず外に出ます。犬と追いかけっこをするチャイ。やがて犬はだんだん小さくなり、普通の大きさに。
 先入観のない幼い子どもと大人の対比ですね。ピンフォールドの絵は物語世界を驚くほど活き活きと伝えています。

『こころやさしいワニ』(ルチーア・パンティエーリ:さく アントン・ジョナータ・フェッラーリ:え さとう のりか:やく 岩崎書店)
 顔は怖いけれど優しいワニは子どもの人気者。もっとよろこばせようと、絵本に潜り込んで家の中に入り込みます。夜中、絵本から出たワニは家族のために色々お手伝いをするのですが・・・。ワニを見る側ではなくワニの気持ちで読めるのが巧いですね。

『こおりのなみだ』(ジャッキー・モリス:さく 小林晶子:やく 岩崎書店)
 豊かな神話的物語。子グマが生まれますが、カラスにさらわれてしまいます。かりゅうどが子どもを見つけて育てます。実はその子こそ、あの子グマだったのです。時は過ぎ、シロクマはわが子を発見します。もう離さない。一方人間の親はわが子を救おうとシロクマに近づいていきます。奥行きのある物語に、力強い画。

『ぼくのママはうんてんし』(おおともやすお 福音館書店)
 のぞむのママは電車の運転士。パパは看護師。もうすぐママの誕生日。のぞむはパパと相談して、ママの電車が通過する橋の上から旗を振ることにしますが、当日パパが急用で幼稚園に迎えに来られなくなり・・・。がっかり感から、喜びへと一気に転換します。でも、家族が、運転中のママの気をそらしてもいいのかしら? とちょっと思う。

『ごきげんなライオン すてきなたからもの』(ルイーズ・ファティオ:文 ロジャー・デュボアサン:絵 今江祥智・遠藤育枝:訳 BL出版)
 ライオンくんは遺言状を書くことにします。動物園のみんなに何を遺そうか。色々考えましたが、飼育係のフランソワくんから指摘。動物園の備品は動物園の所有物だからライオンくんが遺せない。でもね、ライオンくんはとっても素敵なものを持っているよ。さて、それはいったい? 安定した物語と安定した絵。外しませんね。

【その他】
『小学生のための文章レッスン ラブレターを書こう』(灰島かり:作 玉川大学出版部)
 この本は、恋愛のラブレターだけじゃなく、色んな人への「好き」って気持ちを、メールではなく手紙で書くためのレッスン本です。
もちろん、電話やメールだってかまいませんが、手紙の方がインパクトは圧倒的にありますから、好きな気持ちは手紙に書く方がいいですよ。書いている内に心の整理も着くので、本当に好きか? どんな風に好きか? どこが好きか? など、つまりは自分の心が分かってきます。これは、手紙の効用です。
 面と向かって告白もリアルでいいですが、手紙と巧く使い分けてくださいね。

『好きノート』(谷川俊太郎 アリス館)
 アリス館での谷川の仕事には、写真家吉村和敏との『あさ』、『ゆう』があり、どちらも好きだけれど、今作は、谷川と読者のコラボ企画です。左から繰るページは子ども読者との「すき」に関する対話。右からは大人読者との「好き」を巡る対話となっています。読者が谷川の問いかけに応えて書き込むことで本ができます。装画を安野光雅が担当しているので、落ち着きが生まれています。

Copyright(C), 1998〜