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【児童書】 『告白』(小林 深雪、如月 かずさ、石川 宏千花、 福田 隆浩、河合二湖:作 講談社) バレンタインという、ホルモン動向イベントをお題にしたアンソロジーです。 YAの先っぽで書いている作家たちなので、ドキドキ告白、あ〜幸せ、とは行きません。というか、このお題を使って、やっぱり今の子どもの状況や気持ちや気分を、それぞれの視点で描いています。 『希望への扉 リロダ』(渡辺有理子:作 小渕もも:絵 アリス館) ミャンマーからタイへの難民キャンプでの図書館活動を描いた物語。NGOのスタッフとして図書館司書育成に関わった渡辺の経験を基礎に描いています。従って意外な展開などはありませんが、物語や情報を伝えるツールとしての書物の力が伝わります。 子ども向けの話ですので絵本の話が多いですがそこで使われるのがロシアの作家と日本の画家による『おおきなかぶ』なそ、日本で人気のある古典的作品であることの意味を、書いて欲しかったです。 現代の絵本も検討されたのだろうか? ミャンマーの子どもたちには、まず最初にどの絵本を手渡そうかと、どんな議論がなされたか? 『くりぃむパン』(濱野京子 くもん出版) 香里の家ひいらぎ館は、五世代と下宿人が住んでいます。父親が職を失ったために一緒に暮らすことになった未果のことが気になる香里。注目され、気遣いに包まれる未果への自分の嫉妬に気づかないまま、未果への悪意を持ってしまう香里の心の動きが描かれています。商店街もまだ機能している下町の人情が背景に控え、香里と未果を守ります。 『ぼくの嘘』(藤野恵美 講談社) 二次元おたくの勇太が恋した三次元の女子は、親友の彼女。彼女が置き忘れたカーディガンを抱きしめているところを、クラス一の美少女あおいに撮られてしまう。そして、あおいは勇太に偽の恋人になれと脅すのだ。あおいは同性愛で、密かに愛する少女に彼氏ができたので、ダブルデートを目論んでいたのだ。という、わかりやすいシチュエーションで展開するラブコメ。勇太とあおい、それぞれの母親との関係と、その見切り方が最初の読みどころ。あとは、ご期待通りの結末まで一気です。 『ぼくとヨシュと水色の空』(ジーグリット・ツェーフェルト:作 はたさわゆうこ:訳 徳間書店) 心臓に疾患があり、何度も手術を重ねてきたヤン。彼の親友ヨシュは、体の弱いヤンを気遣い、いじめっ子からもかばってくれる。 ヨシュからもらったナイフをヤンはいじめっ子に奪われる。そしてそのナイフで、おばあさんが傷つけられる。疑われたヨシュはいなくなる。再び心臓手術の日が迫ってきているヤンは、ヨシュのために何ができるのか? 大変な事件は起こりますが、ヤンとヨシュの関係などは真っ直ぐで、今の日本を舞台にしてはなかなか描けないでしょう。この温もりを、日本を舞台にしたときどう描けばいいか? を考えてみてもいい。 【絵本】 『いいこで ねんね』(デヴィド・エズラ・シュタイン:作 さかいくにゆき:訳 ポプラ社) おやすみ絵本です。なかなか寝ない子。パパは昔話絵本を読んであげますが、ピーヨが途中で割り込んできて、さっさと話を終わらせてしまいます。もう読む絵本がなくなってしまったパパ。そこでピーヨがパパにおはなしをしてあげることに。するとパパは・・・。 子どもが心地いい展開。 画面構成、表情、本当に巧い。 『みて、ほんだよ!』(リビー・グリーソン:文 フレア・ブラックウッド:絵 谷川俊太郎:訳 光村教育図書) 本好きによる本好きのための、本を巡る絵本。 ある日少年と少女は本を拾う。本を壊さないように、大事に、大事にする「冒険」が始まります。風雨から守り、なめてしまう犬から守り・・・。本の中身は描きません。本そのものの大切さを語っていきます。ブラックウッドの描く線の切れ味がいいのですよ。 『ねむるまえに クマは』(フリップ。C。ステッド:文 エリン・E・ステッド:絵 青山南:訳 光村教育図書) 冬眠の季節。眠る前にクマはみんなに話をしておきたい。でも、ネズミくんもカエルくんも眠ってしまった。モグラくんは! ・・・やっぱり眠っている・・・。そうして春が来て、クマは起きてきたみんなに話そうとしますが。 小さいけれど、それぞれの心に残っていく物語。そして画。 『わたしのゆたんぽ』(きたむらさとし 偕成社) わたしと、わたしのかわいいゆたんぽのお話です。ゆたんぽがおふとんから逃げ出します。追いかけるわたしの足! どんどん伸びて追いかけ、宇宙に飛び出し、見知らぬ星まで飛ばす、きたむらさとしが素敵。電気あんかと違って、やがて冷めるところが愛しいのよね。 『しずかな、クリスマスのほん』(デボラ・アンダーウッド:文 レナータ・リウカス:絵 光村教育図書) 『しんと しずかな ほん』のコンビによるクリスマス時期の静かさを、色々描いていきます。「しずかさ」の中に含まれる、感情や感性や思考が、絵本の中から浮かび上がってきますよ。 『クリスマスってなあに?』(ジョーン・G・ロビンソン:文・絵 こみやゆう:訳 岩波書店) 一九四六年作品ですから、ドイツ降伏後に書かれたか、戦中から書き始めていたかの作品ですね。いずれにせよ、クリスマスという、日常の中にしっかりと生きている非日常への思いは強かったことでしょう。 クリスマスの準備を子どもたちがどんな風にするか。その期待に満ちた様子が描かれています。日本とはかなり違うので、そこも楽しいところ。 絵も色遣いも、いいなあ。 『シャオユイのさんぽ』(チェン・ジーユエン:作 中由美子:訳 光村教育図書) おかあさんが遅くなるので、今日はおとうさんがたまごチャーハンを作ってくれます。シャオユイは卵を買いに出かけます。シャオユイは、おかあさんになった気分になって、楽しい、かわいい、様々なことを思い浮かべ、演じます。お店の人もちゃんと分かってつきあってくれますよ。下町の温かさが、絵からも物語からも伝わってきます。 『だいすき、でも、でもね』(二宮由紀子:文 市居みか:絵 文研出版) まいちゃんが好きなネコのバニラ。でも、バニラが好きなのはクッション。でもクッションが好きなのは・・・。という連鎖物です。人間から家の中にある家電や道具までが、こうしてどんどん繋がっていくのがなんとも愉快です。 『イライジャの天使』(マイケル・J・ローゼン:文 アミナー・ブレンダ・リン・ロビンソン:絵 さくまゆみこ:訳 晶文社) 黒人でキリスト教の床屋イライジャはたくさんの木彫りを作っている。それらは黒人の歴史を物語るものやキリスト教を物語る作品。マイケルは白人でユダヤ教の少年で、イライジャが大好き。肌の色も宗教も年齢も違う二人の、穏やかで暖かな友情が、クリスマスとハヌカの祭りを背景に描かれています。 作者のマイケルも画家のアミナーもイライジャの床屋で通った子どもでしたから、彼から伝えられた大事なメッセージを二人で愛おしく絵本に仕立てています。そこが伝わってくるから、いいのですよ。 『サーカスの少年と 鳥になった女の子』(ジェーン・レイ:作・絵 河野万理子:訳 徳間書店) サーカス団で酷使されている孤児のアーメッドは、ある日金の卵を拾います。でも、見つかってしまい、取り上げられる。金の卵からは女の子が生まれ、彼女は見世物にされます。やがて背中に羽の生え始めた彼女はますます、人気の見世物に。そんな彼女をアーメッドは逃がします。それで自分が叱られ、より一層酷使されるのを承知で。そしてある日・・・。 ジェーン・レイは布や紙の柄パターンを巧みに使って、物語世界の幻想性を高めています。その羽の美しいこと。 『神々の母に捧げる詩 続アメリカ・インディアンの詩』(金関寿夫:訳 秋野刻左牟:絵 福音館書店) 口承で伝わる豊かで素朴な詩の数々を金関が訳したものからイメージを膨らませ、秋野がダイナミックに描いた画詩集です。短い言葉を画家がどう解釈して、どう絵として表現していくかが見所の一つです。 『かえでの葉っぱ』(D・ムラースコヴァー:文 出久根育:絵 関沢明子:訳 理論社) 一枚の葉っぱが木から落ち、風に、川に身を任せながら辿る旅。それは人生であり、時間であり、命への愛おしさです。物語に出久根が呼応し、小さな葉っぱの大きな冒険を、葉っぱの目線で、奥深く描きます。 『チャーリーの はじめてのよる』(エイミー・ヘスト:ぶん ヘレン・オクセンバリー:え さくまゆみこ:やく 岩崎書店) 雪の日。ヘンリーは子犬を拾います。幸い飼えることになりました。でもベッドに連れて行ってはだめ。キッチンで寝かせること。夜、ヘンリーは子犬のなきごえを聞いてキッチンへ。さみしい心と不安な心が寄り添いながら、信頼を深めていきます。オクセンバリーの柔らかな色使いが素敵。 『山に肉を とりに行く』(田口茂男:写真・文 岩崎書店) 素敵なシリーズ「ちしきのぽけっと」最新刊。 イノシシや鹿の猟を中心に、山での暮らしを切り取った写真絵本です。 近年、肉に脂ののりや質が悪くなったのは、広葉樹の伐採によるのでは? といった生の情報があります。また、農耕と猟が溶け合った暮らしぶりの豊穣さと、しかしそこにも市場原理が入り込んできてしまうといった、山の暮らし側からのドキュメントがありがたいです。 『新版 折りびな』(田中サタ:著 真田ふさえ:画 福音館書店) 折り紙を複数枚重ねて折って作るおひな様です。細かく丁寧に解説されていますので、わかりやすい。 男びな 女びな、三人官女、五人囃子を作ることができます。 いやあ〜、美しい。 そうそう、折り紙も添付されています。 近頃、あらゆる方面で日本人であることに自信をなくしているみなさん、これはちょっと誇れますよ。 『水は、』(山下大明:写真・文) 森に雨が降り、森は水をたたえ、土は水を川に戻し、水は流れ、蒸気となり、雲からまた雨に。地球の呼吸。その循環の美を、山下は言葉を控えながら見せていきます。 『トリックアート おばけやしき』(北岡明佳:監修 グループ・コロンブス:構成・文 あかね書房) トリックアートシリーズ最新刊。こんどは「おばけやしく」ですから、いろんな不思議を描けます。 ダンジョンっぽく、おばけやしきを描いて、だまし絵、隠し絵、ふしぎ絵へと誘います。 『リッキのたんじょうび』(ヒド・ファン・ヘネヒテン:さく・え のざかえつこ:やく フレーベル館) 子ウサギ、リッキのシリーズ最新刊。 今日はリッキのお誕生日。友達をたくさん招待しましたよ。みんながやってきたけど、でも、アニーいません。彼女からのメッセージは、私を探して! リッキが矢印通りに森を歩くと、アニー発見! 最高のプレゼント。 『そらのいろって』(ピータ・レイノルズ:作 なかがわちひろ:訳 あすなろ書房) レイノルズらしい、幸せ展開です。マリソルは描くのが大好きで、学校でも人気者。だけど、空を描こうとしたけど、青色がない! でもね、大丈夫ですよ。うん。そうそう、大丈夫! 『きかんしゃが とおるよ』(ゴールデン・マクドナルド:さく レナード・ワイスガード:え こみやゆう:やく 長崎出版) 50年代の作品です。向こうからやってくる機関車の小さな姿。線路をわたる動物や人々。今だと、何か危なそうですが、ここではとても牧歌的です。鉄道への思い入れや感じ方は、アメリカと日本ではおそらくずいぶん違いますから、それを味わうのも楽しいでしょう。 『こどもの行事 しぜんと生活 12月のまき』(かこさとし 小峰書店) 一年を掛けてついに、12ヶ月、12巻が完成しました。子ども行事図鑑ができました。知っていることも知らないこともあるでしょう。目を通し、地に足のついた知識を得ることで、「復古」大好きな政治家たちの言動に迷わされない人に育つでしょう。 『しゃもじいさん』(かとうまふみ あかね書房) 古くなって捨てられた、しゃもじのしゃもじいさん。歩いていると、欠けたお椀やお皿と出会います。自分たちもまだまだやれるはず! 果たして新天地は見つかるのか! 『アザラシ 流氷の海へ』(廣崎芳次:文 原志利:写真 小峰書店) 怪我や迷子になった子どものアザラシを保護し自然に帰していく施設「オホーツクとっかり」の日常を紹介した写真絵本です。レイアウトなど、もう少し工夫の余地はあると思いますが、こうした活動の意味を伝えるのはとても良いことです。 『おかしなゆき ふしぎなこおり』(片平孝:写真・文 ポプラ社) タイトル通り、変な形の雪や、変な形の氷をスナップしています。それは積もり方の偶然や、溶け方の偶然、積もる場所の必然など様々ですが、とても面白い。 何故そうなったのだろう? どうしたらこうなるのだろう? といった興味と想像が沸き起こってきますよ。 『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』(フィリス・ゲイシャイトー&ミム・グリーン:ぶん デイヴィッド・ウォーカー:え 福本友美子:やく 岩崎書店) 一日何度も「ぎゅっ」と抱きしめる、ウサギの母子の絵本です。愛情確かめ系絵本が近頃多いのは、子育て不安の親が多いからでしょうか。 この作品は、余計な物なしにひたすら「ぎゅっ」ですので、それ以上でもそれ以下でもなしであり、そこがいいはずなのですが、読み手によってはそこに過剰な愛情の必要性を感じてしまうかもしれません。 子どもは、快適に生命維持ができていれば基本的に満足です。かわいがりは、かわいがる方の欲望であることを忘れずに。 『どこにいる? だれがいる? さがせ! 日本の歴史』(青山邦彦 岩崎書店) 現代の家族が、日本の過去に飛んでいく。時代時代で彼等を探しながら、歴史を知っていきます。人物捜しに注意が行って、全体を把握しないともったいないので、もう一度見てくださいね。 輪郭線の明確な青山の資質が良く活かされた作品です。 『いじわる』(せなけいこ:作 すずき出版) 雪だるまを作った男の子が太陽に、溶かすなといったものだから、怒った太陽が溶かしてしまい、それに怒った男の子が物を投げると、それが太陽ではなく雲に当たってしまい、怒った雲は雨を降らせ・・・と、怒りの連鎖を描いています。 『しょうがつが くると』(川崎洋:さく 沢田としき:え 鈴木出版) 川崎の「風が吹くと」と「しょうがつがくるとうんどうかいがはじまる」に沢田が絵をつけた2001年作品の単行本化絵本。二つ入っているため、作品としての弱さはありますが、沢田の絵を、また楽しめることがうれしいです。 『おやすみなさいの おともだち』(ケイト・バンクス:作 ゲオルグ・ハレンスレーベン:絵 肥田美代子:訳 ポプラ社) 母親に読んでもらうのは大好きな絵本。それは冬眠する熊のお話。という風に、この絵本の中の絵本、眠る熊、やがて子どもも眠ってしまう複数の枠構造になっています。しかもこの絵本を実際の子どもが読んでもらうとなると、物語から現実までが繋がっていくわけですね。そのめまいの中で子どもは眠りにつくのかな? 『もののえほん いちにち』(大阪YMCA千里こども図書館:ぶん 大塚いちお:絵 福音館書店) ごはん、おでかけ、おやすみと、赤ちゃんの毎日から重要シーンをクリップした、ごくシンプルな三冊の絵本が入っています。それ以上でもそれ以下でもないので、親が「読み聞かせているんだあ」って思える点がキモかな。 『ミッション100』(かひろだ エマ:作 ポプラ社) 捜し物絵本ですが、掴みを100のミッションという設定にして、まるでカードゲームのRPGのように見せていきます。本作はページを繰るごとに展開していく、本らしい造りですが、場合によってはページを戻るなどがあっても楽しい。 CGは、現実の風景や物をエマ自身のイメージで奔放にアレンジしていて楽しい。元ネタをもっともっと仕入れていけばパワーアップするでしょう。 『パンが いっぱい』(大牟田次郷:写真・文 福音館) パン発祥の地、メソポタミアの様々なパンたちが、人々の暮らしぶりとともに紹介されています。様々な焼き方、形の違いは眺めているだけでも楽しいです。どれもおいしそう。焼きたてのおいしいパンがあれば幸せになれますよねえ。ごはんでもいいけど。そして異文化が好きになる。 『きょうはすてきなドーナツようび』(竹下文子:文 山田詩子:絵 アリス館) おいしいドーナツやさんが怪我をして、お店を閉めます。残されたドーナツたち、これでは浮かばれないと、店の外へ。電車の吊り輪になったり、眼鏡になったり大活躍。ドーナツ屋さんの大宣伝にもなりましたよ。 Copyright(C), 1998〜 |
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