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【児童文学評論】 No.211
 http://www.hico.jp
   1998/01/30創刊

*『なりたて中学生 中級編』(講談社) 2015/11/6
*『今すぐ読みたい!10代のためのYAブックガイド150 』(ポプラ社)2015/11/11
*『ロックなハート: モールランド・ストーリーII』(福音館書店)2015/11/18
各、予約が始まりました。

*毎日新聞十一月の童話を担当します。タイトルは『ハルとカナ』。久しぶりにヨシタケシンスケさんと組むので楽しみです。(ひこ・田中)

◆ぼちぼち便り◆

こんにちは。大阪国際児童文学振興財団の土居安子です。今号からなるべく毎号書かせていただきたいと思います。毎月、15人ほどで児童文学を読む会を行っているので、そこで取り上げた課題本についてご報告したいと思います。課題本は、昨年出版された本を中心に、参加者が読みたい本を選んでいます。

今回の課題本は『ゴールデンドリーム 果てしなき砂漠を越えて』(ロイド・アリグザンダー作 宮下嶺夫訳 評論社 2014年6月、原書はThe Golden Dream of Carlo Chuchio 2007年)。孤児のカルロが宝の地図を手にし、偶然出会ったシーラという女性、道化役のバクシーシュ、知恵者のサラモンと砂漠を旅するというファンタジーです。参加者は旅のおもしろさ、登場人物のユニークさ、カルロの見つけた宝との決着のつけ方への共感と同時に、カルロの心理描写に物足りなさを感じたという意見も出ました。

 その中で私が最も興味深く感じたことは、作品の中での「物語」の描かれようでした。全四章から成る本書では、最初の三章に同一人物ともとれる不思議な人物が登場します。第一章では、古本売りとして、カルロに宝の地図が入った物語の本をプレゼントし、第二章では、バザールで、願いが叶うことによって愛を失う男の物語を結末の寸前まで語り、第三章では、仙人のような存在として洞窟の中で過去と未来を語る壁画を見せ、加えて夢を売る店主としてカルロとシーラに同じ夢を売ってお互いが恋愛感情を持っていることを確信させます。

ここには、物語は人に夢と希望を抱かせ、生きる力となり、時には物語の結末を考えることによって生き方を学び、絵を伴った物語として記録することによって歴史が生まれると同時に、そこから学ぶことができ、未来を予言することによって、未来を自分たちの力で切り拓くことができることを知り、共通の物語を持つことによって愛情が生れるという、豊かな物語の可能性が読み取れます。そして、この不思議な人物が作品の中で重要な位置を占めていることによって、読者は人々の人生における物語の手渡し手、語り手の意義を読み取ることができます。

 この作品は、「ブリデイン物語」を書いたアリグザンダーが書いた最後の作品であり、彼はこの本を書いて「わたしはライフワークをやりとげた」と言い残したそうです(「訳者あとがき」より)。これは、本書にアリグザンダーなりの物語論が書かれているということかなと思いながら読みました。

<大阪国際児童文学振興財団からのお知らせ>
● 第15回国際グリム賞 贈呈式・記念講演会 参加者募集
講 師:第15回国際グリム賞受賞者
ペリー・ノーデルマン 博士(カナダ・ウィニペグ大学名誉教授)
演 題:「わが著『絵本論』を超えて−絵本と絵本研究の過去・現在・未来」
通 訳:松下宏子さん(関西大学ほか非常勤講師)
日 時:平成27年11月21日(土)午後1時30分〜4時30分
会 場:大阪国際交流センター(大阪市天王寺区上本町8)
定 員:150人 (申込先着順)
参加費:無 料
主 催:一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団/一般財団法人 金蘭会/
大阪府立大手前高等学校同窓会 金蘭会
お申込み、詳細は ↓↓
http://www.iiclo.or.jp/07_com-con/01_grimm/index.html#15shiki

● 大阪府立中央図書館 国際児童文学館 展示とイベント
「酒井七馬とその時代」
関西マンガ界の伝説とされ、マンガ家・アニメーター・街頭紙芝居作家と様々な顔を持つ酒井七馬。その生誕110 年を記念し、資料展示と街頭紙芝居実演・講演会を開催します。
◇ 資料展示
期 間:開催中〜12月20日(日) 休館日あり
会 場:大阪府立中央図書館 1階 (東大阪市荒本)
共 催:京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター
協 力:中野晴行・渡辺泰
◇ 街頭紙芝居実演
演 目:『鞍馬小天狗』ほか
出 演:塩崎おとぎ紙芝居博物館 紙芝居師
日 時:平成27年12月12日(土) 午後1時〜1時45分
会 場:大阪府立中央図書館 2階多目的室 (東大阪市荒本)
参加費:無料   申込み:不要
◇ 講演会
演 題:レジェンド 酒井七馬と昭和の大阪まんが
講 師:中野晴行(京都精華大学 客員教授)
日 時:平成27年12月12日(土) 午後2時〜4時
会 場:大阪府立中央図書館 2階大会議室 (東大阪市荒本)
参加費:無料   申込み:事前申込要(11月1日受付開始)
共 催:一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団
協 力:一般社団法人 塩崎おとぎ紙芝居博物館

以下ひこです。
***
『映画になった児童文学』(川端有子・水間千恵・横川寿美子・吉本和宏:著 玉川大学出版部)
 『不思議の国のアリス』、『若草物語』、『小公子』、『ピーター・パン』。四作品とその映画を比較し論じています。原作対映像化の場合、常に原作の優位性が語られますが、ここではそうではなく、映画がどのように企んだかが論じられています。巻末の百ページに及ぶ資料も労作です。

『グッドジョブガールズ』(草野たき ポプラ社)
 あかり、由香、桃子は「悪友」。だからマジな話はしない。
 小学校の思い出作りにと由香がチアダンスのチームを作ろうと言い出してから、その関係は微妙に崩れていく。
 それぞれの事情を明かさないために互いに巧く距離をつかめない三人。
 悪友か親友か、どっちでもない関係か。彼らはどう巣立っていくのか。
 悪友は親友以上に正直な関係を指すと思っている私としては、ここでの「悪友」の扱いに戸惑ってしまうのですが、子どもたちが関係性に悩みつつ、やがてはある調和へと至る物語展開は、読者にとって良き指針となるでしょう。

『おいぼれミック』(バリ・ライ:作 岡本さゆり:訳 あすなろ書房)
 インド系移民のハーヴェイ一家が引っ越した家のお隣さんミックは、人種差別発言を辞さない老人。そういう人とも穏やかに接するつもりの両親ですが、我慢の限界も来ます。
 ハーヴェイはそんなミックのことを徐々に知り、孤独が彼をそんな風にしているのに気付いていく……。
 差別、偏見、そして受け入れていくこと。
 短い物語の中で、ハーヴェイは体験していきます。

『不思議の国のアリス』(R・イングペン:絵 杉田七重:訳 西村書店)
 アリスというとどうしてもテニエルの絵にとらわれてしまうのですが、なにしろそれが素晴らしいからなのですが、イングペンの絵はそれにインスパイアされながら、イングペンのアリスを構築しています。
 テニエルのアリスは洗練され一個のアリスとして屹立していますが、イングペンのそれは、よくいそうなアリスです。従って、挿絵の中の強烈なキャラクターというより、物語と一緒に動き出しそうなアリス。記号化されにくいアリスかな。
 たっぷりと楽しむことが出来ますよ。
 これまでちゃんと読んだことがなかったと告白する杉田の訳文もまた、イングペンの絵に習って、フラットで読みやすいです。古典としての矜持を保ちつつ、現代の物語のようです。

『シェイクスピア ストーリーズ』(アンドリュー・マシューズ:文 アンジェラ・バレット:絵 島式子&島玲子:訳 BL出版)
 「真夏の夜の夢」、「ロミオとジュリエット」、「あらし」など八つの物語が読みやすく収められています。
 これらの物語をベースとした物語はたくさんありますし、人生なんぞを考えるときも、ふと心に引用したりすることもあろうかと思いますので、脚本はどうも苦手って人も、概要くらいは知って置いて損はない。

『ハンナの夢さがし』(ベッティーナ・オプレヒト:作 若松宣子:訳 偕成社)
 ハンナの姉のヴァレリーは美人で、アイドルを目指しています。料理が得意ですが姉にライバル心とコンプレックスを持っているハンナはどちらが先にテレビに出るかを競います。ヴァレリーは母親と一緒にテレビに出ることに決まりましたが、それは悲惨な結果に。
妹の悔しさがよく出ている物語です。
 子どもだけではなく親の痛みも含めて描いていますので、リアルさが深い作品に仕上がっています。

『空はなに色』(濱野京子:作 小塚類子:絵 そうえん社)
 規則の規で規子。それかあらぬか、規子はまじめ一方の小学生女子。別にそれで困っているわけでもない。そこに従姉妹で中学生の美蘭が登場。規子の家にしばらく逗留する。彼女は、規子と正反対の性格で、やりたいことはなんでもするし、規子から見れば「不良」なわけだけれど、規子の友達たちは美蘭にあこがれ、ファンになっていく。なんで?
 要するに規子は融通が利かないのだが、それはそれで別に悪いことでもない。ともすれば「大人」は子どもの方が自由で奔放だと思いがちですが、そんなことはありません。寄って立つ場や、確固たる信念や、「生き様」なんぞをまだ確保していない子どもは案外「大人」以上にがちがちの価値観で生きています。だってそうしないと生きづらいですもの。
 規子の融通の効かなさも、それ故かもしれません。友達たちが美蘭にあこがれるのは、友達たちにとって彼女は他人であるからで、規子が美蘭に近寄れないのは、親戚であることにこだわっているからでしょう。
 そこで、その軛から解き放つきっかけとして、国会前デモとの遭遇、そしてデモに参加していた父親という要素が持ち込まれます。規子は自分の中の父親イメージから逸脱している父親を目の当たりにすることで、自身の規範の箍を外すのです。
 どこか七十年代前半っぽい香りがする小塚の絵が、そうした規範外し的世界に上手く寄り添っています。

『イスタンブールで猫さがし』(新藤悦子:作 丹地陽子:絵 ポプラ社)
 左右、緑と青の目を持つ、トルコのワン町にいるというワン猫。
 学校生活にも行き詰まっていた愛は、ワン猫を見たいと父親の赴任先トルコはイスタンブールへとやってきます。
 物語は、愛を異国へと移動させることで、いったんリセットさせてくれます。一方、舞台がイスタンブールになることで、読者を異文化へと誘います。
 愛は、ワン猫探しに訪れるわけですが、そこで、ワン猫が奪い去られた出来事に遭遇し、今度は具体的な一匹の猫、ミライという名の猫探しへと目的が変わっていきます。この辺りの展開が上手いですね。

『ニコラといたずら天使』(キャロライン・アンダーソン:著 田中奈津子:訳 講談社)
 子犬のジュンバクはなんでもかんじゃうし、誰も物でも食べちゃうし、破壊するし、かなり困った子です。でもニコラは大好き。ジュンバクの評価を上げようと、老人ホーム慰問を思いつく。
 最初はジュンバクのための慰問だったのですが、やがてニコラはそこで暮らす人々へと目を向けていくのです。
 軽い読み物仕立てで、社会問題も描かれていて、なかなかなものです。

『だいじょうぶカバくん』(ダニエル・ネスケンス:作 ルシアーノ・ロサノ:絵 宇野和美:訳 講談社)
 動物園のカバくん。見学にきた女の子に檻を開けてもらって、外の世界を楽しみます。
だれもカバくんが町中にいるのを気にしないのが、なんだかいいなあ。
スペインの童話をご賞味あれ。

『インドネシア バリの踊り子マン・アユ 世界のともだち』(石川梵 偕成社)
 「世界のともだち」第三期です。
 お父さんは自然保護区で仕事をしていて、お母さんは土産物屋を営んでいます。中学生の姉はスマートフォンに夢中。マン・アユは踊りを習っていて、ショーでも踊ります。
 家庭での日常。学校の様子。そして踊りの練習と、彼女の日々が伝わってきます。
 バリでは、家の食事はそれぞれが好きな時に食べるのか。知らなかった。
 私たちとは別の暮らしが近しいものとして感じられること。それがこのシリーズの素敵さ。

『さくらいろのりゅう』(町田尚子 アリス館)
 小石のように役立たずと村ではコイシと呼ばれている少女は、いずみで青い龍に出会います。
 コイシが集めた桜色の貝を龍にあげると、お礼に龍は青い鱗を差し出します。
 それを知った村人たちは、龍の鱗欲しさに・・・・・・。
 怪談系の仕事が多い町田ですが、恐怖より、美しい色使いで穏やかな、こうした作品の方が似合っている。

『ともだちのいす』(内田麟太郎:作 おくはらゆめ:絵 くもん出版)
 ともだちがほしいこぶたのトンちゃんが、ともだちのいすを作り、浜辺で自分の横に置く。
 するとトラがやってきて……。
 ともだちって、互いにとってなんだろなという辺りを柔らかく伝えています。
 おくはらゆめの絵が暖かい。

『アブナイおふろやさん』(山本孝 ほるぷ出版)
 「山本孝」全開の作品です。「アブナイ」シリーズ第二弾(シリーズですよね。山本さん)!
 ヒデ、コウ、マル、ノブ、タクの戦隊五人組が出撃します。戦隊物の王道通りに女子が一人でも入っていれば暴走しないのですが、男子ばっかなので、あれですよ。
 馬鹿だなあとか、アホやなあとか、たわけじゃのうとかいいながら楽しんでくださいませ。

『夜の神社の森のなか 妖怪録』(大野隆介 ロクリン社)
 神社で遊ぶ子どもたち。一人が妙な物(天狗のうちわ)を見つけて持ち帰る。逢魔が時、遊びに行こうと神社を通ると、それを返してくれと妖怪たちが現れる。
 という不思議の物語ですが、鉛筆で緊密に描かれた画は、怖いと同時に人と温かみもあって、不思議な手触り感です。
 素敵なデビュー。

『もっと知りたい アサガオ』(赤木かん子:作 藤井英美:写真 新樹社)
 何かに興味を抱き、それを調べ、観察し、理解し、また疑問がわき、調べ……。この連鎖を放棄しない限り人は結構幸せになれる。
 ここでは、そうしたときめきを抱かせるためにダイナミックに言葉と写真が提示される。寄せて引いて、迫って、どこを見るか、どこを見せるか。
 とても楽しい。と同時にアサガオが愛おしくなる。
 アサガオのことを知らなくても生きてはいけるが、こうしてアサガオに抱いた、「興味と探求」という欲望は必要です。

『チャーちゃん』(保坂和志:作 小沢さかえ:絵 福音館書店)
 死んだ猫、チャーちゃんの語りです。ここで死は後ろ向きに描かれてはいません。チャーちゃんは今でも楽しく踊っています。
 死は生の延長にあり、地続きで、親しき者への愛もまたそのまま存在します。そのことを保坂はチャーちゃんの言葉で表現していきます。

『ちゃいろいつつみ紙のはなし』(アリソン・アトリー:作 松野正子:訳 殿内真帆:絵 福音館書店)
 茶色い紙は、おばあちゃんへのプレゼントを包むのに使われてとっても幸せ。今度はおばあちゃんからのプレゼントを包んで孫に家へ。
 その後、茶色い紙の運命は?
 紙の視点から描いた暖かなお話し。
 殿内の絵が、アトリーの世界を素敵な本に仕上げています。

『稲と日本人』(甲斐信枝:作 佐藤洋一郎:監修 福音館書店)
 稲が伝播し日本で広がり、何度も飢饉があり、様々な稲が作られていき……。
二千数百年にわたる稲から日本人の歴史を語っていく絵本。
存在感のある絵本と言ったらいいのか、絵も文書も密度が濃くて入り込んでしまいます。
ロングセラーになって欲しい一冊。

『でんきのビリビリ』(こしだミカ そうえん社)
家中には電化製品が一杯。絵本はそれを見逃すまいとするかのように描いていきます。やがて家を出て町に。
いや、実に多い。
うんざりするほど多い。
 電気について考えるしかない。

『おにつばとうさん』(沼野正子 福音館)
 今昔を素材にした絵本です。信心深いとうさんが仕事の帰り、鬼につかまりますが、線香のにおいがするので、難を逃れます。しかしそのときつばをはきかけられて、とうさんの姿は見えなくなってしまいます。とうさんはどうなるのか?
 躍動感のある絵は、素朴でユーモラスな世界に仕立てています。

『さあ、しゃしんを とりますよ』(ナンシー・ウィラード:作 トミー・デ・パオラ:絵 光村教育図書)
 小さな町の靴屋さん夫婦が、結婚記念日に写真を撮ろうとします。カメラの前に並ぶけれど、服をどうしよう、何を持って写ろう。なかなかシャッターが切れません。はてさて、どうなりますことやら。
 という楽しいお話しに、トミー・デ・パオラの絵。
 愉快な絵本のできあがり。
 いいぞ。

『いちばにいくファルガさん』(チトラ・サウンダー:文 カニカ・ナイル:絵 長谷川義史:訳 光村教育図書)
 ファルガさんシリーズ2作目。
 ファルガさん、収穫したトマトやタマネギやたまごを荷車につんで市場へ出かけます。ところが、その途次でたまごにひびが入ってしまいます。困った困った、さあどうしましょう。前向きファルガさんが考えついたことは……?
 軽めのユーモアが心をくすぐってくれます。
 カニカ・ナイルの絵がほんわかいいんだな。

『ハロウィンの星めぐり』(ウォリター・デ・ラ・メア:詩 カロリーナ・ラベイ:絵 海後礼子:訳 岩崎書店)
 デ・ラ・メアの詩をカロリーナ・ラベイが絵本に仕立てていきます。
ハローウィーンの夜、魔女たちがやってきて去って行く。
ラベイは、思い思いの扮装をして家々を回って行く子どもたちの風景と、初飛行をする新米魔女の物語をクロスさせながら、デ・ラ・メアの詩に独自の想像を添えていきます。そのいたずら心に満ちた展開の楽しさ。
絵本としての世界を見事に構築しています。

『たからものみつけた!』(くすおきしげのり:作 重森千佳:絵 あかつき)
 リスは冬支度に、木の実をせっせと集めます。それを地面のあちこちに埋めるのですが、どこに埋めたかわからなくなった! 森の動物たちが手助けをしてくれますが、ひょっとして取られてしまうのではないかとリスは疑心暗鬼。でも大丈夫。
 重森の表情豊かな絵が、普通のストーリーを絵本にまで引き上げています。

『ノックノック みらいをひらくドア』(ダニエル・ビーティ:文 ブライアン・コリアー:絵 さくまゆみこ:訳 光村教育図書)
 パパとぼくのノックノックゲーム。パパがノックして部屋に入ってくる。寝たふりをしたぼくはパパに飛びつく。
 でも、ある日からパパはいなくなった。
 ぼくはパパに手紙を書く。パパは帰ってこない。
時は流れぼくは大きくなり・・・。
 黒人差別の中で生きてきた家族の物語。
 ブライアン・コリアーのコラージュを使った絵が訴えかけます。

『地球のひみつをさぐる』(クリスチアーナ・ドリオン:文 ビヴァリー・ヤング:絵 福本友美子:訳 ひさかたチャイルド)
 ビッグバンから始まって、地球がどう生成したか、気候、大地と海、食物連鎖、地球を丸ごと考える絵本です。興味を持ってもらうために、軽めの仕掛けもところどころに。

『エドワードとうま』(アン・ランド:文 オーレ・エクセル:絵 谷川俊太郎:訳 岩波書店)
 エドワードはマンション暮らしです。だからいくら馬好きでも、馬は飼えません。でも飼いたい気持ちは抑えられません。
 そんなときスミティって馬が町に住んでいるという情報が。スミティって?
 オーレ・エクセルの絵はシンプルかつ表情豊かで、画面にゴテゴテしていません。そのくせ画面のそこここに遊びがあって見ていて楽しいです。

『どうろこうじのくるま』(こわせもりやす 偕成社)
 はたらくくるま絵本です。
 とてもリアルに描きつつ、冷たさがないのがいいですね。温度があるのは、たとえば人物を見ればわかります。その仕草ひとつひとつが活き活きしていて、しっかり描かれている。つまり、こわせという作家の視線がちゃんと感じられるからです。

『くうきにんげん』(綾辻行人:作 牧野千穂:絵 岩崎書店)
 くうきにんげんですから、気配も存在もわかりません。でもいるんだなこれが。
 でも、やっぱりくうきにんげんですから、どうしようもありません。
 いるようでいないことより、いないようでいるほうが怖い。
 ああ、怖い。

『どうぶつえんはおおさわぎ』(二宮由紀子:文 あべ弘士:絵 文研出版)
 動物園で、ある日突然濁点がなくなったら?
 って、そういうことを考える二宮はやはり素晴らしい。
 ゴリラはコリラに。ゾウはゾウに。カバはカハになるんだよ。
 困るでしょ、これ。
 が、なにが困るかとふと考えると、それはそれでよくわからない。でも、困るのだ。
 ところで、濁点はどこへいったかというと、隣にあるすいぞくかんへ。ということは……。

『あなに』(長谷川集平 エルくらぶ)
 ぼくは、転校生のふくしまくんとキャッチボールをしている。
 そこに家族や友達が通りかかり色んな声を掛けていく。
 ぼくは、ふくしまくんとキャッチボールを続ける。
 何気ない日常のようだけど、そこには暖かな緊張感があります。
 そして、「あな」にボールが落ちる。
 谷川俊太郎+和田誠の『あな』へのオマージュでもありますが、それは気にしなくても、「ふくしまくん」とはっきりとネーミングされていますので、そこから私たちは様々な思いを投影できるでしょう。

『てっぺんねこ』(C・ロジャー・メイダー:作 灰島かり:訳 ほるぷ出版)
 大切に飼われるホワイトソックスのねこさん。
 ベランダから出て、屋根のてっぺんに登り、ここが自分の居場所だとご満悦。鳥を捕まえようとジャンプしたのはいいけれど見事失敗で落下。幸い無事ではあったけれど、プライドはもうズタズタ。
 猫を飼っている人にはおなじみでしょうけれど、猫って失敗すると何事もなかったかのように振る舞います。
 さて、このプライドを回復するためには?
 猫の表情と仕草が最高。

『おねえちゃんにあった夜』(シェフ・アールツ:文 マリット・テルンクヴィスト:絵 長山さき:訳 徳間書店)
 ぼくが生まれる前になくなったおねえちゃん。ぼくは知らない。
でも、おねえちゃんの声が聞こえた。
夜、ぼくはおねえちゃんに誘われて、自転車で散歩に出かける。
 ぼくの中で育っているおねえちゃんへの思いが豊かに広がっていく言葉たち。
マリット・テルンクヴィストによる心の中を反映した絵が素晴らしい。

『オオサンショウウオみつけたよ』(にしかわかんと:ぶん あおきあさみ:え 福音館書店)
 オオサンショウウオの生態を誕生から繁殖まで丁寧に描いています。少女とその家族を背景に描き、時間の流れを上手く現しています。
 あおきあさみのパステル画は、自然の営みと人の日常生活を隔てることなく溶け込ませ、命とその成長を見守るかのようです。

『はじめてのこうさく』(まるばやしさわこ ポプラ社)
 タイトル通りの本です。
 紙をちぎり、それを使って絵を仕上げる。今度は紙を丸めて工作。次に紙を切って……。徐々に難易度を上げていきます。
 まるでおもちゃばこのような、たくさんの製作見本とその製作過程が、見ていて楽しい一冊です。

『しろくまくん どこにいく?』(ソフィー・ヘン:作・絵 二宮由紀子:訳 徳間書店)
 子どものしろくまくんと暮らすぼく。最初はしろくまくんの方が小さかったけれど、だんだん大きくなって、大きくなりすぎて。しろくまくんが安心して暮らせる場所を探しましょう。
 子ども時代との別れを描いているとも言えますが、それが明るい結末に至るのがよろしいなあ。

『くだものと木の実いっぱい絵本』(ほりかわりまこ:作 三輪正幸:監修 あすなろ書房)
 植物大好きほりかわりまこが、果樹園芸学専門の三輪正幸監修の元に、気合いを入れて作った絵本です。
 果樹の解説から、収穫した実のいただき方まで丁寧に、わかりやすく描いてあります。
 ほりかわさんは、最近の陶芸も素敵で、フル回転で色んなジャンルで表現して行っていて、目が離せません。

『おさるのれっしゃ』(牛窪良太 アリス館)
 おさるのれっしゃですから、チケットはバナナって発想がストレートでいいですね。
 車掌のおさるさんは、次から次へと車両を移動するのですが、色んな動物がバナナを握って持っております。
 肉食動物がバナナを握っている図はなかなかなものですよ。
 色鉛筆のタッチをお楽しみくださいな。

『アリのくらしに大接近』(丸山宗利:文 島田拓・小松貴:写真 あかね書房)
 農業しているアリから、肉食アリまで、その営みを写真で解説。
 別の種のアリの幼虫を奪って奴隷にするとか、アリに気付かれないようにしてその洋宇宙を食べるアブとか、生き残り戦略は色々で興味深いです。
写真を担当した島田さんの『アリとくらすむし』(ポプラ社)も併せてどうぞ。