218

       
【児童文学評論】 No.218
 http://www.hico.jp
   1998/01/30創刊

◆ぼちぼち便り◆ *作品の結末まで書かれています。
土居 安子

 5月の読書会の課題本は『テンプル・グランディン 自閉症と生きる』(サイ・モンゴメリー/著 汐文社 2015年2月)を取り上げました。自閉症のテンプル・グランディンが、父親や学校などの無理解や自らのこだわりなどから苦しみながらも、絵で考えるという思考方法を利用して家畜が苦しまずに死ねるように、さまざまな装置を開発し、世界的に評価されるようになるまでの半生が紹介されたノンフィクションです。

 読書会のメンバーからは、グランディンの生き方に引き込まれた、自閉症について多くのことを知ることができた、自閉症の当事者の思いや感じ方がわかるように書かれている点がよかった、母親の苦悩が読み取れた、絵で物事を考えるグランディンだからこそできた発明に納得させられた、勉強は必要があればするものだと思った、日本の教育のありようについても考えさせられた、世界が広がった、世界の見方が変わったなどの感想が出ました。また、本の中にあるグランディンの胴体が大きい動物の絵からグランディンなりの動物のとらえ方をしているという意見が出ました。

 最近、子どもの本にはノンフィクションに興味深い作品が多く出版されています。研究者自らが研究の動機、研究過程、課題などを子どもにわかりやすく紹介した本も多く、知識を得るのみでなく、研究のおもしろさや、研究の将来的な可能性を知ることができる点が最近の傾向として挙げられます。

その中で伝記作品は、安易な偉人伝と、あまり知られていないながらさまざまな分野の興味深い人物を紹介する伝記に二分されているように思われます。『テンプル・グランディン 自閉症と生きる』は、偉人伝ではなく、一人の人間としての苦しみと達成されたことの両方がバランスよく描かれています。また、子ども時代からのテンプルの様子が時系列で描かれながらも、随所に、テンプルが達成したこと、大人になったテンプルが振り返って考えたことや、自閉症についての解説などが挟み込まれており、読者はテンプルに同化し、共感して読むというよりは、テンプルを客観的に見る視点を持ち、その違いを意識し、理解しようとするように書かれている点がとても興味深いと思いました。テンプルの大人向けの自伝『我、自閉症に生まれて』(テンプル・グランディン&マーガレット・M・スカリアノ著 カニングハム・久子訳 学習研究社 1994年3月)を読むと、自閉症であるテンプルにとっての「安らぎ」とは何かが全体を貫く一つのテーマになっており、それを追求することが研究につながっていることがより明確になっています。一方、『テンプル・グランディン 自閉症と生きる』では、テンプルの周囲の人たちへの丹念な取材がテンプル像に厚みを持たせています。

この本を読んだとき、オリヴァー・サックスの『火星の人類学者』(吉田利子/訳 早川書房 1997年3月)の表題作を思い出しましたが、グランディンのことはこの本がきっかけで人に知られるようになったとのこと(ウィキペディア)。この本を読んでみると、また、異なったテンプル像を知ることができ、興味がわきました。

読書会でも、参加者から『モッキンバード』(キャスリン・アースキン/著 ニキリンコ/訳 明石書店 2013年1月)や『自閉症のぼくが跳びはねる理由』(東田直樹/著 エスコアール 2007年2月)などの本が紹介され、絵でものを考える人たちがマジョリティの社会だったら今の社会とは全く違う社会だろうということを話し合いました。常識を常識と考えない視点を持ち続けたいと改めて感じさせてくれた本でした。

<大阪国際児童文学振興財団からのお知らせ>
● エミリー・グラヴェット講演会の報告集を発行しました
本年2月に開催しました、イギリスの絵本作家エミリー・グラヴェット講演会「−絵に生きる」(主催:国立国会図書館 国際子ども図書館、大阪府立中央図書館、一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団)の報告集を発行しました。グラヴェットさんの講演、質疑応答、子ども向けワークショップの様子などを記録しています。実費で販売いたします。発行:当財団 2016年3月 A4判48頁 1000円+税

●「世界のおいしい絵本展」を開催します
「食」をテーマに、世界各国の絵本約100点を展示、一部は手にとってみることができます。クラフトやメッセージコーナーもあります。
 会 場 : EXPO'70パビリオン 1階ホワイエ (吹田市 万博記念公園内)
 期 間 : 7月23日(土)〜8月7日(日) 10:00〜17:00  水曜休館
<イベント>
 ◇ おはなし会:7月23日(土)13:00〜、15:00〜 当日参加自由
 ◇ 絵本づくりワークショップ:7月30日(土)13:00〜16:00 ※ 申込受付中

以下、ひこです。

『桜の子』(陣崎草子:作 萩岩睦美)
 香衣の幼なじみ糸子は教室でいつも絵を描いていて、クラスメイトは彼女の存在を無視しているか、馬鹿にするかしかしない。
 香衣は、糸子を助けたいけど何も言えない。
 この町では昔、人身御供になった少女がいたという話が伝わっている。糸子が描く少女の姿はまるでその子のよう。彼女にはその少女が見えているの?
 やがて香衣は糸子が何故あまりしゃベらないか、描くことに夢中になっているかを知る。
 子どもの心が抱えさせられてしまう痛みから守るかのような桜色に満ちた秀作。
物語と絵と装幀が美しくまとまっています。

『小やぎのかんむり』(市川朔久子:作 講談社)
 中三の夏芽は、サマーキャンプに田舎のお寺を選ぶ。が、応募者は彼女一人……。そして、夏芽の長くて短い夏休みが始まる。
 そこへ迷い込んできたのは幼い雷太。母親が置いて行ったという。夏芽は世話をしようとするけれど、雷太はなかなか心を開かない。やがてそのわけもわかってきた頃、夏芽は自分自身が抱えている問題を向き合わなければと思い始める。
 大人への不信だけを書くのではなく、かといって大人への信頼だけを書くのではなく、次の一歩へと進むための物語。
 ぜひ、可愛いタイトルと可愛い表紙のイメージを保持したまま読み進めてください。
 一作ごと、確実に何かを探り当てている市川は、今作でも子どもの本の枠を拡げました。

『ちっちゃいさん』(イソール:作 宇野和美:訳 講談社)
 家族に新しい命がやってくる。ただそれだけの、そして絵本ではよくある題材。ただ言えるのは、こんなに真っ直ぐで、正直で、あけすけで、暖かくて、おかしくて、丸ごと愛おしい表現の絵本はあんまりない。ここには大人や親にこびて評価されようなんて思惑は欠片もないし、赤ん坊を不必要に賛美するまやかしもない。突然そこに現れた、そいつを、そいつのままに描いているだけ。
 命の塊みたいな絵本。
 イソールの目は本当に確かです。

『イタリア パスタの島のジャンパオロ 世界のともだち31』(山口規子 偕成社)
 例えばイタリアに旅行する前に読んでおくのもいいです。たとえジャンパオロが暮らすサルデーニャ島を訪れなくとも、彼を知っているだけで、イタリアを眺める観光の視線が確実に変わります。このシリーズ、豊かな海外旅行をするためのガイドブックでもある。

『そっくりさん どこにいるかわかるかな?』(ブリッタ・テッケントラップ:作 木坂涼:訳 ポプラ社)
 同じようなパターンの同じ動物が画面にたくさん描かれている、探し絵本です。なめてかかっていると大変です。ほんのちょっとの違いはなかなか難しい。しかも条件は全く同じ絵ではなく、ゆるいこともある。同じピンクの首輪をしている猫でも向きが逆だとか。
案外これが見つけにくい。目の前にいるのに探せない。
注意力が身につくかどうかはわかりませんが、自分の注意力が落ちているのはわかります。

『やってみよう! あいうえお』(スギヤマカナヨ くもん出版)
 読み書きではなく口を大きく開けて、「あ」から「ん」まで、色々声に出してみよう絵本です。
 一人でやっていると、アホみたいに見えますが、二人なら、みんななら、楽しい。
 今、みんなあんまり声を出さない。出さないから出すとき調整が出来ないで大きな声になる。
 こうして出しておくと、加減がわかります。

『アフリカの民話 しんぞうとひげ』(しまおかゆみこ:再話 モハメッド・チャリンダ:絵 ポプラ社)
 しんぞうはお腹が減ってたまらないけど、空を飛ぶ鳥が捕れない。
ひげはお腹が減ってたまらないけど、空を飛ぶ鳥が捕れない。
二人(?)が出会う。ひげはしんぞうを食べようと追いかける。逃げるしんぞうは通りかかった人間の男に隠してくれと頼み込む。男は心臓を口の中に入れ、心臓は胸の左側に隠れる。
追いかけてきたひげは男に自分も中に入りたいと言うが、心臓を食べてお腹はもういっぱい。仕方なくひげは、心臓が出てくるまで男の口に側で待つことに。
という愉快なお話。
ティンガティンガ・アーティストのチャリンダの絵も見物です。

『うふふ』(二宮由紀子・文 おきぬちゃん・絵 エルくらぶ)
 おきぬちゃんの絵に触発されて、二宮が書いた小さな物語や、ささやきや、つぶやきや、主張。みんな、みんな「うふふ」ですよ。
 絵が作家をどう触発し、文章が生まれるかをお楽しみください。

『いろいろおすし』(山岡ひかる くもん出版)
 おいしい絵本を描かせるならこの人。
 今回はユーモア絵本です。
 回転寿司で、鮭がまるまま流れてきたと思ったら、クマのお客さん。きゅうり一本丸ままの巻き寿司が流れてきたら、カッパのお客さんという具合。
 いつも通り、いい色合いでできた絵本です。

『いちにちパンダ』(大塚健太:さく くさかみなこ:え 小学館)
 上方落語ではおなじみの『動物園』のようなお話しです。ただし落語では人間がライオンになるのですが、こちらはライオンが、人気のパンダに扮します。アホらしくも切ないところが見どころ読みどころ。インターナショナルに面白い話ですので、どこでも使えますよ。
 くさかの絵の力の抜け具合がいいですね。

『ちかてつのぎんちゃん』(鎌田歩 小学館)
 ぎんちゃんは地下鉄の車両なのですが、暗いところ、トンネルや地下が大の苦手です。早く明かりの灯った駅に着きたい。
 ぎんちゃんはそれを克服できるのか?
 電車大好きな子どもにとって、ぎんちゃんは寄り添いやすいキャラクター。

『すききらい、とんでいけ! もぐもぐマシーン』(イローナ・ラメルティンク:文 リュシー・ジョルジェ:絵 野坂悦子:訳 西村書店)
 レナは好き嫌いが激しいです。食べ物を床に落として犬に食べさせてしまうほど。もう、食べないためならなんでもします。そんな彼女が、もぐもぐマシーンに入ると、それは嫌いな物も食べさせてくれる。レナは食べず嫌いだっただけなんです。
さてそれから、おじさんがもっとおもしろい食べ方をおしえてくれますよ。
嫌いな食べ物は大人になっても頑として嫌いな人は多いですよね。そんなもの食べなくても大人になったと自慢されたり。それはそれでいいと思いますが、できれば色々食べた方が、何かと楽しいですよ。

『とびきりおいしいデザート』(エミリー・ジェンキンス:文 ソフィー・ブラッコール:絵 横山和江:訳 あすなろ書房)
 ブラックベリーと生クリームと砂糖で作るお菓子、三百年の物語。生クリームの泡立て方、お菓子の保存の仕方は変われども、作り方も、幸せな味も同じ。
 ジェンキンスはそれを使って、人の歴史を語っていきます。最後は少年とお父さんが作って、人種も性別も年齢も様々な友だちで食後にいただきます。
ブラッコールの絵は、端々の仕草まで気持ち良く目が届いていて、淡い色使いも素敵で、絵本の喜びに溢れています。

『みんなのくまくまパン』(西村敏雄 あかね書房)
 クマとシロクマコンビのパン屋さんシリーズ二作目です。
 今回はカバの王様に頼まれて王子様が喜ぶパンを焼くことに。でも、おいしいだけのパンじゃなく、王子様が食べたいのは、みんなと一緒に食べるパン。
 ふんわか暖かい感は、今作でも健在です。

『ぼくのおばあちゃんはキックボクサー』(ねじめ正一:作 山村浩二:絵 くもん出版)
 おばあちゃんは引退試合に向けて、練習中。彼女、おばあちゃんキックボクシングのチャンピオンなのだ。コーチはおじいちゃん。二人はいつも一緒だ。
 ねじめの言葉のリズムと一緒にはじける山村の絵がすごいぞ。ぜひ見て欲しい。

『ライオンのこども』(ガブリエラ・シュテープラー:写真・文 たかはしふみこ:訳 徳間書店)
 「サバンナを生きる」シリーズ、ゾウに続く二作目です。
 シュテープラーの写真は、写真絵本的に撮られた物ではなく、記録、ドキュメントの要素が強く、そこの加えられた文章と共に、ライオンの生態を生々しく差し出します。「かわいい」ショットはありません。そこが魅力です。

『ガスこうじょう ききいっぱつ』(シゲリ カツヒコ:作 ポプラ社)
 ガスの生産工場には次々と材料が送り込まれ、仕分け作業からガス発生まで、迫力ある画面で、現場生産者たちの命をかけた必死な姿が描かれます。って、ガスこうっじょうって何?
 というお話しです。はい。

『ぬけすずめ』(桃月庵白酒:文 nakaban:絵 ばばけんいち:編 あかね書房)
 宿代を払わない名人が代金代わりに描き残した絵の中の雀が画面から飛びだしてという、おなじみの落語の絵本です。
 ドットを駆使した。スーパーリアルの反対側に立つ、nakabanの画が何より面白い。

『北をめざして 動物たちの大旅行』(ニック・ドーソン:さく パトリック・ベンソン:え いだてつじ:やく 福音館書店)
 極寒の北極には冬、ホッキョクグマやホッキョクギツネなどどくわずかしか生息できません。が、春になると様々な生き物たちが食べ物を求めて北上してきます。
 その大移動を描いたのがこの絵本。地球規模で命が巡っていること、生きようとする命の姿を実感できます。

『ラ・フォンテーヌ寓話』(ラ・フォンテーヌ:作 ブーテ・ド・モンヴェル:絵 大澤千加:訳 ロクリン社)
 ラ・フォンテーヌの寓話はよく知られています。というか、寓話のなんたるかをラ・フォンテーヌで知ったのかもしれません。
この本は、ブーテ・ド・モンヴェルを得て、本当に愛らしく出来ています。なんて言うか、本っていいなあ。持っていたいなあと思わせる佇まいです。
本は中身が大事だと思う人もいるでしょうし、私自身もテキスト主義ですが、やっぱり本っていいなと、この本を手に取って眺めていると思います。本棚に置いておきたい。

『オランダ 世界のともだち』(浅田政志 偕成社)
 素敵なシリーズのオランダ編。
 サシャ九歳の日常を紹介しています。教室には信号機があって、赤だとおしゃべり禁止。黄色だと質問OK。緑は話していい。なるほど。
 朝はみんなが好きなものを食べる。へえ、そうなんだ。
クリスマスじゃなく、十二月六日のシクタクラースの日にプレゼントをもらうのか。
五人家族に自転車は六台。さすが、自転車王国。ん? 一台多くないか?
と色々楽しく眺めていると、ほんの少しオランダに近づけたような。

『ひみつのいもうと』(アストリッド・リンドグレーン:文 ハンス・アーノルド:絵 石井登志子:訳 岩波書店)
 バーブロは、自分には秘密の妹がいると思っています。名前はイルヴァ・リ−。
 バーブロの馬はギンノアシ。妹の馬はキンノアシ。
二人は素敵な冒険をします。
一人っ子が思い描く空想の世界と、そこから舞い戻ってきたときの幸せな結末。
リンドグレーンは、子どもの喜びがよくわかっていますね。
ハンス・アーノルドはリンドグレーンの想像力によく寄り添って、幻想的な画面を作り上げています。

『はしれ! こうそくどうろ』(モリナガ・ヨウ:作 ほるぷ出版)
 高速道路に入り、料金所を通り、走り続け、出て行くまでを、モリナガは描いていって、それが、一枚の絵として長〜く続いています。楽しい。
 で、裏ページはこれまた、モリナガらしい細かさで料金所やハイウエイパトロールカーや、工事現場を細かく描いています。
 ドライブを楽しむ目線と、その現場を支える目線の両方が楽しめます。

『ねこがおおきくなりすぎた』(ハンス・トラクスター:作・絵 杉山香織:訳 徳間書店)
 子育ても終えた夫婦。なんだか家が大きすぎる。部屋も大きすぎる。さみしい。
 そこで猫を飼うことに。
 六匹の中で、あんまり小さいので引き取り手のなかった子猫をもらって帰ります。
 小さくて可愛い子猫。友達も一杯やってきて、子猫を遊びます。名付けてチビ。
 ところが大人の猫になると、もう誰も感心をしめさず。でもチビはどんどん大きくなる。ライオン並になって、行政まで乗り出すしまつ。
 家から出さない約束で、チビは動物園におくられることを免れますが、外に出たい。だって、雌猫が自分に関心を示しているから。
 そして……。
 こんな素敵なストーリーを書いてみたかった。
 いいですよ。

『ウミガメものがたり』(鈴木まもる:作・絵 童心社)
 ウミガメの産卵から、孵化、海での厳しいサバイバル。
 それはドキュメンタリーなどで知られていることが多いのですが、人の手による画が動画以上に訴えかけてくるのがわかる絵本です。
 擬人化ではなく、それでも生き物の表情がこぼれ出てしまう鈴木の画。ウミガメと距離をおいて眺めるのではなく、ウミガメと旅をしている気分です。

『くいしんぼうシマウマ』(ムウェニエ・ハディシ:文 アドリエンヌ・ケナウェイ:絵 草山万兎:訳 西村書店)
 昔、動物たちに模様はなかった。それがある日、色んな模様の毛皮のある洞窟を見つけ、みんな自分の好きな衣装を縫い始めた。ところがシマウマは食べるのに忙しく、なかなか洞窟にたどりつかない。
 なぜシマウマがシマになったかが非常によくわかる絵本であります。なるほど、そうだったか!
 ケナウェイの勢いのある輪郭線と色使いも楽しいですね。

『わたしのこねこ』(澤口たまみ:文 あずみ虫:絵 福音館書店)
 黒い子ネコがやってくる。私の子ネコ。先に住んでいるレオと仲良くやれるかな?
 私とクロの気持ちが、少しずつ少しずつ近づいていく様子を、丁寧に描いています。
 大きなドラマはありませんが、じわ〜っときます。
 あずみ虫のアルミ板カッティング手法による画も温かみがあっていいですねえ。

『へんてこたまご』(エミリー・グラヴェット:さく 福本友美子:やく フレーベル館)
 わ〜い。グラヴェットだ。
 みんなが卵の孵化を持っています。カモくんだって自分の卵を孵化させたい。というので、大きな大きな卵を見つけてきました。
 他の鳥たちは馬鹿にしますけど。
 次々と卵が割れてヒナが生まれてきます。
 ここ、ちょっとした仕掛けになっていて、そのちょっとがセンス良くて楽しい。
 そして、ついにカモくんの卵も……。
 無茶苦茶凝っている絵本ではなく、誰しもクスリと笑える楽しさ。
 絵の素敵さは言うまでもなし。

『ランドルフ・コールデコット』(レナード・S・マーカス:著 灰島かり:訳 BL出版)
 コールデコットの生涯を語った伝記絵本です。誕生から死までを時代背景を押さえつつ簡潔、的確に描いてあって、コールデコットに興味がある人の入門書にお薦めです。知っているよって人にとっても、絵本以前の様々な挿絵など楽しいです。
 絵本の機能、表現方法を格段に引き上げ、今日の絵本像を作り上げたコールデコットを、改めてすごいなと思う。


〈一言映画評〉 三辺律子 *公開順です
 すみません(←またか)。今月は映画評のみになってしまいました。が、6月公開の映画は面白いものがたくさんありますので、皆様ぜひ映画館へ足をお運び下さいませ!


『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
 アポなし突撃取材で、アメリカの暗部を暴いてきたムーアの最新作。ムーアが「侵略者」となってヨーロッパへ出かけ、その国のよいところをアメリカへ「略奪」するというストーリー。イタリアの休暇制度(8週間! 有給!)、フィンランドの教育(全国共通学力テストはないのに、高学力)、スロベニアの大学(学費無料!)、ドイツの戦争責任教育、ノルウェーの刑務所(死刑制度はなく、超低再犯率)などなど。アメリカじゃなくて、日本のことを言われているような気がしてくる……。

『或る終焉』
 終末期医療をテーマにしたメキシコ映画。介護士ディビットの仕事のようすをリアルに映しだしていくことから、かなり重い印象だが、むしろ若いうちにこそ、観ておいてほしい。

『鏡は嘘をつかない』
 海辺の村に住む少女パキスは、漁へ出かけたまま行方不明になった父親が帰ってくることを信じて、母と暮らしている。そこへ、イルカの調査員の男性がやってきて、徐々に母と親密になり……。
インドネシアのバジャ族の暮らしぶりと、自然の恵みと脅威が丁寧に描かれ、そこへ思春期に突入する少女の物語が絡み、見応えのある一作になっている。

『エクス・マキナ』
 人間と人工知能の息詰まる「心理戦」を描いた、斬新なSFスリラー。映画に出てくるような人工知能が生まれる日も近い!? アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルが、非の打ち所のない美しいロボットを演じてます。

『教授のおかしな妄想殺人』
 人生の意味を失ったと称する哲学教授と、彼に憧れる女子大生。毎度のウッディ・アレン全開です。女優がキュートなのも、さすがウッディ。

『シチズンフォー スノーデンの暴露』
 国家による違法なプライバシー侵害行為を告発した、元CIA職員エドワード・スノーデンのドキュメンタリ。スノーデン公認なだけに、彼の立場からのみの描写がちょっと気になるものの、現代はもはやここまでプライバシーが筒抜けなのかと思うと、ぞっとする。

『裸足の季節』
 両親を亡くし、トルコの田舎で祖母とともに暮らしている五人姉妹。田舎町の封建的な思想のもと、祖母は思春期に突入した姉妹の外出を禁じ、姉妹の意志は無視して次々縁談をまとめていく。そして、彼女たちは……。
 五人姉妹という設定からもすぐに『ヴァージン・スーサイズ』が浮かぶ。この時期の少女特有の横溢するエネルギー、瑞々しさ。これは、ぜひぜひぜひ。

『10クローバーフィールド・レーン』
 試写会場で「ぜったいネタバレしないでください」というお願いが配られたほどの、先が見えない展開。さすがあの『クローバーフィールド』の姉妹映画(続編ではないです)。というわけで、なんの予備知識もなく観にいくのが吉(←評の放棄ではありません)。

『ダークプレイス』
 28年前に起きた一家殺人事件の唯一の生存者のヒロインが、過去の有名殺人事件の謎解きをする「殺人クラブ」に乞われ、事件の真相に迫っていく。あの『ゴーン・ガール』のギリアン・フリンが原作なだけに、嫌ミス系が好きな人にはお勧め。シャーリーズ・セロン主演。

『好きにならずにいられない』
 というタイトルに、思わず「いや、むり!」と言いたくなるような「43歳独身・デブ・オタク」(←これは、映画のパンフレットの引用です)が主役。ところが、これが……まあ、観てみてください。『氷の国のノイ』のカウリ監督、アイスランド映画。

 金原瑞人さんとオザワミカさんと作っているフリーペーパー『BOOKMARK』の4号では、「えっ、英語圏の本が一冊もない!?」として、非英語圏の翻訳文学特集を組んでいます。今回、ご紹介した映画も、メキシコ、インドネシア、トルコ、アイスランド……などいろいろ。マイケル・ムーアの映画のテーマもそうですが、世界に目を向け、世界を知ろうとすることは、とても面白いし、大切だと思っています。本や映画がいい窓口になりますように(三辺律子)。