じどうぶんがくひょうろん

23号
25/11/199
           
         
     

【絵本】

ディアのガーデニング』(サラ・スチュワート文 デイビッド・スモール絵 福本友美子訳 アスラン書房 1997/1999)
 大不況時代のアメリカが舞台。仕事のない両親。リディアは両親と離れて、おじいちゃんと暮らすことに。おじいちゃんが申し出でてくれたわけです。ケーキ屋さんの彼は人はいいけどへんくつそう。おじいちゃんの笑顔が見たいと、リディアはこっそりとある計画を・・・。
 ストーリーと絵のタッチがピタリ。
 背景は暗いけど、抜けるように明るい絵本。

ツバチのなぞ・フリズル先生のマジック・スクールバス』(ジョアンナ・コール文 ブルース・ディーギン絵 藤田千枝訳 岩波書店 1996/1999)
 科学絵本の一冊。フリズル先生のクラスは昆虫の勉強をしているのですが、ハチ屋さんがミツバチの巣を見せてくれるというので、スクールバスで出かけます。と、バスはどんどん小さくなり、先生も生徒もハチになって巣箱を巡る、という設定。
 擬人化ならぬ擬虫化はよくある手ですが、科学絵本のツボは、細かな事実をどう興味深く描けるかにあるとすれば、この絵本はいいファイトをしています。はたらきバチが、花の在処を他のハチにどう伝えるかや、巣の作り方など、ていねいに解りやすく伝えています。ハチミツが、花の蜜だけでできているのじゃなくて、ハチの分泌物を混ぜられ、羽で水分を飛ばすことによって濃く、あの独自の味にある、とか、人間の子どもは1才までハチミツを食べてはいけないとか、知らなかったこともいっぱい。
 そして、最後に、擬虫化し一日で生徒が体験したことは、本当は何日もかかるし、子どもはハチにはなれないと、擬虫化そのものを笑い飛ばす余裕もいい。それが一層情報への信頼度を増しています。
 ただ、本のサイズが小さいので、文字が読みにくいのが難点。

くとポチのおかしな12人のともだち』(きたやまようこ 理論社 1999)
 『りっぱな犬になる方法』のきたやまの最新作。主題は当然、「ともだち」。1月の雪だるまから12月のクリスマスツリーまで、ぼくとポチのところにやってくるともだちを描きます。「ともだち」がいると「〜ができる」と毎月いいことが起こる。
 もちろんきたやまの絵の方にほのぼのするファンは多いんだろうけど、やっぱり、そのシンプルな言葉の置き所が巧いんですよ、この作家。

ばんめのえきは くまごろうえき』(野本淳一・文 田中秀幸・絵 小峰書店 1999)
 山から木材を運ぶ蒸気機関車。駅はたった3つしかない単線。そこに4つ目の駅ができたわけは・・・。
 いつの時代なんだろう? ストーリーは悪くないけど、それを、蒸気機関車だのの、いかにも幼年童話ですって設定や、絵の弱さは、残念。
 怪我したこぐま(だから子どもね)が機関手(だから大人ね)に助けられ、動物達が機関手たちを好きになるってのは、いいんです。それは大人への信頼感だから。
 でも、子どもはノスタルジーではありません。こんな風に古い描き方は勿体ない。

『ヒンバナのひみつ』(かこさとし作 小峰書店 1999)
 科学絵本というでなく、なんと言えばいいか。ひがんばなには全国に320種類の名前があって、それを15のカテゴリーに分けて説明していく。
 うーん、そう言っては、おもしろさが伝わらないなあ。
 薬草であり、毒草であり、非常食であり、彼岸頃にさく花であり、そうした、人間が一つの花にかかわる様々な想いがあふれている。
 それでいて冷静に事実を押さえていく辺り、さすが。
 読み応えあり!
 なんだかもう、圧倒されます。

あと10ぷんでねるじかん』(ペギー・ラスマン作絵 ひがしはるみ訳 徳間書店 1998/1999)
 『まねっこルビー』(1991)で、子どもを見事に描いた作家の最新訳。
 あと寝るまでに10分。ページを繰るとだんだん時間が過ぎていく。なのにハムスターの団体が次から次へとやってきて、どうしよう・・。カウントダウンと、しょうがないハムスターたちが巧くからまって、ページを繰っていくのが楽しみだし、ドキドキ。
 子どもにとって、寝る・一日の終わりって、大人が明日もまた予想が付いてしまうのと違って、未知への入り口なんです。だから寝たくないし、寝たい。

女』(小川未明・作 高野玲子・絵 偕成社 1999)
 偕成社の「大人の絵本」シリーズの一冊。以前ご紹介した新美南吉の『狐』(長野ヒデ子・絵)もこのシリーズです。原作が古いですから「おし」などの言葉が出てきます。「作品に差別意識が無いことと著作者人格権を考慮して原文のままとしたことをご理解願います」と奥付にあります。
 こうした方法はいいと思います。
 このシリーズ、絵のクオリティも高い。ただ、宮沢賢治、小川未明、佐藤さとるといった安定ラインナップだけでない、新作の「大人の絵本」も欲しいな。

ンギンの音楽会』(エルケ・ハイデンライヒ文 クヴィント・ブーフホルフ・絵 畔上司・訳 文藝春秋 1998/1999)
 こちらも「大人の絵本」を名付けられたシリーズ。オリジナルです。ペンギンたちの住む南極になぜか3大テノールがオペラ船でやってきて、『椿姫』をやるんです。
 なんじゃそれは! 
 ですが、ペンギン=燕尾服=オペラ観賞。
 いいんですそれで。
 楽しんでやってください。

ンギンスタイル』(さかざきちはる・文絵 ぶんけい 1999)
 先号でご紹介した『海底列車に乗って』(金森三千雄 文渓堂 1999)の挿絵を担当していた作家のオリジナル。

 ぼくの大好きなきみは
 ペンギンに夢中

 から始まる、ぼくときみのペンギン物語。
 ペンギン=南極=寒い。
 だけど、ホカホカ。
 「幸せ」度が高い。といえばいいでしょうか?

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【創作】

『小さなソフィとのっぽのパタパタ』(エルス・ペルフロム・文 テー・チョン・キン・絵 野坂悦子訳 徳間書店 1984/1999)
 これまたオランダの物語。
 重い病のソフィ。ある夜、人形たちが会話(芝居)をしているのを発見。ソフィは彼らの世界に飛び込み、冒険の旅に・・・。
 と書けば、よくありそうですし、確かに胸躍るスタートとはいえないかも知れません。
 ところが、動き出してからがもう、すごい。ソフィ、パタパタ、クマなど、登場キャラの立っていること、立っていること。子ども向けということで陥りがちの的外れな(または安全狙いの)モラルなどここにはなく、個と個のぶつかりがあり、だからこそ彼らは絡まり、物語を転がして行きます。
 つまり子どもを「子ども扱い」していない。
 誤解のないように付け加えれば、突き放しているのではありません。認めているのです。従ってラストも甘く流れていない。
 全体に「死」が匂っているこれが子ども「向け」の物語か? との疑問もあるかもしれませんが、この感覚は、結構ストレートに子どもに伝わると私は思うよ。

バになったトム』(アン・ロレンス作 イオニクス挿絵 斉藤倫子訳 徳間書店 1972/1999)
 親も兄さんたちも働き者だけど、末っ子のトムは夢見るばかり。いつかロンドンにでて大金持ちになるんだ。
 守護妖精がやってきて、トムに贈り物。「夜明けと共に始めた仕事は、日が暮れるまで終わることはない」と。
 なんのことかと思ったら、朝一番に畑の砂利を一つ除いたら、次から次と砂利が・・・。
 これは行動に気を付けねば、とトム。旅にでれば贈り物は消えるのでは?
 家を出るトムの前に、またまた守護妖精。二つ目の贈り物。「おまえは、将来の妻が思ったとおりのものになるでしょう」。
 旅の途次でであった女の子に、「ロンドンで大金持ちになるんだ」と自慢する相変わらずのトム。で、思わず女の子が言うことにゃ、「あんたって、まぬけなロバね」。
 はい、こうしてロバになったトムとジェニファーの旅が始まります。
 いわゆる昔話の体裁をとった物語。ですから、とても入りやすい。と同時に、ストーリーを読む楽しみが味わえます。
 それと、ジェニファーが決して脇ではなく、トムよりむしろ活躍するところも面白い。彼女の知恵と勇気もお楽しみ。
 とても巧い(美味い)作家なのに、44才で亡くなりました。

『ミ!』(伊藤たかみ・作 理論社 1999)
 タイトルがいいですね。
 語り手はミカと双子の「ぼく」。小学校6年生。

 学校のみんなは、ミカことをオトコオンナだって言う。
 男みたいな女だということだから(略)怒っていいはずだ。それなのに、なぜかミカは怒らなかった。女扱いされると怒るくせに、オトコオンナだと怒らない。

 が、始まりの文章なんですが、ここで、主題はほぼ提示されています。
 両親が別居中(から離婚へ)で、二人は姉とともに父と暮らしていることとなっていて、これが背景となります。
 それと、「ぼく」の語りは最後に、2年後からのものとなります。もしくは、最後に2年前のことを語っていると解ります、かな? 
 ここ、ちょっと微妙。
 とにかく物語はミカの元気振りや、彼女に恋をする「ぼく」の友人やをドタバタジタバタと快調に進めていきます。
 そしてなにより、収穫は、ミカが見つけ、二人で育てる「オトトイ」の存在。古い団地の前にある庭、一階のベランダの下の狭い隙間にいたそいつはモグラのようで、そうでもない、なんだかわからない生き物。庭に繁茂しているすっぱいキゥィを食べるみたい。で、二人は育てるんですが、どんどん大きくなっていく。キゥィのせいではなく、それはどうやら涙を落とされると育つらしい・・・。
 この「オトトイ」(一昨日みつけたからオトトイと名付けられる)がいいですね。「オトコオンナ」であるミカの内面をそれは照らす仕掛け。
 こんな発想持てるのは伊藤たかみの強みになるでしょう。
 この作品、大阪を舞台に大阪弁の会話が展開するのですが(ナレーションは違います)、それがちょっとベタ。掛け合いをもっと刈り取ったほうがテンポはよくなると思う。っても、大阪弁圏以外の人には面白いかもしれない。


◆『ひねり屋』(ジェリー・スピネッリ 千葉茂樹訳 理論社 1800円+税)
 時評参照。

◆『穴』(ルイス・サッカー 幸田敦子訳 講談社 1600円+税)
 時評参照。

newspaper version エイジ』(重松清・作 長谷川集平・絵 朝日新聞社 1999)
 単行本の『エイジ』は、朝日新聞の連載に大幅な加筆訂正がなされています。これは、タイトル通り、連載時のものを、長谷川の挿絵も全て収録し、再現したもの。使用している用紙も新聞っぽく、こっています。
 これと単行本を比べれば、作家の書き換えの一つの事例としておもしろいでしょう。私は、基本的に、決定稿(この場合は単行本)以外には興味がありませんが、筆の勢いはやはり連載の方がありますね。
 甲木さんが、単行本の『エイジ』の書評で、連載との差異を詳しくしらべて書かれていますので、「児童文学書評」の『エイジ』で、読んでみてください。いい書評です。

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【評論他】

どもと暴力』(森田ゆり/岩波書店/1999)
 時評に少し引用しましたが、経験に裏打ちされた文章は、根のはったモラルを展開。ベストセラーとなった『学級崩壊』への批判は、ズバリ。

『機戦士ガンダム画報』(竹書房/1999)
 『超人画報』のクリーヒットから、ぞくぞく出てる、懐かしの『画報』シリーズの一冊。こーゆーのって、ファンは買ってしまうのよね。
 ファンでなくても、好き者の私も買ってしまうのです。
 資料としては手元にあると便利ですよ。何のために使うかは知りませんが。

『世界名作劇場大全』(松本正司・著 同文書院 1999)
 あのアニメシリーズの現場にいた著者による、資料本。知らなかったことがいっぱい。ファン必携。ファンでない私は資料に2冊(使用用+保存用)買いました。