絵本、むかしも、いまも…

第20回「モダンな画面構成と美しい色彩 ――深沢紅子」

 夫、深沢省三とともに、画家で童画家である深沢紅子()(1903〜96年)もまた、岩手県盛岡の人。1919年に女子美術学校に入学し、卒業後は「子供之友」等の絵雑誌に筆をふるい、戦後は子どもの本のイラストレーションや装丁の仕事とともに、洋画の世界でも活躍しました。
 この『やまのたけちゃん』は、児童文学者石井桃子と作った絵本。出版されたのが1959年ですから、今から41年前になります。田舎の農村を舞台に、小学生のたけちゃん、よっちゃん、てるちゃん、三人の子どもたちの日常生活が描かれています。そこには、子どもなりの遊びの時間、楽しみや秘密があると同時に、子どもも家族のの一員として仕事(手伝いではないきちんとした労働です)がある暮らしが描かれています。「もはや戦後ではない」と語られ、高度経済成長への道を突き進みはじめようとするちょうどその頃の日本で生まれた絵本です。のどかで、堅実な人々の生活がそこにはあります。
 紅子の絵は、自らのふるさとや生まれ育った東北の農村風景を素朴にやさしく描き出しています。が、紅子の本領は洒落た画面構成と美しい色彩にこそあります。余談ですが、絵雑誌の仕事の時に、夫、省三は常々「色は紅子の方がうんといい」と語り、線描を省三が描くと、紅子が着彩したという話を聞いたことがあります。その真偽はともかく、このエピソードからは、画家深沢紅子の絵の最大の理解者が、夫省三であったことが、よくわかります。
 さて、紅子の絵に戻りますが、私が心惹かれる紅子の作品のひとつが、昭和3年から4年に刊行された絵本の叢書「コドモエホンブンコ」(普及社)の一冊です。この絵本シリーズは、絵雑誌が全盛の時代に、一冊一話で完結する単行本形式の絵本で、当時、画期的な存在でした。刊行の前年に結成された日本童画家協会のメンバー、岡本帰一、武井武雄、初山滋、村山知義、川上四郎、深沢省三らが中心的となっていました。
 紅子が描いたのは『ヨイコチャンノニッキ』。斬新なデザインと渋く控えめな色調の、美しくもモダンな一冊。そう、同時代、絵雑誌「コドモノクニ」に夢のように幻想的な絵を描き、読者を魅了した古賀春江の絵を思わせるような。
 晩年、紅子は齢九十を迎えてなお、活発な創作活動をつづけ、たくさんの野の花を描きました。その作品は、こんにち、郷里の盛岡と豊かな自然が息づく軽井沢、塩沢湖畔に誕生した紅子の美術館で、多くの人々に愛されつづけています。画家として、妻として、母として生きた長い人生は、夫省三とともに、子どもの本の理想を胸に、子どもを、野の花を、小さな命の営みを鮮やかにたおやかに描き続けた人生でした。(竹迫祐子)

『やまのたけちゃん』石井桃子文/深沢紅子絵/岩波書店刊(品切れ中)
徳間書店「子どもの本だより」2000年9月/10月 第7巻 39号
テキストファイル化富田真珠子