世界本のある暮らし


「図書館の学校」TRC

第七回  ラオス 本のない暮らし
増山正子

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 NGOの要請で子どもと本に関わる人たちと共に、児童図書館活動を支援するため初めてラオスを訪ねたのは94年の春。丁度メコン川にタイとの友好橋が架けられた時だった。首都ヴィエンチャンの広い道には鋪装もなく、カラフルなパラソルをさした二人乗り自転車や4〜5人乗りしたオートバイ、ジャンボーという三輪車の公共の乗り物が走っており、日本の昔を見るようで懐かしい気持ちがした。メコン川での水力発電で電気を輸出しているからか、トイレや水道もない村にテレビのアンテナが立っているのには驚かされたが、植民地政策や多様な民族構成、ベトナム戦争に相次ぐ内戦などさまざまな事情で、この国の教育環境の整備や出版関係は大幅に遅れている。絶対的に本の数は少なく、多くの人々は日常ほとんど本にふれる機会もなく暮らしていて識字率も低い。
 首都ヴィエンチャンにたった一館だけある国立図書館の書架は寒々としており、全蔵書冊数20万冊。その内ラオス語の本はたったの20%で、残りは英・仏・タイ・中国語などの本が並んでいた。本屋も三軒だけで子ども向けは日本のNGOが作ったペーパーブックの本がほんの少しあるだけ。しかし、日本のNGOが運営する図書館とか文庫には、いつも大勢の子ども達がつめかけ、賑わっていた。
 もともとラオスの寺には、何百年も昔から椰子の葉に鉄筆で仏教説話などを書いたバイラーンという古い書物があって、僧が一般の人に読み聞かせをするなど仏教文化が中心となって公共図書館の役割を果たしてきた。その内容は、民話が20%で、他に生活技術・法律・歴史・天文学・風俗習慣・呪術など当時の知識の全てが書かれているとか。が、戦争による荒廃や近代化の中でバイラーンは忘れ去られ、今はその保存収集に力を入れている。
 この春、久し振りの四度目になるラオス訪問で、埃っぽいヴィエンチャンにまず驚いた。地方との経済格差もますます開いている。ラオスの教育と図書普及の向上は、日本の二つのNGOの存在なくして語れない程、その活動はめざましい。(*)
 人の言葉に目を輝かせて耳を傾ける子どもの姿は少しも変わっておらず、紙芝居をしたり、絵本を読んだりしている人のまわりには、あっという間に黒山の人だかりができる。日常生活の中に本がない代わりに、耳から昔話を聞く暮らしが息づいていて、豊かな感性を醸し出しているのが感じとれた。

*82年に活動を始めたASPB(ラオスの子どもに絵本を送る会)と、92年ラオス事務所が開設され図書館支援活動を始めたSVA(シャンティ国際ボランティア会)は、日本で出版されている優れた絵本をリストアップして寄贈本を募り、本に書かれた日本語の上にラオス語を貼ることで、子ども達が読める本を増やすという活動を展開している。また、今なお語り継がれている昔話を題材にラオス人作家(絵本とか紙芝居)を養成して国内での出版を支援、小学校の教材作り、などに重点を置いたプロジェクトを組み、活動している。