スペイン児童文学の話(02)

「新刊児童書展示室だより」TRC 2000/02

長谷川晶子

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 「文化が停滞した」フランコ将軍の独裁時代(1939〜75)のスぺインには、どんな児童文学があったのか。研究書をひもとくと、宗教色が強く道徳的作品がほとんどだったこと、そして、時代の推移とともに政策が緩和されていくにつれ、作品の量も増え質も向上していったというようなことが書いてあります。それならぱ、実際に子どもたちがどんな本を読んでいたのか知りたいものです。とはいっても、「本などなかった」といわれる時代です。子ども時代に本を読んだことのある大人を見つけなければなりません。
 そこでわたしは、バルセロナ大学の外国人コースで文学を教えている3人の先生に話をきいてみることにしました。文学研究に従事している人ならきっと子どもの頃から読書が好きだったことでしょう。
 やはり3人とも「家には本がいっぱいあった」といいました(3人のうち、2人の教授は実は兄妹なのです)。偉人や聖人の伝記のシリーズを読んだこと、ギリシア・ローマ神話、古典、グリムやアンデルセンなどの童話もたくさん読んだこと、ジュール・べルヌの本を好んで読んだこと、『クオレ』が好きだったこと(『マルコの冒険にわくわくしたものだよ」難しい、文学理論を話す教授も、子ども時代を思い出すときにはにこにこしていました)…。でも、やはり教育的要素の強い本がほとんどです。
 また、スぺインの作品と特定して名前があがったのは、後に国際アンデルセン賞を受賞したJ・M・サンチェス=シルバ作『パンとぷどう酒のマルセリーノ』(1952)のみで、これも「キリスト教の影響が強い作品」で「映画化されて、そちらの方が有名」なのです。そして、わたしが児童文学史で調べていた作家の名を挙げると、「わからない」と口をそろえました。
 わずかながらの創作も、あまり子どもの元に届いていなかったことがうかがえます。