アナグマと暮らした少年

アラン・W・エッカート 中村妙子訳
岩波書店 1971/1982

           
         
         
         
         
         
         
     
 時は1870年。開拓者のウイリアムとエスターは様々な苦労があるけれど、もっかの悩みは、末っ子のベン、6歳。彼はどんな動物とも親しくなれますが、人間だけは駄目。言葉を話さない。母エスターは、ベンにイラ立っている父ウイリアムに言う。「あの子に必要なのは、わたしたちの理解と、愛と、助けなんです」「ほんの少しでも小さなあの子の所まで下りていこうとしたことが一度だってあるでしょうか? あの子に話しかけるときにしゃがんだり、身を屈めたりしたのはいつのこと?」。物語の開始早々、いきなり胸に刺さる言葉です。忘れるんですよね、こんな簡単なことを。簡単だから忘れるのかな。その後、ベンは草原で迷い行方不明になり、そのときウイリアムの心に息子への愛情がストレートに溢れる。でもここで終わらない。『アナグマ』はもう一歩先まで描くのね。
 ベンを助けたのは子どもを亡くしたばかりのアナグマ。彼女はワナに捕まり大けがをしている。ベンは彼女の手当をしてやるし、アナグマは我が子の代わりにベンを育てようとする(餌を運ぶ)。彼らは、お互いを必要とする関係になるわけ。「理解と、愛と、助け」。エスターの言葉は大人にとっての心得の基本だろうけど、子どもにとっては、それだけではだめで、自分自身が必要とされると実感することも必要なんやね。
 救出されたベンはアナグマとの日々を活き活きと語ります。彼は話せるのです! 「家のほかのみんなは大きいのに、ぼくはいつもとっても小さかったんだ」「ぼくの話すようなことは、みんながとっくに知っていることばかりだって気がしていたんだよ」。ここを読んだとき、子どもだったころの歯がゆさを思い出してしまいました。
 情報過多の現代、同じように感じている子どもは私の頃よりずっと多いけれど、そんな時、こうしたセリフに出会って欲しいと思う。ベンみたいな体験ができなくてもいいんです。自分の苛立ちの根元を言葉でとらえられるだけで、ずいぶん気持ちが楽になるから。
 残念ながら品切れ中。復刊を切望します。(ひこ・田中)
TRC新刊児童書展示室だより 13 99/09/01