アレクサンダとぜんまいねずみ

レオ・レオニ:作・絵
谷川俊太郎:訳 好学社 1976

           
         
         
         
         
         
         
    

 にんげんは、ねずみのアレクサンダを見ると、彼を追い回します。アレクサンダはパンくずをちょっぴり欲しいだけなのに。
 そんなある日、アレクサンダは、ぜんまいねずみのウィリーに出会います。ウィリーは子どもにとても好かれています。ひとりぽっちのアレクサンダは、うらやましくて仕方がありません。アレクサンダは、魔法のとかげに頼んで、自分もウィリーのようにぜんまいねずみにしてほしいと思います。
 ところがある日、アレクサンダは、古いおもちゃといっしょに捨てられているウィリーを見つけます。ウィリーは子どもにあきられてしまったのです。
 アレクサンダは、魔法のとかげのところへ行きます。そして、ウィリーを自分と同じようなねずみにしてほしいと頼みます。そしてアレクサンダは急いでうちへ帰りました。帰ってみると……

 どうすれば、あんなぜんまいねずみになれるんだろう。できれば、ぼくを、おんなじあんなねずみにしてほしい……。そう考えて、トカゲをたずねていく台所ねずみのアレクサンダ。レオニは、これ以外にも、いろいろなねずみの絵本をつくったが、ねずみ物語の中で、ぼくの気にいっているのは、『フレデリック』と、このアレクサンダの絵本である。この絵本には、レオニが時どきちらりと見せる説教めいたところもない。あるのは、心から友でありたいと考えるねずみの切ない願いだけである。このやさしさは、絵本の中のねずみのことにとどまらず、絵本の外の、それを眺めるぼくらの問題にひろがっていく。ぼくらは、この絵本の中の、ほんとうのねずみとぜんまいねずみの関係を見て、ぼくら人間おたがいの結びつきを考える。ぼくらにおける「やさしさ」を考える。「仲よし絵本」なら、うんざりするほどあるだろう。しかし、こんなふうに人間のやさしさを語ったものは、それほど多くないはずである。(上野瞭)
           
         
         
         
         
         
         
    

絵本の本棚 すばる書房 1976
テキストファイル化北原志保