ある朝ジジ・ジャン・ボウはおったまげた!

ひらいたかこ

絵本館


           
         
         
         
         
         
         
    
 ブックフェアでアメリカの出版社の人と話していて、「ウソでしょー」と思ったことの一つに、「子どもの裸」をどう扱うかというのがあります。もっと正確にいうと、男の子のお○ん○ん。私が、今年の夏に徳間から刊行予定のフィンランドの絵本を「どう、赤ちゃん絵本だけど、いいでしょう?」と見せた時のことです。「わあ、かわいい本ね」と顔を輝かせて、ぺージをめくっていたA社の編集長、赤ちゃんがおむつをしている場面 が出てきたとたんに、あれ、まずい、という表情をしたのです。そして次のぺージにおむつをとって足をばたばたしている赤ちゃんの絵を発見するやいなや、「これ、アメリカでは出せないわ」と言うではありませんか。
 ふつうの赤ちゃんの、元気でかわいい姿の絵です。柔らかな夕ッチの絵で、下品さやいやらしさなんか、みじんもありません。当惑した私の「なぜ?」の問いに、側にいた営業部長が答えてくれました。
「アメリカには極端に教育的で保守的で、影響力を持った人がたくさんいてね、絵本にこういった性的表現(!)があるべきではないと考えているんだ。あえて出版すると、その本も作家も出版社も痛い目に遭うことになるんだよ」
「ほら、 有名なモーリス・センダックの「真夜中の台所」っていう絵本知ってるわね。あの男の子もお○ん○ん出してるでしょ。でも、センダックがあんまり有名で批判することが難しいもんだから、図書館なんかでは、そこの部分にシールを貼って、隠して貸し出してるのよ。おかしいわよね。私、個人的には、絵本に裸の男の子がいたってかまわないと思うし、第一子どもって、そういう絵本、きっと喜ぶと思うんだけど、実際出版するとなると、難しいのよ。たとえ赤ちゃんの裸でも」
とは先ほどの編集長。彼女は、今二人目がおなかの中にいて、大きなおなかをしています。
 がーん。シールだなんて! それこそカルチャーショックです。 (そういえば前に、お父さんが娘をお風呂に入れる場面を絵本に描くと、それもアメリカでは「性的虐 待」にひっかかるって、聞いたことがあります。)
「シールのほうがよっぽどいやらしいじゃないの! 子どもの自然な姿は、美しいと思うけど!」と思わず言い返しちゃった私。彼女も「私だってそう思うわ。でもね、色々と、難しいのよ」板ばさみの彼女の気持ちは分かります。
 でも、この「ある朝ジジ・ジャン・ボウはおったまげた!」っていうとびきり愉快な絵本を見れないなんて、かわいそう。保守的な石頭さんたちはこの絵本の存在を知ったら、 もうそれだけで気絶してしまうかもしれませんね。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1996/5,6