永遠の出口

森絵都 集英社 03・3

           
         
         
         
         
         
         
    

 舞台は、JR総武線駅から自転車でも四十分かかるという千葉県の郊外住宅地。「〈永遠〉という響にめっぽう弱い」多感な少女の十代に体験した出来事が、一九七〇年代から八〇年代にかけての時代の陰影を鮮やかに映し出しながらみずみずしく描写されていて、同年代の女性ははもちろん、世代や性差を超えた共感を誘うに違いない。
仲間で示し合わせ一人の友だちを誕生パーティーに呼ばなかったことで気まずい思いをした小学四年生から、黒魔術を使うと恐れられている担任のおばさん教師に反撃した五年生、中学入学直前のうきうき気分の春休みに仲良しと出かけた予想外の冒険旅行、両親に反抗して先輩たちのアジトでコークハイを飲んで泥酔した中学一年生、デパートで万引きしてつかまった中学二年生と、高校卒業までの九年間の悲喜こもごもの様々なエピソードが、九章の短編連作で綴られる。両親の離婚の危機を回避させるために姉が仕掛けた久々の家族温泉旅行が、あわや水泡に帰しそうにになったところで、旅館の火事騒動で修復される「時の雨」の、心理の綾を巧みにとらえた物語構成。デートなんて疲れるばかりといいながら、別れるとすぐに会いたくなり、失恋して立ち上がれない高校二年生の微妙な心模様。進路が決まらず夏の星空観察会の案内人講習に誘われ、五十億年後の太陽系の終末を知って打ちのめされる高校三年生の卒業までのエピソードも心を打つ。
細やかな描写の積み重ねて、過去の甘酸っぱい思い出を情感を含ませて綴りながら、それを単なる追憶に終わらせないで、紆余曲折を乗り越えて未来に向かって力強く一歩一歩を踏み出すエピローグに収斂させていくあたりは見事だ。時代の暗鬱を吹飛ばすような、読後感が爽やかな秀作である。(野上暁)産経