エヴァが目ざめるとき

ピーター・デイッキンソン作
唐沢則幸訳 徳間書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 これを書いた〃ピーター・ディッキンソン〃は、あまり有名ではないかもしれませんが、天才作家の一人です。読んだらすぐわかるよ。
 メチャ切れ味のいい、いかにも頭の回転の速そうな才気走った文章……緻密な構成……。
 あのブンガク的なことで有名なイギリスミステリでも、ゴールドダガー賞かなにかもらってます。それがまたよくわかんないミステリなんだけどさ。
 子どもの本では、大魔法使いマーリンが目覚めてムチャクチャをする『過去にもどされた国』があリますが、久しぶりに出されたこの本を読んでのけぞってしまいました。
 子どもたちが集団で海に入水自殺するような精神的に追いつめられた近未来の地球が舞台です。
 そういう時に交通事故で体がメチャメチャになった女の子の意識をチンパンジーに移植して甦らせる、というSFなのよ、これ。
 お父さんはサル学者で、自分の娘なのにそういう実験ができて、有頂天になるようなアホだし、お母さんも娘が醜いチンパンジーになったのを受け入れ切れない、役に立たない親でさ、賢いその女の子はたった一人で自分の内側から湧き上がってくるサルの野生と、人間の理性のバランスをどうやって取るかを考え、何匹かのサルを連れて無人島に入植する計画を立てるの。
 ディッキンソンは、新しいイブとアダムの話を書きたかったそうてすが、文体、構成、ヒロイン、どれも文句なく、洗練された一級品に仕上がっています。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)