家なき鳥

グロリア・ウィーラン〔著〕
代田 亜香子訳 白水社 2000/2001

           
         
         
         
         
         
         
    
 インドの現在を生きていく少女

 主人公のコリーは、刺繍が得意な少女。貧しいながらも一家で助け合って暮らしていたのだが、13歳を過ぎたとき、口減らしのため、見知らぬ相手に嫁ぐことになった。
 夫のハリ・メイターは難病でわがままな16歳の少年で、結婚生活は前途多難である。
サス(姑の呼称)の目当ても、ハリの治療に使うための結婚持参金だけで、新妻のコリーには厳しい。その上ハリは、コリーに心を開いたのもつかのま、沐浴に訪れたガンジス川で客死し、コリーは1年足らずで未亡人になってしまった。
 サッサー(舅の呼称)や義妹シャンドラとは仲が良かったが、シャンドラが結婚し、サッサーが死んだ後、メイター家はどんどん傾いていく。ある日、コリーはサスに連れられて行ったヴリンダーヴァンという都会に置き去りにされる。家族に厄介払いされた未亡人が住む、この「未亡人の街」で、コリーは路頭に迷うことになり……。

 インドの風俗や文化や習慣に異国を感じつつ、現代の少女の自己実現の物語が楽しめる1作である。物語は困難の連続だが、楽天的で良い意味で気の強いコリーが、自力で道をひらいていく姿は実に魅力的で、応援せずにはいられない。
 コリーのさばさばした明るさの軸になるのは、刺繍に託される思いと、文字を覚えて得た自信である。キルトやサリーを鮮やかに彩る刺繍では、個性的な図柄や色合いの中に、コリー自身の思い出や感情、あるいは人生そのものが細やかに縫い取られていく。また、向学心旺盛なコリーがサッサーに文字を習い、帰る家を持たない「家なき鳥」の詩(タゴール)を愛唱する場面には、詩こそ励ましの言葉なれという詩人ウィーランの願いが感じられ、「言葉」を知ることの力が改めて思い起こされる。
 自助努力の少女コリーは、インドに生きる前向きな「アメリカン・ガール」である。苦境でも希望を失わない快活さ。学ぶ楽しさ。能力を生かした自立。対等な関係でいられる青年との愛。真の家に落ち着く家なき鳥の喜び。私たちがこの物語を素直に受けとめ、ほっとした読後感を得られるのは、インドという国の現在をのぞく楽しみ以上に、アメリカ的な自立をとげた少女への共感があるからかもしれない。(鈴木宏枝