小田実の英語五〇歩一〇〇歩
自まえの英語をどうつくるか


小田実


進学研究会


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 先日、喫茶店でコーヒーを飲んでいると、英会話学校の生徒たちとその外人教師がはいってきた。生徒たちもなかなか発音がいい。なにを話すのかときいていたら、「何歳ですか」「趣味はなんですか」といった、細切れの質問ばかりで数十分がすぎ、そのうち生徒も教師もついに黙りこんでしまった。
 多くの大学で英語重視の方針がとられはじめ、英会話の授業や、LL教室を使った授業がどんどん増えているが、いったいなにを教えているんだろう。耳をきたえるのもいいし、こういうときにはこういう受け答えをするんだよということを覚えるのもいいだろう。だけど、英語を学ぶ、あるいは外国語を学ぶというのは、そんなことなのだろうか?
  そんな素朴な疑問を感じている人に、この本を勧めたい。
 作者の意見はこうだ。「日本語の本をろくすっぽ読んだことのない人が英語の本が読めるようになりたいと懸命に努力したり、いつも黙り込んでろくすっぽ返事もしないような若者が英会話の学校に通ったり」している状況はおかしい、「外国語を学ぶことは、根本的には自分のふり巾をひろげ、思考をゆたかにすることだ」、会話学校の広告のように「日本人であることを忘れて下さい」というのは間違いだ、日本人であることを基本において英語を学ぶべきだ! 
さあ、君はどう思う?(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/07/02