おさるのまいにち


いとうひろし


講談社


           
         
         
         
         
         
         
     
 〃おさる……〃のシリーズはもっと哲学的・抽象的-なにせ最初の『おさるのまいにち』は朝起きて、おしっこをして朝ごはんを食べて、みんなと遊んで暮らします……という平和な日々をおくっている南の島のおさるたちが、年に一度訪ねてくるウミガメのおじいさんを気長に、楽しみに待つ話で、これくらい説明に苦労する話もない、というくらいストーリーらしいストーリーがないんですが、現実は確かに違うけど、でもこういう満ち足りた幸福な暮らしって確かに存在するんだよ、こういうのっていいよねえ、ということがひしひしと伝わってきます。

『おさるがおよぐ』はおさるの子がたまには冒険でもしてみようか……と丸太の船で大海原にのリだす話-。
 こっちも昔の本なら船出は意気揚々、着いた先では何か起きるもんてすが、ここではどこまで行ってもまわリは海……に、おさるの子はさびしくなってしまいます。
 そこへね、ばったリカメのおじいさんが現れる……この広い広い世界で偶然友だちにめぐりあうなんて、なんという喜び、なんという奇蹟!と、いとうくんは言うのです。
 そう、まわりに人間がどれだけたくさんいても、どの人も友だちじゃなかったら、この大海原と同じだね、でしょう?

『おさるはおさる』は自分が人と違うことの不安というとてもむずかしい、でも現実、いまの日本では確実に子どもたちのテーマになってしまった問題を(もちろん大人もそうだよ)、五〜六歳の子どもにもわかることばとストーリーで(だからもちろん大人にもわかるね?)、正確に語ってくれるのです。
 ことばの多い少ないと、中味の浅い深いは関係ないからね。

 この先十年かそこら……いや、へたしたらもっと長いこと、この〃おさる〃のシリーズを超える幼年文学の作品は誰も書けない気がする……いや何を書いたらこれを超えられるのか、私には見当もつきません。
 いま、現代の問題を提示することは、わリと簡単なことになってきました。
 それだけ世の中にあふれてるってことでもあるけどね。
 でも、どっちの方向に歩いていったら光が見えるのか、それを示すのはむずかしい……。
 大島弓子、萩尾望都、山岸涼子、川原泉、佐々木倫子などと並んで、いとうひろしはそれを示し、癒しを描ける、たぐいまれな描き手の一人です。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ子どもの本案内』(リブリオ出版1996/07 本体1796円)