おやすみなさいトムさん

ミシェル・マゴリアン・作
中村妙子・訳 評論社

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 第二次大戦中、イギリスでも戦火を避けて、都会の子どもを強制的に地方に移す「学童疎開」が行われた。
 つらい過去の出来事から、人間に心を閉ざし、犬のサミーだけを友に暮らすトムさんの所にも、ロンドンから9歳の男の子ウイリアム・ウイルがやってくる。
神を狂信する母親から、身も心もずたずたに傷つけられ、おびえきっていたウイルとトムさんの間に、いつしか深い情愛が通いあう。
 人や動物を愛することを知り、才能を花開かせていくウイル。彼を通じて世の中とのかかわりを取り戻していくトムさん。おだやかな前半に続き、後半は恐ろしい事態となり、ドラマチックに展開して、読者をはらはらさせ一気に読ませてしまう。
 個性的で魅力あふれる子どもたちを描き、周囲に様々な大人を配して、人として生きるという意味においては、子どもも大人と同じだと作者は語っている。
 イギリスでは小さな村の生活にも図書館の生活が深く根付いていることを知る、というおまけもある。小学校高学年から。
 (和)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化塩野裕子