海辺のモザイク

高田桂子著
てらいんく 2001

           
         
         
         
         
         
         
    
 親子関係や家族についての論議がにぎやかだ。近代が築いてきた家族の神話が崩壊しつつあるのか否かはともかく、健全な家族を演ずることの危うさが露呈してきているのは事実だ。そして、子供にまつわる近代の神話も解体しつつある。子供もまた、大人以上に冷めた目で、大人の世界を見ているのだ。それらを、ストレートに感じさせる作品である。
 電力会社に勤める父親の転勤で、小学六年生の少年が、瀬戸内の海辺の町から、ウミネコが舞い飛ぶ、北国の寂しい海辺に引っ越してきたところから、物語は始まる。少年は、これといった理由もなく不登校になる。担任は、理解ありげに、無理強いするなと母親を諭す。そんな理解が、少年にはかえって欝陶しい。少年は海辺で、飼い主に声を奪われ捨てられたという犬を連れた老人にA出会う。それがきっかけで、老人の孫の少年は友だちになる。

 会社第一、仕事中心の父は、家族とのコミュニケーションがうまく取れない。息子のことで心を悩ます母の愚痴を聞くのは、中学三年生の少年の姉の役割でもある。その姉も、家族に不満を抱き、怪しげな仲間と付き合って、深夜に帰宅するのも珍しくなくなる。父の不倫。母の逆上。家族の崩壊を辛うじて支えたのは、少年と彼が出会った老人と孫であった。大人の世界の確執も、容赦なく浮上させ、そこからの再生を描いてみせることに、手抜きはない。そこに、この作品のすごみがある。(野上暁)
産經新聞2001.03.13