怪物の王国

倉本四郎

筑摩書房


           
         
         
         
         
         
         
     
 気高く、恐ろしく、ユーモラスで、いるはずないさと思いながらも、現実の薄い皮をペロリとめくってみると、すぐそのうしろから顔をだしてきそうな、リアルな存在が今回の主人公です。 これはギリシア神話から聖書、さらにはオカルト映画までをみわたしながら、そのなかに登場する怪物をエッセイ風に紹介した作品で、澁澤龍彦のエッセイほどマニアックなものではなく、だれでも楽しめるように書かれているが、それでいてかなり深くつっこんだ部分があるのがとてもいい。とくに国芳、北斎、ルドン、エルンスト、ボッシュなどといった幻想画家を扱った章は抜群に面白い。
 人間が怪物を想像し、創造したのは昔に限ったことでなく、現在も数多くのモンスターが生まれている。そしてその最先端をいくのがホラー・ムービー。というわけで『ザ・ホラー・ヒーローズ』(村田ビデ雄編・シンコー・ミュージック・九八〇円)の登場です。これは永井豪、日野日出志、いとうせいこう、中島らも、蛭子能収といった多彩な執筆陣によるホラー・ムービーについてのエッセイ集で、どれも楽しく、ホラー・ムービーは怖くてみられないという人にもお勧め。そういえばこの本の帯のコピーを書いている伊丹十三の新作ホラー・ムビー『スウィートホーム』、楽しみですね。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/12/04