金鉱町のルーシー

カレン=クシュマン著
柳井薫=訳 あすなろ書房

           
         
         
         
         
         
         
     
 ほんとに月日のたつのは早い。あれは、もう3年前になるのだ。カレン・クシュマンの前作「アリスの見習い物語」を読んで感銘を受けたその年、アメリカ南部の州で開かれた子どもの本の大会で彼女に会ったのは・・・。
 その大会に、彼女は、K=パターソンなどと一緒にゲスト作家として参加していたのだ。会場の書籍売り場にはその年出版されたばかりのクシュマンの新作が平積みされていて、手にとってみていた私に、図書館員風のオバサンが、「その本、イチオシよ」と声をかけてくれた。早速買って、とりあえずチャンスとばかり、クシュマンにサインをもらったのだが、それがこの『金鉱町のルーシー』だったのだ。
 前作は中世の英国を舞台にした作品だったが、新作は、ゴールドラッシュに沸く19世紀半ばのアメリカのカリフォルニアが舞台だ。
 物語は、父をなくした12歳の少女ルーシーが、母と三人の弟妹たちと一緒に、はるばる東部から荷馬車に乗って西部の開拓地にやってくるところから始まる。金鉱を掘り当てて一獲千金の夢を見ていた両親は、子供たちにもそれぞれ、開拓地にゆかりの名前をつけているほどだ。ルーシーだって、もともとの名前はカリフォルニアというのだ。もちろん彼女は、そんな名前が大嫌いで、勝手に改名する。読書が大好きで、東部の暮らしが恋しくてならないルーシーだが、必死で生計を立てている母を助けて、仕方なく狩りをしたり、パイ作りをしたりする。
 やがてルーシーにも色々な友達ができる。逃亡奴隷、無口な郵便配達夫、森で暮らす野生の少女、大男の伝道師など登場人物は多彩だが、どの人物も陰影深くリアリティーを持って描かれ、本書に命を吹き込んだ。とりわけ、人生をたくましく前向きに生きる母親像が魅力的だ。
 弟の死や、火事、母の再婚といったできごとを通して成長していくルーシーの内面も哀感を持って描かれる。
 作者は、資料や文献をそうとう読みあさったのだろう。当時の人々の暮らしぶりや風景はもちろんの事、スラングや動植物名、薬の種類まで、忠実に生き生きと再現して見せる、楽しい作業だったと思う。
 さてもう一冊、富安陽子さんの『空へつづく神話』も、自分たちの住む土地にまつわる伝説や歴史に素材を得た読みごたえあるファンタジーだ。
 理子は、学校の図書館で偶然出会った、記憶喪失のへんてこな神様につきまとわれ、迷惑しながらも神様につき合ううち、意外な町の歴史を知ることになる。地名や町名には歴史的背景があり、昨今のようにやたらに合理的に変更してしまうのは考え物だが、そのあたり、この物語の結末はさわやかで後味がよかった。(末吉 暁子)
moe2000/11
テキストファイル化戸川明代