キリンの洗濯

高階杞一
あざみ書房

           
         
         
         
         
         
         
     
 今回は『キリンの洗濯』という詩集です。まずは「つぶされて」という詩から。
「夜中/目がさめると/ゴキブリになっていて/悪い夢でも見たんだ/とタバコをふかしていると/妻が目をさまし/大声をあげ/わたしを起こす/ゴキブリよ、ゴキブリがタバコを喫っている/いいじゃないかタバコぐらい/お茶でも出してやりなさい/と言うが/妻はきかない/スリッパを持ってきてわたしに渡す/わたしはタバコを消して立ち上がる/そこへ/スリッパが落ちてくる/スリッパがわたしをつぶす/死んだ?/死んだみたい/ほら、ぴくぴく/ああ、ぴくぴく/だけど/つぶされて/スリッパなんかにつぶされて/くやしい……・」
 ゴキブリのわたしと、スリッパを持ったわたしのからみのすごさ! ここでカフカなんかを持ちださないほうがいい。問答無用、説明不要の面白さである。ついでにもうひとつ。
「朝/出かけていくたびに/自分が/向うへずれていく/はるか向うの端に/今朝も 何かが乗っている/象か/ワニか/カバか知らないが/何かが乗って/少しずつ/向うが重くなっていく/毎日/少しずつ傾斜が急になっていく/それに負けないように/こちらにも/重い/象か/ワニか/カバが/わたしは欲しい」 題は「てこの原理」。
 こんな詩人がわたしは好きです。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/04/23