子どもの本の森(9)

病む子の心のおやつ・栄養に

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 近年、小児医療の重要性が認められて各地に子ども病院ができ、総合病院には必ず小児病棟が設けられるようになった。医療の進歩も目覚ましい。しかし、一方で入院している子どもの心のケア面は、まだまだだと思う。
 子どもは、たとえ明日の生命が危ぶまれたり、障害が重くても、常に心身共に成長している存在だということに、もっと目を向けて欲しい。そのための一つとして、寝たきりでも楽しめ、知識を増やし、心を豊かにする本を、病む子、障害のある子にと、元長期療養児の私は、ずっと思っている。
 それを並はずれたバイタリティーで実行した人がいた。「財団法人・ふきのとう文庫」の現理事長小林静江さん。札幌市にある子ども図書館「ふきのとう文庫」は、小さな図書館だが、選ばれた良質の児童書と、布製手づくりの「布の絵本」や遊具、拡大写本などをそろえて、病む子、障害のある子を中心に、すべての子どもに開かれている。
 自宅療養の子には郵送や宅配で、入院、入所中の子には、院内、施設内文庫をつくって、と貸し出しの手はどこまでも伸ばされる。
 私が「ふきのとう文庫」を知ったのは、1974年ごろで、小林さんは仲間と病院内文庫づくりの一方、障害者用書籍などの郵送料の無料化を訴えて、署名集めに奔走していた。それが新聞記事になり、文中に「(活動の)きっかけは、25年間脊椎(せきつい)カリエスを病んで亡くなった妹の遺志を継いで」とあった。それが小林さんとの出会いでもあった。
 私もまた6歳でカリエスを病み、以後20歳まで成長期のほとんどを病床で送っていた。その間一番の楽しみは読書だった。どの本もボロボロになってもまだ読み返していた。
 子どもの読書の楽しみは、本の中の世界にすっぽり入り込み、主人公と一体化してしまうことだと言われる。そして心で体験することが想像力を養い、ストレスを解消するなど、子どもの心の成長に大切なのだ。だとしたら病気や障害によって、狭い世界に閉じ込められがちの子どもにとって、本はおやつ、ごちそう、栄養、薬だと思う。
 私にしても、本の中でいろいろな所に行き、様々な人に出会い、喜びや悲しみや悩みを知り、時には大冒険さえもしたことが、生きていく上で、どんなに力になったことか。思えば読書は私にとって遊びであり友達であり、学校でもあった。
 すべての子ども病院・小児病棟に患者用図書室がつくられることを願いながら、小林さんに後押しされて数人の仲間と静岡市中央福祉センターを拠点に「静岡ふきのとう文庫」を開いている。

(静岡子どもの本を読む会 鈴木和子)

▼すすめたい本▲
「春を呼べ!ふきのとう―ふきのとう文庫15年の歩み」(財団法人・ふきのとう文庫編 偕成社)
「小さいベッド」(村中李衣著 かみやしん絵 偕成社)
テキストファイル化塩野裕子