コルデコット賞お勧めリスト

細江幸世

           
         
         
         
         
         
         
    

○バックルさんとめいけんグロリア(96コルデコット)(ペギー・ラスマンさく・え ひがし はるみやく 徳間書店 /19961997)
この絵本がコルデコット賞を受賞したと聞いた時、「オナーじゃないの?」と聞き返したくらいびっくりしました。コルデコット賞はオーソドックスできれいな絵で(ラスマンの絵はマンガチックだ、といわれていたみたいだから)いかにもいい本っていうのが受賞しているように感じていたからです。(オナーはたいぶやんちゃな絵本もとるようになっていましたが……)もうちょっと<いま>って感じが欲しいなあと、ミーハー絵本ファンのわたしはひそかに思っていたので、ラスマンの受賞はうれしいかったのです。
この絵本は安全教室を担当する警察官のバックルさんが警察犬のグロリアと組んで仕事をしていく様を描いています。おとぼけバックルさんとグロリアのかわいらしさが楽しいです。ラスマンの絵本の魅力はなんたって、絵がおしゃべりなところ。ページをめくる度に、あら、こんなところで、こんなことしてる、と自分でサブストーリーを見つける喜びがあるのです。
そういえば、それって絵本の楽しみ方の基本でしたっけね。

○くさいくさいチーズぼうや&たくさんのおとぼけ話(93オナー)(ジョン・シェスカ文 レイン・スミス絵 青山 南訳 ほるぷ出版 
「3びきのぶたのほんとうのお話」(岩波書店)で初めて手にとったシェスカとレイン・スミスのコンビにはびっくりさせられました。おなじみの昔話をこんなにもポップでいかした話に変身させるとは……。そのコンビの第2作目が本作です。「しょうがぱんぼうや」や「あかずきんちゃん」が「くさいくさいチーズぼうや」や「赤たんパンちゃん」に。「カエルの王子」はいつまでたってもカエルのままだし,「ちいさなあかいめんどり」は自分のお話を入れてもらえずに、文句ばかりいっている。いじわるで、すっとぼけていて、クール。スミスのイラストも、デザインも、これでもかというほど凝っていて、二人のしてやったりという顔が透けて見えそうなくらい。スミスの画風の亜流イラストレーターが増えるきっかけとなった作品といえるでしょう。オーソドックスでおとなしい感じのコルデコット賞選考が少し変わってきたかなと感じた時期の1冊です。

○エイラトさんのへんしんのうじょう(90オナー)(ロイス・エイラトさく なかがわ もとこやく 出版:偕成社 1998)
丸、三角、四角、ひし形、だ円形などを型抜きしたページをただ重ね合わせただけで、動物の顔ができてしまうという仕掛け絵本。これを見つけた時は「へえー」と感心してしまいました。単純な形そのものを、動物の顔に見立てることは幼児に向けてよくされるけれど、形を重ね合わせ、型抜きしたページの中の色まで計算して(重なった時に見えることで、動物の顔に表情をつけている)作っているのは、初めて見たから。
デザインから絵本の世界に入ってくる人は何人もいます。レオ・レオニ、ポール・ランドなどはストーリーに重きを置いているし、イエラ・マリ、ブルーノ・ムナーリなどは物事の見方にゆさぶりをかけるのが楽しいみたい。エイラトもムナーリ派(?)といっていいかもしれません。


○かあさんのいす(83オナー)(ベラ B.ウィリアムズ作・絵 佐野 洋子訳 出版:あかね書房 1984)
ベラ・B・ウィリアムズの絵はあったかくて、見ているとしあわせな感じがします。登場人物たちがささやかだけど大切なものをしっかり持ってくらしているのが、絵からじんわりと伝わってくるから。キーツが絵本でマイノリティの男の子を初めて主人公にしたといわれていますが、70年代後半から80年代はそれをかなり意識した絵本が多くなっていたようにわたしは感じていました。そんな中でウィリアムズの描く絵本世界の、声高でない、市井の人のたくましさ、けなげさが新鮮でした。こういう絵本をきちんと評価しているのがいいなあと思います。「かあさんのいす」はスパニッシュ系(かな?)の女の子と家族の話です。この家族はのちに作者によって何作も描きつがれることになるのですが、その第1話として、家が火事で燃えてしまい、小さなアパートで暮らすことになったところからはじまります。ウェートレスの仕事で疲れてかえってくるおかあさんに、ふかふかの大きなすてきないすを買ってあげたいと願う女の子とおばあちゃんのきもちがいじらしい。ラストで手に入ったいすが、ほんとにすてきなんですよ。

○にぐるまひいて(80コルデコット)(ドナルド・ホールぶん バーバラ・クーニーえ もき かずこやく 出版:ほるぷ出版 1980)
コルデコット賞らしい絵本といえば、わたしはこの1冊を挙げます。アメリカの開拓民の暮らしを思わせる質実なストーリーと絵がアメリカの絵本賞であるこの賞の姿勢をよく表わしているように思えるのです。クーニーは本作とともに「チャンティクリアときつね」(1956年/この年のオナーは八島太郎の「あまがさ」とセンダックのイラストの「こんなとき なんていう?」の2作。作家の活躍の重なりがおもしろい)で2度コルデコット賞を受賞しています。これを超えるのはマーシャ・ブラウンの3回くらいではないかしら。後年のクーニーが残した女性の生き方をまっすぐにとらえた絵本が、幾度も候補に上がりながらオナーすらとらなかったことを思うと少し複雑な気持ちがします。。
本作は自分たちで作物を植え、収穫したものや織ったり、作ったりしたものを街に売りに行くというある家族の1年を古き良きアメリカの風俗を交えながら描いたものです。地に足のついた暮らしというのはこういうことなんだなあとこの本を開く度にしみじみしてしまいます。

○まよなかのだいどころ(71オナー)
センダックといえば「かいじゅうたちのいるところ」(1964年コルデコット賞。その時のオナーはレオ・レオニの「スイミー」)ですが、わたしはこちらをお勧めしたい。センダックのお茶目でキャラクター好きな嗜好が1番よくでている絵本だから。刊行当時、主人公の男の子が全裸になってパンの練り粉の中に入るシーンが話題になったというのが時代を感じさせるでしょう?
ぼくが寝た後の街はいったいどうなっているんだろう。パンはいつ焼かれているんだろう。
絵本の定番ともいえそうな発想が、センダックの手にかかると、こんなにキッチュで猥雑で不思議な体温を持った世界になってしまう。1982年にも「まどのむこうのそのまたむこう」でオナーを受賞しているけれど、わたしはそれ以前の彼の軽味や冗談めいたタッチが好き。
変に精神分析されない、したたかさのある絵だから。

○わたしとあそんで(56オナー)
エッツの絵本はどれもいいし、コルデコット賞もオナーもほかにとっているんだけど、わたしはこの表紙のクリーム色にひかれて、「わたしとあそんで」をお勧めします。いろんな動物とともだちになりたいのに、女の子が近づいていくとみんな逃げてしまう。女の子が池のそばの石に、音をたてずにこしかけていると、逃げていったばったやかめやかえるがもどってきて……。
じっとしている、動きのない絵本ですが、エッツらしく、言葉少なで、だからこそ子どもの心の動きがよく見えるんだなあといつもしみじみしてしまうのです。
50年代のコルデコット賞を見てみると、「マドレーヌ」のベーメルマンス、「はなをくんくん」のマーク・サイモント、マーシャ・ブラウンの「シンデレラ」、マックロスキー、八島太郎などが何度も顔をだし、センダックも新進イラストレーターとして注目されていました。アメリカ絵本黄金期といわれるほど、時代と絵本表現がうまく合った幸せな時期だったんだなあとわかります。

○あらしのひ(53オナー)
絵本作家であり、敏腕編集者でもあるシャーロット・ゾロトウと「どろんこハリー」でおなじみのグレアムの絵本。この本の特徴は、見開きいっぱいの絵の後に、文章がまた、見開き分(2ページ)入るという形式です。まさに紙芝居のように、いや芝居の一幕のように1回1回のシーンを強く印象づけています。ゾロトウの端正な文章を聞いた後、グレアムのリズミカルなイラストをじっくりと<よむ>。あまり類をみない絵本の構成ですが、本作にはとてもあっているように思います。ゾロトウの編集者としての力量が感じられる1冊ですね。
男の子が窓から外の景色を眺めながら、おかあさんにいろいろと問いかけるのはゾロトウのひとつの絵本の創作スタイル。「かぜはどこへいくの?」「こうえんの1にち」などと雰囲気が似ています。
単にいろんな騒動がおこるのではなく、自然と人の営みと毎日の愛おしさをラストに感じさせるところがいいなあと思います。