高校生のための批評入門

筑摩書房



           
         
         
         
         
         
         
     
 たとえてみれば、大皿に盛った種々様々のオードブルといったところ。収められている五一編のどれもがきわめて美味、それでいて食べるとさらに食欲がわいてきて、もうひとつ、もうひとつとつまむうちに最後まで読みきり、ついには気にいった著者の作品を買いに本屋に飛びこみたくなる、そういった本である。ここにまとめられた刺激的な作品群は『高校生のための批評入門』という押しつけがましいタイトルを見事に裏切って、楽しい。題名でその本を判断してはいけないという見本のような本だ。
 内容は、S・ソンタグや竹内好などのかたい批評から、水木しげるや宮城まり子などのエッセイ、そしてチャップリンの『独裁者』の結びの演説やカフカの短編小説、はては手塚治虫とジュディ・オングの対談まで、むちゃくちゃバラエティにとんでいる。それでいて、全体として一本筋が通っているところがすばらしい。どれをとっても、作者の姿勢、生きかた、ユニークな見方が、あざやかに浮かびあがってくるものばかりなのだ。この本の編集者にはひたすら感謝あるのみ。
 しかし「思索への扉」とかいう、いかにも批評を勉強しましょうといった感じの、付録の手引き書は食欲減退剤。そのぶん、ほかの作品をのせてもらいたかった。 最後に、現国の教師の方々へ。この本を授業や受験対策に使うような不粋なまねは、かたくつつしんでいただきたい。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席