吸血鬼の花よめ

八百坂洋子編訳/高森登志夫絵
福音館書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 標題作をふくむ十二編のブルガリアの昔話がおさめられている。といっても、むこうで出た昔話集をそっくり翻訳した、というのではない。ブルガリアの現代作家による再話のほか、訳者自らが直接話者から採録したものも三話ふくまれている。
 そういう本の作り方自体が、ブルガリアの昔話に寄せる訳者のなみなみならぬ思いのほどを示しているが、訳文もなめらかで、むずかしい語句を上手にさけ、子どもがひとりで読むのにも、おとなが読んでやるのにも具合のいい一冊に仕上がっている。
 昔話というと、翻訳でさえ「地方色」や土俗性を出すためにあやしげな方言を用いることがめずらしくないが、この訳者の姿勢は、現代の再話のあり方に一石を投ずるものであろう。評者は、これを支持する。
 東西文化の接点であったブルガリアの、とりわけ民族的色彩の濃いものを選んだということだが、いのちを助けられたトカゲやヘビが恩返しをしてくれる話、カメのお嫁さんをもらった若ものが、若妻の魔法の力で幸せになる話など、物語が大きく展開していくおもしろさに、日本の子どもたちもつい引きこまれるだろう。
 「ふしあわせさん」「スモモ売り」といった短いものも、昔の人たちの深い知恵を伝え、教訓臭をみごとに消し去っている。(斎藤次郎)

産経新聞 1996/07/12