ジャイアント・ベイビー

アラン・アルバーグ作 フリッツ・ウェグナー絵

井辻朱美訳  講談社 1996


           
         
         
         
         
         
         
    
 「むかしむかし、テレビが発明されるまえ、車がトランプの家みたいなかっこうで、飛行機は木でできていたころ」アリス・ヒックスという女の子が弟か妹をほしがっていた。そんなある夜のこと、大きな音がして家が揺れ、やがてその音が消えると、なんと家の玄関にばかでかい赤ちゃんが置き去りになっていた。
 このジャイアント・ベイビーをお父さんは町の福祉課にひきとってもらおうとするのだが、町で興行中のサーカスはだし物にほしがり、拒否されると夜中に赤ん坊を誘拐する。だが気づいたアリスがこっそりとりかえし、近所の菜園に隠して、友人の子どもたちといっしょにひそかに面倒をみる。だが、つぎには、政府の許可を得た科学者がこの不思議な赤ん坊を実験室に連れていき、さまざまな調査をはじめる。子どもたちは、また、とりかえしにかかる。巨大な赤ん坊をめぐって畳みかけるように相次ぐ事件が、目まぐるしいほどに読者をひきまわして退屈させない。
 赤ちゃんの正体はついにわからないのだが、迎えに来た母親とともに、人々に強い印象を残して去ってしまう(この部分のなぞが余韻を生んでとてもよい)。古典的な人間味にあふれていながら、スピーディな展開は今日的。ただ「すこしむかし」と今の間に、描写のきめが荒いために埋まらないみぞがあって、やや興をそぐ。(神宮輝夫)
産経新聞 1996/