サイレントビート
夜明けまでにつたえたいのは

泉 啓子・作
ポプラ社 1997.6

           
         
         
         
         
         
         
     
                   
 自由な校風、真に豊かな人間性を培う教育をとかかげる全寮制の新生学院。しかしその寮生活の水面下には、ケンカ、リンチ、カツアゲの横行する「ジャングルの弱肉強食のような世界」があった。
 夜明け前、タクシーにはねられて誠が死んだ。小柄で気弱で、いつも誰かの嘲笑の的にされてしまう誠。そんな自分を変えようと岡崎達不良グループに入るが、ここでも誰かのイライラのはけ口としての役割を負わされ、ついにはリンチまでも受けてしまう。
 しばられていた誠の縄をといたのは同室の雄一だった。雄一は、わずらわしい人間関係を避け、常に面倒なことには関わらぬよう、注意を払って来たのに、何故か誠の縄をといてしまった。ひょっとして誠が死んだのは自分のせいではないかとおびえる。
 学校側は不幸な交通事故として処理し、誠の死を無視したが、寮の中では再び、雄一をターゲットにいじめが行われようとしていた。
 「おれたち、もう…永久に、いいわけ続けるわけ、いかないんだ。誠にも、じぶんにも…」
 佐伯光、弓倉晶、杉野香江ら主人公の子ども達が、それぞれの内側の問題を抱えながらも、誠の死を自らに問い、何とかたぐれる糸口から状況を変えて行こうと動きはじめる。
 この作品は作者自身の全寮制の学校での教員生活という体験から生まれた作品であり、その時作者が得たであろう、子どもの力を信じる目や徹底的に子どもの側に立った視線というものが絶えず物語の底を流れている。
 ただ、大人と子どもの共感といったものがほとんど描かれず、大人は痛烈に批判的に描かれていて、それは作者が特に意識してのことなのか。だとすれば、この物語は大人に告ぐ、警鐘の物語、のような気がしてならない。(奥田清子
読書会てつぼう:発行 1999/01/28