精霊の守り人

上橋 菜穂子・作
偕成社 1996.7

           
         
         
         
         
         
         
     

 百年に一度卵を産む精霊(水の守り手―ニュンガ・ロ・イム)に卵を産みつけられ精霊の守り人(ニュンガ・ロ・チャガ)という運命を背負わされた新ヨゴ皇国の第二王子チャグム。彼は、精霊に卵を産みつけられたことにより、自分の父親から命を狙われるようになる。皇族であるなら何者かに卵を産み落とされることはないと。そこでチャグムの母は、彼の命を救うべく短刀使い・女用心棒バルサに自分の子を託す。
 そして、チャグムとバルサの逃亡生活ははじまる。呪術師トロガイとトロガイの弟子で薬草使いのタンダの協力により、次第にチャグムに宿ったものが明らかになっていく。無事に卵を産み落とすことが出来なければチャグムが死んでしまう。そのため、体内に宿った卵を卵食い(ラルンガ)から守らなければならないのだ。
 新ヨゴ皇国建国の歴史に隠されていた事実と先住民ヤクーの精霊伝説が解き明かされた後、チャグムの体内から無事卵が産み落とされる。そして再びチャグムは皇太子として宮に戻ることができる。
 上橋菜穂子の前作品「精霊の木」「月の森にカミよ眠れ」とともに、架空古代もしくは未来国家を描いたファンタジーは、伝説・伝承の要素をふまえながら少数者としての先住民の歴史と現在を描いている。善悪二元論には集約できない、生き残っている少数者の信仰・精霊と文明社会。文化人類学者としての作者が、それらの文化の変容を研究、そして体感したことを礎に作品の中で独自の世界を生み出している。(近藤 久巴美)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28