だまされたトッケビ

神谷丹路 編・訳
チョン スンガク 絵 福音館書店

           
         
         
         
         
         
         
    

 千年紀の終わりの年を迎えました。新しい世紀に向けて、二〇世紀の轍を踏まず、平和な世界を子どもたちに手渡すため、最大限の努力が必要とされています。それにもかかわらず、過去の歴史も含めて、真の隣人たちとの文化的な交流と、おたがいの理解が、あまりにもないがしろにされているように思われます。
 そんな中で、韓国の人びとに親しまれてきた<お化け>のトッケビのお話が、心をこめて出版されました。民衆の心の中から生まれた不思議な存在たちは、世界中どの風土にも見られますが、かれらがハイ・テクノロジーの中に消えていく時、人間の心の豊かさもまた消えていくのでしょう。そしてこうした存在を知ることは、荒廃を防ぐ手だてともなります。
 トッケビは魔法の力を持ち、人間にいたずらをしたり、富をもたらしてくれたりしますが、すもうを取ったりして遊ぶのが大好きという天真爛漫なところや、ちょっと間抜けなところもあります。
 「鬼」や「妖怪」とも異なり、人間が好きで、暮らしのそばに出没する愛すべきキャラクターです。
 十五話の中には日本の昔話と似たものもあり、興味は尽きません。
トッケビの話を集めて編んだ訳文もとても読みやすく、また韓国の画家によるカットの一つ一つがすばらしく、伝統文化を知る上でも役に立ちます。さまざまなイメージのあるトッケビですが、ここに描かれているのは、タルチュム(仮面踊り)に出てくるような、親しみやすくユーモラスな姿です。
韓国の文化に惹かれ、韓国語を学んできた私にとって、こうした出版はほんとうに嬉しいことでした。今年は日本の「子ども読書年」とされ、国立子ども図書館も(ようやく)一部オープンしますが、この機会に、特に中国、韓国などアジアの子どもの本の交流が深まることを願わずにはいられません。(きどのりこ
『こころの友』2000.01