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![]() ノーバディへあてたへレンの初めての手紙。「わたしをほうっておいて。あなたなんかいらない。出てって。おねがい、どうか、出ていって」 故意に流産しようと無茶さえしたへレンでしたが、新しい生命が 確実に育っているという実感と自分の将来がたやすいものではなくなってしまったという現実-すべてをまっすぐに見つめ、ノーバディを受けとめていきます。 一方妊娠を告げられたクリスは、若い実直な真摯さでへレンを引き受けようとするのですが、何をやっても、すべてが裏目にでるばかり。 ひとり大人になっていくへレンを理解し包み込むには若すぎるクリスのとまどいと、新しい生命の輝き、そして、受検を目前に控え、将来の岐路に立つ二人それぞれの思い、行動を、章ごとにたくみに構成し、読む者をそらしません。 この物語に厚みを加えているのは、しっかりと描かれた、存在感のある大人たちです。過去を背負って生きている大人たちが若い二人にいう言葉は、決して一様ではありませんし、態度もさまざまです。けれどもみな、若い二人のことを心から考え、正直に二人と話をします。脇役のしっかりした、優れた映画を見ている時のような安心感を与えてくれます。 読後に私の頭に浮かんだイメージ、それはまばゆい光でした。未来へと続く、明るい光です。ノーバディが生まれ、へレンがつけた名前は、エイミー-愛されし者、もしくは友だちといういう意味のこの名前が、命をいとおしむ優しさ、ひいては、この本のテーマを象徴しているように思えてなりません。 十代の妊娠というセンセーショナルな話題を扱ってはいますが、優れたヤングアダルト向きの読み物としておすすめしたい一冊です。(米田佳代子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい1996/11,12
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