毒薬と老嬢

ジョセフ・ケッセルリング

黒田絵美子訳・新水社 1987

           
         
         
         
         
         
         
     
 現在ブロードウェイでロングランのジョセフ・ケッセルリングの芝居『毒薬と老嬢』は、無条件に面白い。
 劇評家のモーティマーは、ふたりのおばアビーとマーサの家の居間で死体を発見した。青ざめた顔でたずねるモーティマーに、おばたちは、あたしたちの趣味なの、と答える。心やさしい老嬢たちは、身寄りのない老人を楽にして、手厚く埋葬してさしあげるという一風変わった慈善にいそしんでいたのだ。モーティマーは、その無邪気さにあきれながらも、死体をなんとかしようと思うが、そこへ久しぶりにモーティマーの兄がもどってきた。それも相棒の外科医と死体を連れて…… 
 このもつれっ話は、まだまだもつれるが、最後は見事にきまる。会話のはしばしからほとばしるユーモアとウィットも抜群で、とくにおばあちゃまふたりのとぼけた味が印象的。訳も最高にしゃれている。 
◆ マーサ・・ぼけ酒二リットルに対して砒素を茶さじ一杯、キニーネ茶さじ二分の一、かくし味に青酸カリを少々。 モーティマー・・(感心して)そりゃ効くなあ。 アビー・・効きますとも!飲んでからしゃべったのは今までにたった一人。それも一言、「おいしい!」って。
◆ミステリーファンと芝居好きには必読の一冊。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/09/06