タートル・ストーリー

樋口千重子

理論社 1997

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 アメリカの少年が主人公で、ニューヨークの郊外を舞台にし、装丁も英文タイトルの方が和文よりも数倍大きいから、てっきり翻訳作品かと思ったらそうじゃない。第一回児童文学ファンタジー大賞佳作受賞作家の、フレッシュなデビュー作である。
 デイビッドは、三年生を飛び越していきなり四年生に飛び級し、それでも成績がトップクラスだったために年上のクラスメートたちの反感をかって、学校では孤立していた。そんな彼に話しかけてきたのが、体長六十センチもある亀吉という大きなタートルを飼っている日本人の少年マモルだった。マモルは両親の都合で急に日本に帰ることになり、亀吉をデイビッドに預けていく。せっかく友達ができたのに、別れなくてはならない辛さに耐えていると、突然タートルが喋り出す。自分はペットなんかじゃない、あなたと対等の友達だという、気位の高い女の子みたいなタートルとデイビッドの奇妙な生活が始まる。朝食は一緒に食べたいと言うし、母の誕生日に家族でマンハッタンのレストランに行くときは連れて行けと執拗に迫るし嫉妬もする。そして家族の目を盗んでセントラルパークに連れ出すと、そこで迷子になってしまうのだ。少年の孤独と喪失感を満たす、ガールフレンドのようなタートルとの出会いと、満月の海での象徴的な別れ。それが、なんともみずみずしく、さわやかで感動的だ。(野上暁
産経新聞、未掲載