食べもの記

森枝卓士:文、写真
福音館書店刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 徳間書店の子どもの本の装丁を多く手がけてくださっているデザイナーの森枝雄司氏が、「兄の本なんだけど、この本のレイアウトとブックデザインをしたんですよ」と言って、一冊の分厚い写真集を見せてくれました。『食べもの記』(福音館書店刊)です。文と写真はお兄さんの卓士氏。
 写真家でジャーナリストでもある森枝卓士氏は、もともとアジアの食に興味を持ち、著作も多いのですが、今回のこの本はアジアを中心にヨーロツパ諸国の食べ物も掲載し、「食べ物+市場+食べ物が作り出される場所」の図鑑的な面白さを持つ本に仕上がっています。
 出張でヨーロッパのブックフェアに行ったり、夏や冬のお休みにアジアの国に旅したりするたびに、食いしん坊の私は、時間を見つけては市場へ行くことにしています。ずらりとならんだめずらしいお菓子や野菜や肉や魚を飽きず眺めて旅の疲れをいやしつつ、今ここに台所があったら、あれとこれを買って料理をしてみたい、とため息をつきます。見るだけじゃなくて、作ってみたい、食べてみたい、思うのです。現地の人と同じ物を食べてはじめて、その国の文化に深く触れた気になる私としては、そのうち宝くじでもあたったら、世界じゅうを旅してまわりたいものだ、と夢をふくらますわけですが、そんな好奇心をますます刺激してくれる面白い本に、すっかり夢中になってしまいました。
 米、パン、麺…主食だけを考えてみても、これほどのヴァリエーションがあるのか、同じアジアの国でも、こんなに違うのか、とか、やっぱり似ているんだ、などなど、一枚一枚の写真についつい見入ってしまいます。こめられたメッセージと情報の多さで、いつまで見ていても飽きない一冊です。
 この本を見たら目を輝かすであろう友人達の顔が、すぐに目に浮かび、三冊ほど注文して友人達に送りました。その中の一人、スウェーデンの友だちは、本が届いた翌日、「なんて面白い本なのかしら。日本語が読めなくて残念! でも、こんなにすばらしい本を作ってくれたお礼を直接言いたいから著者に手紙を書くわ」と、すぐにeメールをくれました。
料理が大好きな日本人の友人たちは、「世界にはこんなにいろんな種類の食べ物や食材があるんだなのあ」と目を丸くしました。
そして私は、この本をベッドの脇に置き、仕事で疲れた夜、寝る前にぱっと開いたぺージから写真を見はじめます。見るたびに写真の細部にまで目がいき、あれ、こんなものが…これはなんだろう、と楽しませていただいています。
 もっとも、おなかがすいているときにこの本を開くのは禁物。すいたおなかが刺激されて、ついつい間食してしまいそうです。
 本だけでは残念ながら味まではわかりません。でも、いつかこの市場に行ってみよう! いつか食べにいこう! と食いしん坊の夢は大きく広がるのです。(米田佳代子

徳間書店子どもの本だより2001.07/08
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