ちいさな労働者

写真家ルイス・ハイマンの
目がとらえた子どもたち

ラッセル・フリードマン

千葉茂樹訳/あすなろ書房

           
         
         
         
         
         
         
    
 今回は、一冊の写真集をご紹介しましょう。まず、ゆっくりとぺージをめくってください。白黒の写真の中に、さまざまな年代の子ども達の姿があります。皆、一度しかない「子ども時代」を子どもとしてすごすのではなく、大人と同様に働いていた子ども達です。
 今世紀前半、つまりはたったの五十年から百年ほど前に、現在は富める大国として世界に冠たるアメリカに、間違いなく存在したつの歴史。繁栄の裏側で労働者と して命を削っていた子ども達の姿をある写真家の目を通して映しH した、一つの記録集でもあります。
 いったん写真に目を通したあと、今度は写真家ルイス・ハイマンの生涯と、当時の状況を描き出した文章を読 みながら写真をあたらめて見ていると、当時の過酷な状況に、身を切られる思いがします。
 著者のフリードマン氏、訳者の千葉茂樹氏があとがきで書いているとおり、働く子どもは、未だに全世界中にいます。富める国として世界中の若者達の夢を集める現代アメリカにさえ…。
 産業革命がもたらした変化、とりわけ子ども達が安価で使いやすい労働力として搾取されてきたという事実を、私たちは学校の歴史 の時間で習いますが、どうしても教科書の中の遠い過去の事、知識として覚えるべきことというふうにとらえがちなのではないでしょうか。まさか、私達の親や祖父母の時代に、同じ事が起きていたなんて…いえ、それだけではなく、今まさに世界のあちこちで同じ様な状況におかれた子ども達がたくさんいる…この写真集は、こういった現実を、力強く私達にうったえかけてきてくれます。
 読みやすく適切な文章と訳文、そしてなにより愛情と信頼のこもった目でとらえた、働く子ども達のまっすぐな表情。そこには、美しいと言ってもいい、凝縮された生命が浮かび上がっています。たまたま写真で残された子達一人一人の人生、そして、その裏にすけて見える、写真に撮られなかったもっと多くの子ども達の人生 から、今の私達一人一人がどうしたらいいのか、ということを考えさせてくれます。
 「自分の身の回りの世界から、外の世界、社会の状況に目を向け始める(あるいは、向け始めた) 年代の子ども達」にぜひ、手にとって欲しい本だと思います。
 これは教科書に載っている「むかしばなし」の歴史ではないのだ、現在と、しかも今自分が生きているこの社会と密接につながっている事実なのだということを、この本は語ってくれているのですから。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1998/1,2