地と潮の王

末吉 暁子・作
講談社 1996.2

           
         
         
         
         
         
         
     
 サルという十二、三才の少年が国々をまわる旅芸人の一行と共にアマグニにやってくる。サルが身につけていた祖母の形見の緑の石が彼の出生の謎を解き、実は意外な素性であることがわかる。そこでサルはアマグニの皇女(ひめみこ)の命を受け、カラスのヤタと共に皇女が産んで間もなく海に流したという子を捜す旅に出かける。サルが苦難の末にたどり着くのは海神(わだつみ)の王のいる水底の国であった。果たしてサルは皇女の子を無事に連れ戻すことができるのだろうか。
 作者のあとがきによると「かねがね日本の神話はファンタジーの宝庫だと思っていたが…」とある。同人誌「鬼ヶ島通信」の第六号〜十七号に連載したものを改稿、改題してこの「地と潮の王」は誕生したそうである。
 日本の神話や伝説をもとにこのようにおもしろい物語が生まれたことを率直に喜びたい。冒険譚としてドラマティックに仕上がっていること、物語のスケールの割にほどよくコンパクトな長さであること、環境破壊問題にも目をむけていることなどよく配慮された日本的ファンタジーである。しかも、こむずかしくなりそうなところを絶妙のコントロールでほどほどに留めている感覚が好ましい。大人も子どもも楽しめる一冊である。読後に「古事記」「日本書紀」などに興味をもつ子もいることだろう。
 同じ作者の「雨ふり花さいた」(偕成社)は、東北地方を舞台に座敷童子が登場するタイムトラベルファンタジーである。「地と潮の王」とは趣が異なるが、どちらも日本の伝説や神話、伝承をベースに環境、不登校といった今日的テーマを加味しつつ作者独自の世界を展開する。長編であるが、一気に最後まで読ませる点も共通している。(冨名腰 由美子
読書会てつぼう:発行 1999/01/28