ちずのえほん

サラ・ファネリ作

ほむらひろし訳 フレーベル館 1996

           
         
         
         
         
         
         
    
 お勉強のための地図の絵本は、ウンザリするほどたくさんあるけれども、この絵本はそれらとは全く違う。数年前にボローニャの国際絵本展で、この本のダミーを見せられたときはうなってしまった。作者は、なんでもかんでも地図にしてしまう。「かぞくのちず」「いちにちのちず」「おなかのちず」「こころのちず」「いぬのちず」「かおのちず」。しかもそれぞれの地図に、作者の遊び心が、これでもかこれでもかと言わんばかりにあふれかえっている。鮮やかな色を大胆に配した、この作者独特のデザイン感覚も新鮮だ。 
一枚一枚の地図から、さまざまな物語が立ち上がってくる。主人公はこの地図を描いた「わたし」。ユニークな地図たちを見ていると、主人公である「わたし」の、こまごまとした日常や、人間関係や、夢の数々が、ユーモラスに楽しく読み手に伝わってくる。 
カバーは二つ折りになっていて、広げると新聞紙を開いたくらいの大きな絵地図が現れる。しかもその裏面は、読者が自分だけの地図が描ける仕掛けだ。こんな楽しい地図の絵本を見せられたら、だれだって自分の地図を描いてみたくなる。原書にあるたくさんの欧文の描き文字が、翻訳されるとどうなるかと思ったが、そのデザイン感覚を見事に生かして日本語化されているのには感心した。 (野上 暁)
産経新聞 1996/09/27