とぶ船

ヒルダ・ルイス作
石井桃子訳 岩波書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 これを今、初めて読む人におすすめするのはちょっとね〜、と思います。
 やっぱり少々古いからさ。
 でもこういう、いかにも物語物語〜したのが好きな人……それから昔子どもの頃にこれにはまってた三十代、四十代の人には素晴らしいプレゼントよ。
 岩波の、一九九七年の復刊フェア、に入ってましたから、自分の図書館を調べて、持ってないとこは一冊くらい買っといてもいいでしょう。
 でもって児童図書館員だったら一度くらい読んでね。
 というのはこれは、ひょんなことから時間のあいだを行ったり来たりできる魔法の船(あとでこれは北欧神話に出てくるロキのものだってわかりますが)を手に入れたピーター少年ときょうだいが、イギリス史のなかを行ったり来たりする話で、基本的なイギリス史の流れを覚えるにはとてもいいテキストでもあるからです。
 昔読んだ人もさ、子どもで、よくわかんなかったとこいっぱいあったと思うけど(少なくとも私はあったぞ。というよりイギリスの歴史や小道具のイメージのもとはだいたいこの本かもしれない……石の城、とかタぺストリーとかね)、今読むとぜーんぶわかって楽しいよ。
 安定した上等な物語……くっきリ鮮やかにイメージできる小道具の数々子どもらしくてけなげでマジメでお行儀のいい主人公の子どもたち
という英国の古き佳き黄金の児童文学時代を代表する一冊でしょう。
 読む時は深呼吸して体をラクにして、ストレスは一時棚上げして、少し読むテンポをゆったりさせる……といいと思います。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)