東京スケッチブック

ピート・ハミル

高見浩訳 新潮社 1991

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 おしゃれな表紙にひかれ、思わず手にとってしまった。ピート・ハミル『東京スケッチブック』(高見浩訳、新潮社・1800円)は、日本人とアメリカ人のさまざまなかたちの「愛」を描く十三の短編小説を収めている。
 まずは最初の一編、「有紀子のためのブルース」を読んでみよう。伝説的なビッグスターへのインタビューを任され、緊張と気後れにドキドキしている雑誌の新米スタッフが主人公。ここの描かれる異文化の間のあこがれと思い込み、そしてすれちがいに注がれる著者のまなざしの優しさに、思わずノックアウトされてしまう。
 このハート・ウォーミングな味わい、ハミルが山田洋次郎監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」の原作者と知ると、実にうなずける。
 もうひとつ彼の小説の基調にあるのは、日米関係を歴史的にみるジャーナリストとしての目だ。1945年に始まるアメリカ軍の占領期、そして日本が補給基地となったベトナム戦争。さまざまな登場人物の生の現在に、これらは色濃く影を落としている。
 描かれるのは人間同士の愛ばかりではない。黒沢映画や神田の書店街などを通し、日本文化を偏愛する人々も登場する。でも、彼らが愛した古きよき東京は、今や急速に失われつつある。これからの東京は、異邦人たちからよせられる愛に、はたしてこたえられるのだろうか。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1991/09/22

テキストファイル化 妹尾良子